「イ・ジェミョン・ラリー」
韓国の株式市場に久しぶりに活気が戻り、李在明(イ・ジェミョン)政権の支持率も急上昇している。 「全国民の過半数が株主」という言葉があるほど株式投資が活発な韓国では、株価が政権の支持率にも多大な影響を及ぼしているのだ。最近の活況は保守政権で座礁した「商法改正案」を李在明大統領が後押ししたおかげだ、という評価が出ており、今の上昇相場を指す「イ・ジェミョン・ラリー」という称賛の歌まで作られた。
韓国の株式市場には大型株を中心に構成されたKOSPI指数と中小・ベンチャー企業株中心のKOSDAQ指数がある。KOSPIは日本の日経指数に、KOSDAQはナスダック指数に似ていると考えてもいいだろう。この中で韓国証券市場を代表するKOSPI指数は、コロナパンデミック中の2021年7月6日に「3305ポイント」を記録し、史上最高値を記録した。しかし、その後は下落を繰り返し、「2700ポイント」台でボックス圏を形成して騰落を繰り返した。尹錫悦(ユン・ソンヨル)政権が発足した22年5月には「2500ポイント」台で推移し、23年1月には「2100ポイント」まで急落するなど、尹錫悦政権の間ずっと3000ポイントを下回り、遅々として回復が進まない動きを見せた。
低迷する株価は尹錫悦政権に対する支持率にも反映した。 韓国国民が尹錫悦政権を支持しない理由として「経済と民生」が重要な理由の一つに挙げられていたが、具体的には暴騰する物価と回復しない株価が政権支持率に悪影響を及ぼしたのだ。
韓国国内投資家の証券関連預託と決済業務を担当する韓国預託決済院(KSD=日本の証券保管振替機構〔JASDEC〕に該当する)によると、2022年末基準で韓国の株式投資人口は約1400万人だ。韓国の全人口が5175万人程度なので、新生児まで含めた韓国人全体の約36%が株式投資をしているということになる。経済活動人口が2880万人程度だから、働く韓国人2人に1人が株式をやっているともいえるだろう。このため、韓国人は2、3人集まれば、どこでも株の話に花を咲かせ、選挙シーズンになれば、「政治家テーマ株」(特定政治家と縁のある銘柄)が急騰する。大統領選挙と総選挙などの国政選挙でも投資家の票を得るための「株式市場対策」は必須だ。
忠実義務を「会社」から「会社および株主」へ
李在明大統領も大統領候補時代に、投資家の支持を得るための選挙公約として「KOSPI 5000時代」をスローガンとする商法改正案を掲げた。核心となる内容は次の3つだ。
まず、取締役会の忠実義務の対象を「会社」から「会社および株主」へ拡大するようにした。これは小口株主保護および経営透明化のためのもので、過去には株主利益に反した理事会の決定でも「会社のために」という言い訳で責任回避可能だったものを、これからは株主が理事会決定を訴訟にかけられるようにする仕組みを用意したのだ。
2番目は、現場参加が原則だった株主総会について「電子株主総会を並行する」よう義務付け、より多くの株主が意思決定過程に直接参加できるようにする仕組みを作った。株主民主主義の強化を通じて企業経営の透明性と公正性を確保しようとする目的だ。
3番目は監査委員選出時、大株主議決権を特殊関係人(親戚など)まで含めて3%に限定する、いわゆる「3%ルール」だ。これは、大株主と経営陣に対する監査委員の監視機能を強化し、支配構造の透明性を高めることを目的としている。
このような内容を骨子とする商法改正案は、企業支配の構造の透明性を高め、小口株主の利益を極大化することで、外国人投資家をはじめとする投資家に韓国企業の株式に対する魅力を感じさせ、韓国証券市場を活性化させることが目的だ。だが、財界では「経営陣の自由な経営権を阻害するおそれがある」という憂慮を尹錫悦政権に伝達し、保守政権である尹錫悦政権は商法改正案を継続拒否してきた。これが、李在明政権が誕生すると商法改正案通過に対する期待が高まり、株価に反映された。
大企業の支配構造改善、か?
李在明政権が発足して2週間後の6月20日、KOSPI指数は3年6ヵ月ぶりに3000ポイント台を突破した。戒厳令事件以後、尹大統領弾劾をめぐる社会の混乱と米国発相互関税の衝撃で、今年4月初めに2300ポイントまで下がった時点と比較すると、わずか3ヵ月で31%も急騰した。その後、KOSPIは3100ポイント台で安定しており、今や韓国証券界では李大統領が選挙公約で語ったように「KOSPI 5000も不可能ではない」という期待が膨らんでいる。
新政権に対する支持率も株価と同じくらい急騰している。就任1週目に実施された電話面接世論調査では53%だった支持率が、就任4週後には65%まで上がった。中道層の参加が低調で、積極的な支持層の参加が目立つARS(自動回答)世論調査では、すでに70%台まで支持率が上昇している。 30~60代の支持率上昇が目立つと分析されているが、この世代こそ「経済活動人口」で財テクに最も関心が高い階層だ。
これをよく知っている「共に民主党」と李在明政権は、従来の改正案よりはるかに強力な商法改正案を提出した。商法改正案のためのTF(タスクフォース)である「KOSPI 5000特別委員会」は、既存の野党と合意された改正内容に集中投票制と自社株償却義務化などを一方的に付加した。「集中投票制」とは、選任する理事の数だけ議決権を特定候補に集中させる制度だ。例えば、取締役3人を選ぶ時は、1株を持っている株主は従来ならば3人の候補にそれぞれ1票づつ投票していたが、3票を同時に1人の候補へ集中させることができるようにしたのだ。小口株主の決定権限を増やすのが目的だ。「自社株償却の義務化」とは、自社株を買い取れば1年以内に原則的に償却しなければならないという内容だ。大株主や経営陣の自社株買い取りの誤用・乱用対策という意図だ。
新しい商法改正案は、一般国民にとっては喜ばしい政策だが、韓国財界には命の瀬戸際に立たされるような危機感をもたらしている。経営陣の立場では、私募ファンドが小口株主と手を組んで経営権を乗っ取ろうとする時に防御できる方法が消えてしまうためだ。そのため、財界は経営権を防御できる保安立法を要求しているが、容易ではなさそうだ。進歩政権の核心支持勢力である市民団体が、「大株主=経営陣」である韓国の大企業の支配構造改善を要求しているためだ。また、城南市長時代から「財閥解体」という長年の公約を掲げてきた李在明大統領としても、大企業の支配構造改善は宿願であるわけだ。
トランプ大統領が起こした関税戦争が行き詰まる状況の中で、生存のためにもがいている韓国の大企業は、李在明進歩政権の商法改正案によってますます厳しい環境に陥っているといえるのだろう。
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