「トリプルボギー不倫」からの再出発
国内女子ゴルフツアー通算5勝の川崎春花が、少しずつ、でも確かに感覚を取り戻しつつある。
先週の「資生堂・JALレディス」では、通算3アンダーで11位タイ。4日間をすべてアンダーパーで回り、今季自己最高の成績で大会を終えた。連日の30度超えの猛暑のなか、それだけでも大きな収穫だった。ショットのキレやマネジメントもほんの少しずつではあるが、あの頃の自分に近づいてきている――そんな印象を受けた。
今シーズン、川崎は開幕戦から姿を消していた。きっかけは3月、「週刊文春」が報じた“トリプルボギー不倫”と呼ばれた出来事。既婚者の男性キャディー(栗永遼)との関係を含むスキャンダルに3人の女子プロの名前が並び、そのひとりに川崎の名もあった。
報道後、阿部未悠、小林夢果の2人はすぐにツアーに戻ったが、川崎だけは試合に出てこなかった。5試合の欠場。そして4月の「KKT杯バンテリンレディス」でようやく復帰を果たした。マネジメント事務所を通じて謝罪コメントを出し、試合会場では報道陣を前に言葉を詰まらせながら頭を下げた。目には涙もあった。
その後、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)は関係した男性キャディーに対し9年間のツアー出入り禁止、選手3人には厳重注意の処分を下した。
当然、心身ともにコンディションは整わなかった。十分な練習はできず、試合勘もままならない。ツアー会場に立ってもファンや周囲の視線が気にならないはずがない。精神的にゴルフに集中できるような状態ではなかったはずだ。それでも彼女は戻ってきた。プロゴルファーとしてゴルフで結果を出すしかないと、自分に言い聞かせるように――。
「今は毎日がゴルフなんです」
先週の大会期間中、川崎に少し話を聞くことができた。
「今はまだ調子が良かったり悪かったり。全体的に悪くなる部分の傾向は一緒なので、そこを早く修正できれば、という感じです」
今はとにかく感覚を取り戻す作業に集中しているという。
「ショットにブレがあります。少し左にいきやすいんです。スイングしたときに上半身と下半身が一緒に動いてしまって、ミスショットになる。だから今は、上半身と下半身にしっかり捻転差をつける意識を持ってやっています」
今季のデータを見ると、フェアウェイキープ率は61.90%で75位、パーオン率は63.13%で67位。ドライバーもアイアンもまだまだ精度は戻りきっていない。
それでも「資生堂・JALレディス」だけを見れば、フェアウェイキープ率は全体2位、パーオン率も全体9位。数字の上でも復調の兆しが見え始めている。
「今は毎日がゴルフなんです。オフって言えるオフは、本当にないんですよ」
川崎はそう言って、少し笑った。
「4日間の試合が終わったら、月曜には次の試合会場に移動して、もうラウンドしています。最近はとくに暑いので、午前中にラウンドしたら午後は体を休めるようにしています。そうしているうちに、ちょっとずつ感覚が戻ってきている気がします」
「今は結果にこだわらない」
焦らず、一歩ずつ。ただ、コースでの姿は明らかに変わってきている。安定して上位に入ることができれば、その先にあるのは優勝。
そう聞いてみると、川崎は小さく首を横に振った。
「いまは結果にこだわっていないんです。とにかく感覚を取り戻したいっていう気持ちが強くて。1日の内容をよくしていけば、それが結果にもつながるはず。そう思って今は日々の練習に取り組んでいます」
2022年のルーキーイヤーには、メジャー大会を含む2勝。翌年は3勝。川崎春花のポテンシャルはすでに十分に証明されている。それでも本人はいたって冷静だ。
「実力的には、まだまだ足りないところが多いと思っています。だからこそ、しっかり足元を見て、一歩ずつ頑張っていきたい。優勝は簡単にできるもんじゃないので。そこにたどりつくために、コツコツやっていきます」
真剣な表情の中にも少しずつ笑顔が戻ってきた。だが、その笑顔はまだほんの少しぎこちない。それでももう一度、自分を信じ、一歩ずつ前へ歩き始めている。