「お金が貯まる人」の家計はじつはシンプル。いくらお得な商品、制度であっても「たくさんやりすぎる」のは逆効果です。前編記事では預金、保険、NISAなどで口座を26個も持つことになった30代夫婦について紹介しました。
この夫婦に伝えた、シンプルな家計を作るための3つの重要ポイントとは? 1級ファイナンシャル・プランニング技能士で、『一度始めたらどんどん貯まる 夫婦貯金 年150万円の法則』著者・磯山裕樹さんが事例をもとに解説します。
家計を見たら、夫婦でなんと26口座!
ある日、私のもとに相談に来られた30代のご夫婦。
・今回登場する夫婦の家族と家計
家族構成:30代夫婦、子ども3人(小学生と保育園児)
収入:ご主人600万円(会社員)・奥さま400万円(会社員)
貯蓄額:500万円
ご夫婦の家計を見てみると、以下の26の口座を所有していました。
・普通預金(普段使い) 夫婦で4口座
・普通預金(自動車ローンと住宅ローンの支払い) 夫婦で2口座
・定期預金(旅行資金) 1口座
・貯蓄保険(教育資金) 円建て、外貨建て、変額の3種類、3人の子どもで計9つ
・貯蓄保険(老後資金) 円建て、変額の2種類の個人年金保険、夫婦で計4つ
・終身保険(葬式代) 夫婦で2つ
・NISA 夫婦で2口座
・iDeCo(老後資金) 夫婦で2口座
「たくさんやりすぎ」よりも、シンプルな家計を
定期預金、保険、iDeCoやNISAの毎月の積み立て額を合計すると約10万円です。20口座に分けて10万円を貯蓄しており、1口座あたりの平均は5000円です。これだけ、お金を貯める口座を分けることに意味はあるのでしょうか?
このご夫婦の問題点は、「たくさんやりすぎている」ことです。色々な保険、たくさんの口座を所有、金融商品を複数購入など、やりすぎていることで、うまくいっていません。
お金が貯まる人は、より少なく、より良く、シンプルな家計を作っています。ここからは、シンプルな家計を作るための3つの重要ポイントについてお伝えします。
ポイント1 「一部の商品」ではなく、「家計全体」で判断する
お金のプロに聞く「おすすめ商品」とはどういう商品のことでしょうか?
相談者に利益がある商品を教えてくれると思っている人もいるかと思いますが、多くの場合そうではありません。
「おすすめ」を聞くと、販売者が売りたい「おすすめ」商品を買ってしまいます。販売者の利益にならない方法は教えてもらえません。
たとえば、ご夫婦は自動車ローンで金利約5%を支払いながら、年利回り0.5%前後の円建ての学資保険や個人年金保険の支払いをしています。家計全体から判断すると、貯蓄保険に支払うお金を自動車ローンの返済にあてたほうがいいですよね。ただ、この提案をしてしまうと、保険が売れず手数料を得ることができないので、その提案はされていません。
家計の中の保険という一部を見て「おすすめ」を提案されてしまいます。一部ではなく、全体から判断することが大切です。
無料でいい情報を教えてくれる人なんていないと思いましょう。情報をもってきてくれる訪問営業、チラシ、電話、セミナーに参加してしまう前に自分で調べて、必要があれば、基礎知識を勉強したうえで専門家に相談することが重要です。
今回のご相談で、円建ての子どもの学資保険、老後のための個人年金保険を解約して、その解約金で自動車ローンを返済することとしました。
ポイント2 目的別にお金を分けすぎない
磯山「なぜ、葬式代を保険で用意しているのですか?」
奥さま「葬式用、学資用、老後用と目的別にお金を貯めると管理しやすいと思って……」
100歳まであと約70年もあります。70年後の葬式代はいくら必要なのか? そもそも、現代の葬式という形態がまだあるのか? 遠い将来は誰にもわかりません。いくらかかるかわからない、あるかどうかもわからない、70年後のお金を今から用意する必要はあるのでしょうか?
子どもの大学資金として貯めていた学資保険を子どもの中学受験に使うかもしれません。60歳以降の老後の資金を目的に貯めているお金を、50代の起業資金として使うかもしれません。亡くなったときの葬式代として貯めている終身保険を、亡くなる前の老人ホームに使うかもしれません。
目的が変わる、使う時期が変わることはよくあります。目的別に分けすぎることで、逆に使いたい時に使えない状況を生んでしまう可能性があります。目的別に商品を買うことが貯める上で重要だと思い込んでしまいがちですが、実際はそうではありません。
目的別に貯める箱を分けると貯めている感がありますが、そのたびに商品が増えて、家計がごちゃごちゃになってしまいます。これでは、今お金がいくらあるのか、ぱっと見てわかりません。調べるだけで一苦労です。
目的別のお金を整理したら、「お金の不安を感じる必要はなかった」なんて話はよくあります。お金の不安を感じる必要はなかったとしても、家計全体が見えていないので、「なんとなくの不安」が拭えず、もったいない時間を過ごしていることになります。
「葬式代としてこの保険、子どもの学費としてこの保険、老後のお金としてこの保険、保険会社の人のおすすめされるがまま、疑いなく入っていました」と言われ、葬式代としての終身保険を解約されました。
ポイント3 お金を貯める「箱」を厳選する
磯山「なぜ、保険と証券口座(NISAやiDeCo)で分けてお金を貯めているのですか?」
ご主人「生命保険、iDeCoやNISAの税金のメリットがどれも使えてお得だからです」
確かにどの税金のメリットも受けることができますが、自分にとって一番有利な箱を厳選することが重要です。たとえば、老後のお金については、個人年金保険よりiDeCoでお金を貯めるほうが節税できます。
所得税率10%の人が毎月2万円積立した場合で比較してみましょう。
個人年金保険料控除の限度額は、所得税4万円、住民税2.8万円なので、節税額は所得税4万円×10%、住民税2.8万円×10%、計6,800円です。
一方、iDeCoの場合は全額所得控除になるので、24万円×20%(所得税10%+住民税10%)で48,000円の節税効果です。老後のお金を貯めるのであれば、iDeCoを優先したほうがいいですね。
奥さま「投資は保険会社に任せたほうが安心ではないですか?」
磯山「今、ご夫婦は保険会社の変額保険という箱で全世界株式、証券会社のNISAの箱でも全世界株式を購入しています。箱の中身は同じです。」
投資をするのではあれば、コストをかけて保険会社を通して投資をするのではなく、NISAやiDeCoを活用して、直接、投資をするほうが有利です。また、新NISAでは、利益に対して税金がかからない枠が1800万円あります。
ご夫婦は、貯蓄保険をすべて解約して、老後のお金はiDeCoで、投資をするお金はiDeCoやNISAなど証券口座を活用することにしました。
ここまでシンプルな家計に
ご相談後、家計は次のようになりました。
・普通預金(日常使い) 計4口座
・普通預金(お金を貯める口座:学資資金の一部や旅行のお金) 1口座
・普通預金(住宅ローンの支払い口座) 夫婦で2口座 ※自動車ローンは完済
・NISA(学資資金の一部) 夫婦で2口座
・iDeCo(老後のお金) 夫婦で2口座
26個あった口座は、11個になり、貯める目的ごとに最適に、シンプルに管理できています。
シンプルな家計を作るための重要ポイントは次の3つです。
・「一部の商品」ではなく、「家計全体」で判断する
・「目的別」にお金を分けすぎない
・お金を貯める「箱」を厳選する
お金が貯まる人は、より少なく、より良く、シンプルな家計を作っています。シンプルな家計の作ることで、無駄なコスト、無駄な不安、無駄な箱がなくなり、お金が貯まり、安心して生活できます。お得な情報を探して商品を増やすのではなく、より少なく、より良く、シンプルな家計を作っていきましょう。
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