ある日、前触れもなく突然やってくる「パニック発作」。日本の場合は約100人にひとりが一生のうちに経験すると言われており、特に20代~30代、男性よりも女性の発症が多いとされています。
のべ2万人のパニック発作で悩む人を治療してきた影森佳代子さんは、「一度パニック発作を起こすと恐怖心から外出が怖くなり、病院に行きたくても行けずにひとりで悩む人も少なくありません」と言います。そんなつらい状態から抜け出すため同氏は『影森式 パニック障害改善メソッド セルフワークBOOK』のなかで「おうちでできるメゾット」を紹介しています。
ある日突然、パニック発作に
パニック障害は「不安障害」のひとつに分類される病気です。大勢の人の前で話すときや大事な場面に臨むとき、緊張して汗をかいたり、心臓がドキドキしたりするのは当たり前の反応です。でも、心配や不安が大きくなりすぎて日常生活に支障が出てしまい、困った状態になっていたら「不安障害」と判断されます。
パニック障害で悩む患者さんをたくさん診てきた経験から、パニック障害を発症する人の多くは、まじめで責任感が強く、弱音を吐かずに頑張る人が多いと感じています。また、「気を強く持てば克服できるはず」と、恐怖や不安と闘ってしまう人も少なくありません。「電車に乗れないなんておかしい。頑張ってなんとかしなくちゃ!」と、できない自分を否定し、なんとかして以前の自分に戻ろうとあがいてしまう人もいます。
発作の恐怖や不安を経験した人は、発作を起こした場所が怖くなり、そこに行けなくなります。私の場合は電車でした。私が初めてパニック発作を起こしたのは、忘れもしない2001年5月のこと。36歳のときでした。
鍼灸師の専門学校に向かう電車が最寄り駅に着く直前、突然、心臓がバクバクバクッと激しく鼓動すると同時に、車内の空気が薄くなってしまったように呼吸しづらくなり、「このまま死ぬのでは……」という激しい恐怖に襲われたのです。
私は鍼灸師になる前は、大学で心理学を学び、心理カウンセラーとして働いていました。パニック障害に関する専門知識を身につけていましたし、パニック障害の人のケアを行なった経験もあったのに、自分が発作を起こしたら、少しも冷静ではいられませんでした。
初めて発作を起こした翌日から電車に乗れない日が増えていき、そのまま夏休みを迎えました。9月になって電車に乗ることに挑戦したものの、やはり乗った直後に動悸、息苦しさ、のどの詰まりが起こり、途中で電車を降りてしまう日がさらに増えていったのです。
しかも、次第にバスや窓を締め切った車にも乗れなくなり、さらに乗り物だけでなく、混雑したスーパー、美容院、歯科医院、人混みと、「怖くて行けない場所」がますます増えていきました。
急激に沸き起こる「恐怖と不安」
このように怖い場所が増えていくと、行動範囲がどんどん狭くなってしまいます。なかには家の外に出られなくなってしまい、「病院で相談したいけれど外出できない」という人もいます。
私が初めて受診した精神科は自宅から2駅しか離れていませんでしたが、電車に乗れず、混雑した道路もダメだったので、初診時はクリニックにたどり着くまでに2時間近くかかりました。強い恐怖心や不安感が突然、急激に沸き起こり、数分以内にピークに達します。その間に次のうちの4つ以上が起こったら、パニック発作と考えられます。
(1)動悸、心悸亢進(動悸とともに心臓の存在を感じる)、または心拍数の増加
(2)発汗
(3)身ぶるい、または震え
(4)息切れ感、または息苦しさ
(5) 窒息感
(6)胸痛、または胸部の不快感
(7)吐き気、または腹部の不快感
(8)めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
(9)冷感(悪寒)、または熱感
(10)感覚異常(感覚まひ、またはうずき感)
(11)現実感喪失(現実ではない感じ)
(12)コントールや正気を失うことに対する恐怖
(13)死ぬことに対する恐怖
パニック障害の慢性期の症状
パニック発作には、感覚がまひする、自分の行動が夢の中で起こっていることのように感じられる、自分が自分でなくなるような気がする、自分の行動をコントールできなくなりそうで怖くなる、といった症状もあげられます。
こうした感覚は、多くの人がそれまでの人生で経験したことがないものだと思います。そのため、「理性を失ってしまったのではないか」と強い恐怖を感じてしまうのです。
パニック障害には急性期と慢性期があり、急性期にはパニック発作がくり返し起こります。今まで普通にできていた、電車に乗る、美容院に行く、エレベータに乗る……などが怖くてできなくなり、仕事や生活に支障が出るため、激しい焦りやつらさを感じます。私もひとりでは外出がままならず、自分のことを情けなく感じていました。
急性期の次には慢性期がやってきます。次のような症状に思い当たる方は、慢性期に移行していると考えられます。
〈精神的な症状〉:何もないのに焦る/現実感がなくなる/胸騒ぎがする/感情が湧かない/雲の上にいるような感じがする など
〈身体的な症状〉:頭がジーンと重い/頭が後ろに引っ張られている感じがする/目が乾く/目の焦点が合わない/耳鳴りがする/のどが詰まる感じがする/脈が飛ぶ/動悸や息切れが頻繁に起こる/胸が苦しい/手が冷たい/寒気がする/全身にしびれがある など
慢性期の症状は、ほかの病気でも見られるものです。そのため、自律神経失調症などほかの病気と診断されて適切な治療が受けられず、処方された薬を飲んでも症状が改善されないどころか、ますます状態が悪くなっていく……というケースが少なくありません。
発作を一度でも経験した人は、「また発作が起きたらどうしよう」「次は気を失ったり、錯乱したりするかもしれない」という不安に襲われることがあると思います。そんな不安や恐怖を感じると、心臓はドキドキしはじめ、呼吸は浅く、速くなります。
この浅く速い呼吸によって、交感神経が優位な状態が続くため、その作用でからだはこわばり、ますます呼吸も浅くなって悪循環に陥ります。それがさらに動悸や発汗などを生じさせ、パニック発作の引き金になってしまうこともあります。
「心臓のドキドキを止めて!」といくら強く念じても、ドキドキを止めることはできませんが、呼吸だけは自分の意思でコントロールすることが可能です。浅く、速くなっている呼吸を、深く、ゆっくり調整することで副交感神経が優位になります。すると、からだの緊張がほぐれて、心の落ち着きも取り戻せるというわけです。
パニック障害を克服するには、まず心とからだの緊張をときほぐし、リラックスできるようになることが、とても大切なのです。「影森式メソッド」は、「おもち呼吸法」で心とからだの緊張をほぐし、不安な気持ちを鎮めてから、イメージトレーニングを行なうという二段構えになっています。
その気になれば、誰にでもできます。恐怖や不安と闘わなくていいし、もちろん性格を変える必要もありません。
パニック障害の苦しみから解放されるためには、早めにパニック障害と診断され、適切な治療とセルフケアを始めることがとても重要になります。
…つづく<なんと、1日10分の「イメトレ」でパニック発作が軽減する、すごいイメトレの方法…!「外出なし」人混みが怖くても大丈夫>では、「影森式メソッド」の、「おもち呼吸法」と「イメージトレーニング」の方法をさらに詳しく解説します。