「中流幻想」ははるか彼方の過去の夢。
1980年前後に始まった日本社会の格差拡大は、もはや後戻りができないまでに固定化され、いまや「新しい階級社会」が成立した。
講談社現代新書の新刊・橋本健二『新しい階級社会 最新データが明かす〈格差拡大の果て〉』では、2022年の新たな調査を元に「日本の現実」を提示している。
本記事では、〈年収92万円、未婚者が約7割…日本に存在する280万人の失業者・無業者の「厳しい実態」〉に引き続き、「孤立するアンダークラス」について詳しく見ていく。
※本記事は橋本健二『新しい階級社会 最新データが明かす〈格差拡大の果て〉』より抜粋・編集したものです。
孤立するアンダークラス
アンダークラス、とくに失業者・無業者は、社会的に孤立しがちである。このことをいくつかの指標でみたのが、図表4・3である。
(1)は近所の人とのつきあいがないと答えた人の比率である。設問には4つの選択肢があり、「つきあいがない」の次につきあいが少ないのは「あいさつする程度の人がいる」となっている。つまり、出会い頭にあいさつをする人すらいないという人の比率である。
回答からみると、6つのグループは大きく3つに分かれる。つきあいのない人が少ない資本家階級と旧中間階級、中間的な新中間階級と正規労働者階級、そしてつきあいのない人が多いアンダークラスと失業者・無業者である。アンダークラスと失業者・無業者の4割以上には、あいさつする人すらいない。
図表3・15でみたように、アンダークラスには共同住宅に住む人が多いから、階段や廊下などで出会う人はいるはずだが、それでもあいさつすらしないのである。
(2)は、ふだん人と会話することがまったくないという人の比率である。設問には6つの選択肢があり、「まったくない」の次に会話が少ないのは「年に数日程度」となっている。
そして設問には「家族との会話や電話でのあいさつ程度の会話も含みます」との説明が添えられている。だから、家族も含めて、文字通り会話することのない人の比率である。失業者・無業者では、まったく会話することのない人がほぼ4分の1に達している。詳しく集計すると、同居家族のいる人の場合でも、17.2%は「まったくない」と答えている(同居家族がいない場合は37.6%)。アンダークラスには職場があるから、「まったくない」という人は10.2%と多くはないが、それでも他の階級に比べればかなり多い。
(3)は、親しくし、頼りにしている家族・親族が一人もいないという人の比率である。アンダークラスでは16.3%、失業者・無業者では24.3%までが「一人もいない」と答えている。
(4)は親しくし、頼りにしている友人・知人が一人もいないという人の比率である。どの階級をみてもある程度の比率となっており、新中間階級、正規労働者階級、旧中間階級では2割を超えている。大都市住民は、孤立しがちなのだろう。しかしアンダークラスは32.0%、失業者・無業者は48.6%となっており、孤立の程度がかなり違う。
ちなみに調査では、自治会・町内会、ボランティア団体、学校の同窓会、趣味やスポーツの集まりなど、12種類の団体を挙げて、それぞれに対する参加の有無を尋ね、その最後には「どれも参加していない」という設問を設けている。
これによると各種の団体にまったく参加していない人の比率は、資本家階級が36.4%、新中間階級が49.1%、正規労働者階級が51.9%、旧中間階級が43.6%、アンダークラスが69.5%、失業者・無業者が73.8%だった。アンダークラスは職場を通じて辛うじて社会参加しているとはいえるが、失業者・無業者にはそのような回路がなく、また職場以外の回路もないようである。
人とのかかわりをもたないという、現実社会での孤立は、意識にも反映される。これをみたのが図表4・4で、「一般的に人は信頼できる」「人を助ければ、いずれその人から助けてもらえる」という、ごく一般的な他者に対する信頼感を尋ねた2つの設問に対する回答を示している。
資本家階級と新中間階級は、6割程度が「そう思う」「ややそう思う」と答えており、他者に対する信頼感が強いといえる。これに対して正規労働者階級は「一般的に人は信頼できる」で、旧中間階級は「人を助ければ、いずれその人から助けてもらえる」で、比率がやや小さくなっているが、資本家階級や新中間階級と大きく違うわけではない。
これに対してアンダークラスは、他者に対する信頼感が弱い。「そう思う」「ややそう思う」の比率は、資本家階級や新中間階級に比べると明らかに低い。失業者・無業者はさらに顕著で、「一般的に人は信頼できる」では34.0%、「人を助ければ、いずれその人から助けてもらえる」では38.2%にとどまっている。
他者に対する信頼感があれば、他者と関係を結ぶことができる。他者とつながれば、そこに信頼感が生まれる可能性は高い。アンダークラス、とくに失業者・無業者には、そのような回路が欠けている。そして孤立が信頼感を損ない、信頼感の欠如が孤立を深めるという悪循環が生まれている。
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さらに【つづき】〈「格差拡大」により日本に出現した「新しい下層階級」…現代日本の「階級社会」のしくみ〉では、「新しい階級社会」とはどのような社会なのか、詳しく見ていく。