2024年5月に当時25歳だった女性を殺害した罪で起訴されている男の裁判員裁判が、東京地裁で始まった。和久井被告はAさんを待ち伏せしてナイフで襲った。法廷にはAさんの母親も証人として出廷し、娘の悲劇を語った。
前編記事『《新宿タワマン刺殺事件》25歳女性を殺害した52歳の被告が、「借金地獄」に陥ってまで追い求めた「結婚という夢」【初公判傍聴記】』に続き、2人の関係について詳報する。
ナイフを持ち、待ち伏せ
殺人と銃刀法違反の罪に問われている和久井学被告(52歳)の裁判員裁判が、2025年7月4日、東京地裁で始まった。和久井被告は2024年5月、当時25歳だった女性(以下、Aさん)を自宅マンション付近で待ち伏せ、持っていた果物ナイフで襲い、殺害したとされる。
かつてAさんと交際関係にあったという和久井被告は1600万円もの大金を支払ったものの、関係は断絶。それどころか「ストーカー」として逮捕、保釈後は接近禁止命令が出されていた。
「2022年にAさんの店は閉店。被告の付きまといも閉店の一因だったといわれています。その後、Aさんがライブ配信を再開すると、和久井被告は事件の1~2ヵ月前にそれを知り、配信を聞くようになった」(傍聴したライター)
弁護側の冒頭陳述では、「なんで自分は苦しんでいるのに、何事もなかったようにライブして、自分をストーカー扱いしているのか。一方的に被害者のようなことを言っている。許さない。脅してでもカネを取り返してやろう」という、和久井被告の胸中も明らかにされた。
犯行当日、Aさんはライブ配信で和久井被告の悪口を話していた。そして、配信終了後に「コンビニに行く」と話していたことが和久井被告を動かした。
コンビニで買い物を終えたAさんが店から出てきた午前3時過ぎ。
「和久井被告はナイフを持ち、Aさんを待ち伏せていた」(検察側の冒頭陳述より)
Aさんは悲鳴を上げて逃げだした。和久井被告が追いかけるとAさんはさらに悲鳴を上げて逃げ続け、途中で転倒。すると被告はAさんの髪の毛を掴み、マンションのサブエントランスまで数メートルを引きずっていった。周囲の人が騒ぎに気が付き、集まってくると、和久井被告は激昂した。
Aさんを刺し、1本目のナイフの刃が折れると、もう1本を取り出して刺し続けた。
防犯カメラに写っていた犯行時の様子
「Aさんは悲鳴を上げ続けており、人々が集まってきた。和久井被告にとっては想定外の事態だった。このままではまた逮捕されて、あることないことを言われてしまうとパニックになり、一矢報いたいと切りつけた。一度火が付いた感情を止められず、どんどんエスカレートし、身体に何度もナイフを突き刺した」(弁護側の冒頭陳述より)
通行人が取り押さえて現行犯逮捕。Aさんは搬送先の病院で死亡が確認された。死因は心臓や腹部などを多数回刺されたことでの多発性切創による外傷性ショックだった。
現場となったサブエントランスに残されたAさんのカギやスマホ、メガネなどの遺留品の写真も裁判員に公開された。さらに裁判員は、マンションの防犯カメラに写った犯行の一部始終も確認。そこには和久井被告がAさんを引きずる様子や刃物を持った手を15回も動かす様子が映し出されていた。
映像を凝視する和久井被告の表情は終始こわばっていた。
「遺体の傷は18ヵ所あり、一番深いもので11センチ。果物ナイフは長さ約10センチなので、強い力で刺したことがうかがえます。刃先は心臓や肺、肝臓、腎臓、大動脈などを切り裂いていました。さらに足、膝、腕などにも傷が残されていた」(傍聴したライター)
目撃者の一人が犯行時の様子を撮影しており、映像に残っていた2人のやりとりの書き起こしも読み上げられた。
Aさん「ねえ、ほんと。話を聞いて。言えないことがあるの」
和久井被告「ふざけんな。嘘つくな」
Aさん「ほんとにそうなの」
和久井被告「お前が嘘つきだ(その後、不明瞭)。うるせえよ」
Aさん「やめて、やめて、やめて」
和久井被告「死んでくれ」
Aさんの母親が法廷で語ったこと
午後には検察側の証人としてAさんの母親が出廷した。
警察からの電話で娘の死を知ったときは、「現実味がなかった」と語り、検察側から遺体と対面したときについて尋ねられると「会えて嬉しかった」と震える声で述べた。一方、最愛の娘を失ったことについては、「まだ受けとめていない。今後も受け止められない」と悲しみを語った。
「母親はAさんについて、『可愛らしいものが好きな活発な子』と語っていました。そして『たくさんのことを教えてくれた教師のような存在だった』とも話しました」(傍聴したライター)
さらにAさんは母親に、「アクセサリーや輸入品の仕事をしたい」「早く子どもが欲しい」と将来について語っていたという。
「裁判では、Aさんは店の従業員の男性と2022年から昨年まで婚姻関係にあったことも明かされました。『2人は仲良く、(男性は娘を)大切にしていた』と母親は話していましたが、些細なことで喧嘩になり、離婚を選んだそうです」(同前)
Aさんは、和久井被告からストーカー被害に遭っていたことを母親に相談していたという。犯行現場となったタワーマンションの契約者はAさんの父親だった。セキュリティのしっかりした環境で娘を守ろうとする家族の配慮だったのかもしれない。
高校卒業後、都会への憧れを胸に上京したAさん。成人していたとはいえ、社会人経験の少ない年齢だった。裁判は続き、7月9日には被告人質問が予定されている。Aさんの命を奪ったことについて、和久井被告は何を語るのだろうか。
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