多くの人にとって、人生でもっとも大きな借入金である「住宅ローン」。それだけに、組み方を失敗すれば、人生を不幸にしてしまう恐れがある。何年でローンを組むか? いくら借りるか? 不動産コンサルタントで、著書に『中古マンション これからの買い方・売り方』がある後藤一仁氏が、住宅ローンを組む際のポイントを教える。
「住宅ローンはいい借金」といえる理由
マンションを購入する際、住宅ローンはほとんどの方が利用するものです。個人で初めてマンションを買う方にとっては、きっと人生で最も大きな額の借入金でしょう。
世の中の借入金にはいい借入金と悪い借入金があり、資金調達という観点から見ると「借入金はすべて悪」というわけではありません。
住宅ローンは、いい借入金だといえます。
住宅ローンは、とくに現在の超低金利下ではかなりの低コストで借りられ、35年もの長い返済期間にすることができて月々の返済額を抑えられます。
くわえて、住宅ローン契約者が死亡または所定の高度障害状態となった場合に数千万円もの借入金が0になる「団体信用生命保険(団信)」や、がんやその他の疾病に罹った場合にやはり借入金が0円になる仕組み「疾病保障」があります。
さらに、住宅ローン減税が利用できる物件の場合は、所得税・住民税から借入金残高の0.7%が所定の期間、控除され戻ってくる(時期によっては借入金利より住宅ローン控除の額のほうが多くなる)こともあります。
これらの点を踏まえると、「いい借入金」だといえます。
しかし、いくら「いい借入金」でも、やはり高額なローンであって毎月滞りなく返済をしていかなければならないことには違いないので、組み方を失敗すると、自らの人生を不幸にしてしまうほどのものでもあります。
ですので、不動産会社や銀行の担当者のいうことを妄信するのではなく、自分でもしっかりとした知識を持ちポイントを押さえておく必要があります。
また、最近は、インターネットの記事や動画などでさまざまな人が住宅ローンについていろいろな意見を発信しているので、どの意見が正しいのか、逆にわからなくなってしまうこともあるでしょう。
ここからは、「住宅ローンを組む際のポイント」について、とくに大切なポイントに絞っていくつかご紹介します。
本当に短めに組んだほうが有利なのか?
まずは、「何年のローンを組むか」です。
借入金を背負った状態が精神的に嫌だ、単純に総支払額の大小だけに着目して、住宅ローンは短めに組んだほうが有利だからと考えて、組む前の段階からなるべく短期間で組もうとする人がいます。
しかし、短期間で住宅ローンを完済する計画でも、最初から短期で組むのと、超低金利を利用してあえて長く組んで月々の負担を抑え、繰り上げ返済などにより結果的に短期で返済するのとでは、危機管理の点でかなりの違いがあります。
住宅ローンは、原則的に、最初に短く組むと、途中から長く組むように変更することはできません。
ウェブサイトや雑誌のローン関連の記事を読んでみると、「60歳までに完済の計画を立てよう」と推奨しているお金の専門家もいます。その通りの計画が無理なく立てられればそれにこしたことはないですが、多くの人にとってあまり現実的ではないでしょう。
たとえば、38歳で購入する場合、60歳で完済しようとすると返済期間は22年です。22年で早く終わらせるために高めになった返済額を、38歳時点では支払えても、将来にわたって確実に払い続けられかどうかはわかりません。
病気や失業などのリスクをよく考える
たとえば、4500万円を単純に金利1%、返済期間35年(元利均等返済)で借りた場合、月々の返済額は12万7028円ですが、返済期間22年の場合は、月18万9962円にもなります。
病気や失業など、何らかの要因で収入が途絶えた場合、月12万7028円であれば、管理費と修繕積立金、固定資産税などを合わせてもなんとか乗り切れても、月18万9962円では、それらを合わせるとだいぶ高額になるため、持ちこたえられずにマンションを手放さざるを得ないことも考えられます。
「それなら、22年で無理なく返済ができる価格の低い物件を購入すればいいのでは?」と思うかもしれません。そうなると今度は「資産性」や「安全性」、「利便性」に問題のある物件になることもあります。
月々の支払いは低くすんでも、途中で売却することになったときに価格が大幅に下落して売却できなかったり、大きな災害があったときに思わぬ被害に遭ってしまったりする場合もあるのです。
なお、経済の先行きが不透明な今日、「ボーナス併用払い」は避けましょう。月々の返済額を低くするために「ボーナス併用払い」で返済するのはリスクになるからです。住宅ローンが払えなくなる人はボーナス併用払いにしている人に多く見られます。
「年収の○倍まで」で借入額を決めない
次は、「いくら借りるか」です。
住宅ローン借入額は、「現在の年収の5倍や6倍までなら安全で、7倍くらいまでであれば無理なく返済できる範囲、それを超えると危険」などとよくいわれます。
しかし、単純に「年収の○倍まで」で決めるのは危険だといえます。年収や年齢が違うことや、今の収入が今後も絶対続くとはいい切れないですし、月々の生活費や子どもの教育費などの家計はそれぞれ異なるためです。
それらはあくまでも目安の一つとして参考にしつつ、自分の現在と将来をよく見越したうえで「住宅費に使えるのは月いくらまでか」と、月の返済金額で決めるという視点が必要です。
月の返済金額を検討するうえで重要なポイントである、「変動金利か、固定金利か?」については後編記事〈住宅ローンは「変動金利」か、「固定金利」か…金利上昇時代の賢い選び方【不動産コンサルタントが解説】〉で説明します。