「ジャニーズが悪い」のは確かだが
フジテレビ元社員への「性暴力」認定や証拠をめぐって騒動が続く中居正広、TBSラジオでの言動が「不適切」「セクハラ」と批判を受けた田原俊彦、日本テレビからコンプライアンス違反を指摘された国分太一……元ジャニーズ事務所のベテランタレントによる不祥事が立て続けに報じられている。
その原因を「外部と遮断された閉鎖的なジャニーズ事務所に問題があった」「創業者が性加害を繰り返すなどの育った環境が悪かった」「昭和生まれの世間知らずで時代の変化についていけない」などと報じる記事やコメントが目立つが、はたして本当にそうなのか。
長年、芸能界やテレビ業界を取材してきた立場から見ると、ジャニーズ事務所に問題があったのは確かだが、その他にも同等以上の問題があったように感じてしまう。しかもその問題はさまざまな騒動を経た令和7年の今夏も続いているところに本当の深刻さがある。
問題はテレビ局の極端な忖度にある
ネット記事やSNSのコメントに書かれているように、ジャニーズに一定以上の問題があったことは間違いないだろう。しかし、そこにすべての原因を見出すのは短絡的すぎる。
そもそもジャニーズは「創業者が性加害を繰り返していた」というとんでもない芸能事務所だった。しかもテレビ局を筆頭にメディア関係者はそれをある程度知りながらもスルー。「疑惑を追求する」「疑惑が晴れるまでは所属タレントの起用を見送る」などの本来メディアが取るべきスタンスとは真逆の対応を続けてきた。
それどころかテレビ局はジャニーズと所属タレントを重用し、手厚くフォロー。SMAPや嵐のような国民的アイドルグループだけでなく、認知度の低い後輩グループも次々に番組出演させるなど、人気者にするためのサポート役を引き受けてきたような感があった。
さらにテレビ局の手厚いフォローはそれだけに留まらない。ジャニーズからライバルとなり得る他事務所の男性アイドルを排除するよう求められると、それを受け入れていた。実際、筆者もテレビマン、出版社員、新聞記者などから、ジャニーズに関する忖度を求められた経験が数え切れないほどある。今では考えられないが、「完全に言いなりになっているな」「何も言い返せないのか」と落胆させられ、何度か仕事を降りたこともあるほど、ジャニーズへの忖度は強烈だった。
それは今から6年前の2019年7月、公正取引委員会がジャニーズに「退所した元SMAPの3人を番組起用しないように働きかけた場合、独占禁止法違反につながる恐れある」と注意した事実からもわかるのではないか。
もちろん所属タレント自身の才能や努力は認めるべきだろう。しかし、その一方で彼らは他事務所のタレントを締め出すように働きかけるジャニーズと、それを受け入れるテレビ局に支えられていたことも確かだ。
テレビ局の社員なら手を出せるという勘違い
このところ不祥事が続いているため誤解されがちだが、ジャニーズの出身タレントは10代のころから厳しい上下関係の中で育成され、だからこそ礼儀正しい人が多かった。
ただ、撮影や取材の現場では、メディア出演が増えるほど、選民意識のようなものを感じさせるタレントがいたことも事実。各局の番組に出演し、スタッフから手厚い対応を受けるほど、ジャニーズやグループの力を自分の力と混同してしまうのかもしれない。
さらにそんな選民意識を高めてしまうのが共演者の対応。スタッフから特別扱いされる姿を見た共演者も「怒らせてはいけない」「ジャニーズから“共演NG”にされないように」などの思いから、彼らを特別扱いするようなケースが散見された。
そんな特別扱いによる選民意識が如実に表れるのは、テレビ局の社員に対する言動。中居の騒動がそうであるように、「こんなに特別扱いしてくれるテレビ局の社員なら、このくらいのことは許されるのでは」という勘違いにつながっても不思議ではないだろう。ちなみに他事務所のタレントはビジネスにおける商品の位置付けにあたるため、ジャニーズのタレントと言えども配慮が求められ、これほどの勘違いをしづらいところがある。
あらためて中居と田原の騒動を振り返ると、トラブルの相手は共演者ではなくテレビ局の社員だった。2人は「他事務所のタレントは手を出せないが、テレビ局の社員はそうではない」という都合のいい解釈をしていた様子がうかがえる。また、国分のトラブルに関しては未発表だが、「プライバシーの保護」を強調する日本テレビの対応を見る限り社員絡みの可能性が高い。
たとえば、フジテレビが疑われた“上納”こそなかったとしても「食事会に連れてきてほしい」「隣の席に座らせたい」「連絡先を交換したい」などの要求をはねのけることは難しい。また、ジャニーズのタレントたちは年齢や実績を重ねるほど、そんな言動を注意してくれる人がいなくなってしまうことも不祥事につながりやすい理由の1つだろう。
実は評価されていたのはファンたち
ではなぜテレビ局はジャニーズのタレントたちをそこまで特別扱いしてきたのか。
これはシンプルにジャニーズのグループを番組出演させることで一定の視聴率などの実績が稼げるから。ジャニーズのころからSTARTOの現在まで、彼らのファンたちはリアルタイムで見て視聴率に貢献しようとし、同時にXでつぶやいてトレンド1位の称号を与えようとし、TVerやYouTubeなどでも見て配信再生回数を上げようとするなど、とにかく献身的な応援スタンスが共通している。
推し活が盛んな2020年代に入ると他事務所に所属するグループのファンたちも同様の応援姿勢を見せているものの、やはりSTARTOのファンは圧倒的。民放テレビマンもグループと同等以上にそんなファンたちを評価していて、だからこそ「何とか彼らをキャスティングしたい」という状況につながっている。
ジャニーズの全盛期と言える平成時代は他のグループをテレビから排除して独占市場を作り、所属グループにファンを集中させるという状況が常態化。それがSMAPや嵐をアイドルの枠を超えて国民的グループに押し上げた背景の1つとなっていた。
また、SMAPや嵐よりファンの数が少ないグループも、彼らに準じた特別扱いを受けて番組出演の機会を得ることで人気をキープ。そもそもジャニーズ事務所に所属し、アイドルグループのメンバーとしてCDデビューできれば、個人の人気にかかわらず番組出演のチャンスが飛躍的に増える。
さらにライバルがほとんどいないため、グループのメンバーであり続ける限りそれが続いていく。「“センター”だけでなくほとんどのメンバーにソロ出演のチャンスが与え続けられる」という特別扱いはジャニーズの所属グループだけに与えられるものだった。この優位性は「グループから脱退、あるいはグループが解散してソロになっても売れ続ける」というケースが少ないことからもわかるのではないか。
そんなジャニーズ事務所の所属グループに対する特別扱いが、一部メンバーの「これくらいはいいだろう」という判断基準のズレにつながった感がある。
今も続く異常な「特別扱い」
中居、田原、まだ推察の段階だが国分も含め、彼らの不祥事は被害者がテレビ局の社員であろうことから、最大の原因は長年にわたる過剰かつ異常な特別扱いだったことは間違いないだろう。
しかし、われわれ一般人もそんな過剰かつ異常な特別扱いをどこかわかっていてスルーしていたところがあった。また、創業者の性加害についても「噂レベルだが聞いたことがあった」という人が多いのではないか。
われわれはつい最近までそれらを指摘せず、むしろ結果的に所属タレントの活躍を許容していた。これを書いている筆者自身もその1人だが、そんな社会であったことも、中居、田原、国分だけでなく所属タレントの言動や価値観に何らかの悪影響を与えたのかもしれない。
2020年代に入ると、テレビ局の放送収入がさらに下がった上に、コンプライアンスの遵守が強く求められることもあって、その影響力は下がり、危機的状況に追い込まれるケースが増えている。一方、元ジャニーズのグループもかつてのSMAPや嵐ほどの力は感じられなくなった。ただそれでもSnow ManやSixTONESらのファンが持つパワーは他のアイドルを上回り、テレビ局がそれに頼る状況が続いている。
実際、5日放送の大型音楽特番『THE MUSIC DAY』(日本テレビ系)ではジャニーズ時代から続いてきたシャッフルメドレーが2年ぶりに復活。これは「グループの垣根を越えて先輩たちの名曲を歌いつなぐ」という事務所の特別扱いを象徴するコーナーであり、ジャニーズ時代から何も変わっていない様子がうかがえる。
さらに日本テレビは8月30日・31日放送される『24時間テレビ48』でKing & Princeの「チャリティーパートナー」就任を発表。2023年までジャニーズの所属タレントが「メインパーソナリティー」を務めてきたが、昨年は創業者の性加害問題を受けて見送られていた。「今年は肩書きを変えて復活」というあからさまな方針に、彼らへの特別扱いが変わっていないことを感じさせられる。
「テレビ離れ」につながるリスク
ただこのようなSTARTOに対する特別扱いは日本テレビだけではなく民放各局すべてに該当するものだろう。かつてほどの忖度こそ消えても、けっきょく視聴率ベースのビジネスは変わっていないため、「組織的なファンの応援があるタレントが特別扱いを受ける」という状態が続いている。
しかし、現在は国内外の他グループが次々に台頭し、それぞれのファンも多いだけに、フェアな競争が望まれる時代に変わった。だからなのか、昭和時代からジャニーズのグループは好き嫌いがはっきり分かれやすいところがあったが、令和時代の現在はさらにその傾向が強くなった感がある。つまりSTARTOのグループを特別扱いするほど、「彼らが出ているだけでその番組は見ず、ネットコンテンツを選ぶ」という人が増えているのかもしれない。
もしテレビ局が目先の利益を優先させてSTARTOへの特別扱いを続けたら、それが「テレビ離れ」につながり業界全体がダメージを受けてしまうのではないか。Snow ManやSixTONESらを見ていると、彼らが中居、田原、国分のような不祥事を起こすとは考えづらいが、彼らのアンチを増やさないためにも過剰な特別扱いは避けたほうがいいように見える。