同じクスリや治療でも、時間帯によって効果が大きく変わることが判明しつつある。それは日々の暮らしでも同じこと。自分の中から聞こえてくる「体内時計」の針の音に耳をすませば、より健やかに過ごせる。
前回記事『脳梗塞、緑内障、心不全…病気別飲むべき時間帯を徹底解説』より続く
夕方になると暴れ出す認知症患者
夕方になると、急に徘徊したり、混乱して暴れ出したりする―認知症患者に見られるこの症状は「夕暮れ症候群」と呼ばれる。認知症患者の約5人に1人が経験するとされているが、これまで詳しいメカニズムはわかっていなかった。ところが近年、明らかになりつつあるという。東京大学大学院農学生命科学研究科教授・喜田聡氏が解説する。
「夕方になると、脳内でドーパミンという物質の働きが弱くなることが影響しているとわかってきました。これは、記憶した情報を思い出すために必要な神経伝達物質です。この働きが低下すると、目の前の状況が急に分からなくなり、過度に興奮してしまうのです。
誰しも夕方になると、多少なりとも、認知機能は低下しますが、認知症患者はすでに脳の機能が低下しているため、影響が重なって夕暮れ症候群を引き起こすと考えられます」
夕方前の栄養補給でエネルギー不足を防ぐ
加えて、脳のエネルギー不足も夕暮れ症候群を引き起こしている可能性が高い。
「記憶を引き出すだけでも脳はエネルギーを大量に消費します。昼食から時間が経った夕方は、エネルギーが不足しがちな時間帯なので症状が出やすいと考えられています。
神経伝達を助けるヒスタミンという物質がありますが、その材料となるチロシンやフェニルアラニンを多く含むチーズ、ナッツ、牛乳、卵、大豆製品などを昼食時に補給し、夕食前にはチョコレートなどで軽く糖分を取る。こうすることで、脳の機能を一時的に回復させ、夕暮れ症候群を防ぐことができるのではないでしょうか」
一度発症してしまうと、そこから回復するのは非常に難しいと言われる認知症。しかし時間治療の手法を実践すれば、症状を和らげてQOLを高めることも決して不可能ではない。
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「週刊現代」2025年07月07日号より
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