3007/3201を約分できる?
※本記事では、分数(2分の1)は1/2と表しています
3007/3201を約分できますか?
突然こんな問題を出されたら、皆さんはどうしますか?おそらく多くの人は、「えっ、分子も分母も3000を超えてるし、どうやってやるの?」と戸惑ってしまうのではないでしょうか?
「約分」そのものは小学校の算数で学習するため、やり方は分かっている人がほとんどでしょう。しかし、こういった大きな数の約分は、小学校で習った「2で割れる?」「3で割れる?」といった素朴なチェックではなかなか進まないものです。そうなると、闇雲に計算してもなかなか答えにはたどり着かないでしょう。
それもそのはず。この問題は慶應義塾高校の2020年度の入試で出題され、話題となった問題なのです。「約分をしなさい」という小学生でもわかるシンプルな問題であるにもかかわらず、数字が煩雑で大きいために多くの受験生を苦しめました。数学が得意な学生でもなかなか解くことのできない問題ということです。
しかしご安心ください。実は、このような問題にはちゃんと“コツ”があります。
今回は、「この数字って約分できるのか?」というシンプルな疑問からスタートして、数字に強くなるヒントをわかりやすく解説していきます。
今回の問題を解説する前に、まず「約分」とはどのようなものなのかおさらいしましょう。
約分とは、分数の分母(下の数字)と分子(上の数字)の両方を、同じ数で割って簡単な形に直すことです。たとえば、
6/8 → 3/4(分母、分子をそれぞれ2で割った)
10/25 → 2/5(分母、分子をそれぞれ5で割った)
といったように、「約数(割り切れる数)」を見つけて両方を割る作業のことを指します。
ここで登場する「約数」とは、「その数を割り切ることができる整数」のことです。例えば「6」の正の約数は「1,2,3,6」、「8」の正の約数は「1,2,4,8」となります。つまり、「1」「2」という数字は6と8の両方の約数であることが分かります。
このように、分数を約分できる数は、分母、分子の両方の約数、つまり「公約数」となるのです。そのため、小学生のときに九九を覚えて、「この数字は何と何がかけ算されてできたものだろう?」と予測する感覚を身に着けていたのです。
でも、数字が6とか10ならともかく、「3007」や「3201」なんて数字が出てくると、一気に手が止まってしまいますよね。こういうときは、どうしたらいいのでしょうか?
ユークリッドの互除法
大きな数字の約分で困るのは、「どんな数で割ればよいか見当がつかない」という点です。小さな数字なら、偶数なら2、末尾が5なら5で割れる……といったルールが使えますが、3007や3201にはそのどれも当てはまりません。
そこで出てくるのが、「ユークリッドの互除法(ごじょほう)」という考え方です。
これは古代ギリシャの数学者ユークリッドが発見した方法で、2つの整数の最大公約数を効率的に求めるテクニックです。このやり方を使えば、今回のような大きな数字の約分も簡単に行うことができます。
上述の通り、約分とは「同じ数で分母と分子を割って、できるだけ簡単な形にする」ことでした。
その約分を行うために必要なのは、分子と分母の「最大公約数」を見つけることです。
12/16なら最大公約数は4であるため、分子分母を4で割って
12÷4 = 3
16÷4 = 4
で「3/4」となり、
18/30なら最大公約数は6であるため、分子分母を6で割って
18÷6 = 3
30÷6 = 5
で「3/5」となります。
つまり、3007と3201の最大公約数さえわかれば、それで一発で約分できるというわけです。その最大公約数を求めるために、今から紹介する「ユークリッドの互除法」を使用します。
手順は非常にシンプルです。
- 大きい方の数を小さい方の数で割る。
- ①で出た余りの数で、小さい方の数を割る。
- ②を繰り返し、割り切れたら終了。そのときの割る数が最大公約数となる。
いかがでしょうか。言葉だけで説明をされても、なかなかピンとこないと思います。
実際にやってみましょう。
3007と3201でユークリッドの互除法を使ってみよう
ステップ1:
大きい方の数(3201)を小さい方の数(3007)で割ると、
3201÷3007 = 1 あまり 194
となります。
ステップ2:
ステップ1で出た余りの数(194)で、小さい方の数(3007)を割ると、
3007÷194 = 15 あまり 97
となります。
ステップ3:
ステップ2で出た余りの数(97)で、194を割ると
194÷97 = 2
となり、97で割り切れることが分かります。
これより、最大公約数は97となります。
この一連の流れを図で表すと、次のようになります。
いかがでしょうか。このように数字に色を付けて並べてみると分かりやすいかもしれません。この計算の通り、3201と3007の最大公約数は「97」となるので、この2つの数字は両方とも97の倍数であることが分かります。実際に計算してみると、
3201÷97 = 33
3007÷97 = 31
となるため、今回の問題の答えは「31/33」と分かります。
この方法が、「ユークリッドの互除法」を用いた約分です。この方法は非常に数学的で、必ず答えが出せるやり方ではあるのですが、「なんでこれで約分ができるんだろう?」と疑問に思う人も少なくないでしょう。また、このやり方を覚えること自体がかなり大変、という気持ちも非常に理解できます。
そのためここからは、もっとシンプルで分かりやすい方法を伝授します。
それは、「2つの数字の差を取る」方法です!
「差」で最大公約数を求める
大きな数字どうしの最大公約数を考える際に、その2つの数字の「差」を考えるとうまくいくことがあります。その理由をここからは解説します。
例えば、二つの数字「a」と「b」があり、その最大公約数を求めることを考えましょう。
求める最大公約数を「c」とおくと、当然「a」と「b」は両方「c」の倍数になるので、
a = c × 〇
b = c × △
(〇、△はそれぞれ何かしらの整数)
と表すことができます。ここで、「a」と「b」の差を考えると
a-b = c × (〇-△)
となることが分かります。つまり、「aとbの差」も必ずcの倍数になるのです。
このように記号を使って考えると少し難しく感じる人もいるかもしれませんが、具体的な数字を挙げて考えてみれば非常にシンプルな理論であることが分かります。
このように、両方の数字が特定の数字の倍数であれば、その差もその倍数になるはずなのです。これを用いると、先ほどの問題が非常に簡単に見えるようになります。
「3201」と「3007」の差は、上でも計算した通り「194」となります。ここで、「194」がどんな数字か考えてみると、
194 = 2×97
と分解できることが分かります。「97」は一見まだ細かくできるように思えますが、2,3,5,7,11…と試してみると、素数であることが分かります。つまり、「3201」と「3007」はどちらも2の倍数、あるいは97の倍数だ、と決定できるのです。
ここで、3201、3007はどちらも奇数であることから、共通する約数、つまり最大公約数は「97」と分かります。このように、先ほどのやり方よりも短いステップで問題を解くことができるのです。
実は、このやり方は根本的には「ユークリッドの互除法」を用いた考え方と変わりません。「差」を取るか、「割り算」をするかという細かな違いだけなのです。しかし、差を取るやり方の方が格段に分かりやすかった、という人が多いのではないでしょうか?
数学を楽しむ第一歩
今回は、3007 / 3201 という分数を約分するという、ちょっとした数字の問題をきっかけにして、「約分とは何か」「最大公約数の求め方」「ユークリッドの互除法」などを学びました。
今回紹介したように、数学には、一つの問題に対して複数の解き方がある問題が非常に多く存在します。ただ問題を解くだけでなく、「もっと効率的な、面白い解き方はないか」と常に模索してみることが、数学を楽しむ第一歩になるでしょう!
ぜひ皆さんも実践してみてください。