一進一退の米中交渉
米中の貿易協議は「レアアース問題」にスポットライトが当たっている感がある。
両政府は6月9~10日にロンドンで2回目の閣僚級協議を実施し、中国のレアアース輸出規制を解消する枠組みなどで合意したが、依然として問題は残っているようだ。ロイターは15日、「国家安全保障に関わる輸出規制の重要分野が未解決のまま残されており、よリ包括的な合意を脅かす争点となっている」と報じた。
今回の輸出再開も6ヵ月の期限付きの措置だとの見方が有力であり、中国は引き続きレアアースを交渉の切り札にする構えだ。
一方、中国にも弱みがある。
今回の合意で、中国のプラスチック製品の生産に不可欠な米国産化学製品(エタンやプロパンなど)の供給が認められた。中国にとっての米国産化学製品は、米国にとっての中国産レアアースよりも不可欠な物資であるとの指摘がある。
米国の大学・大学院への留学生の受け入れが認められたことも中国にとって朗報だ。
ハーバード大学は習近平国家主席の娘が留学するなど、中国共産党の海外「当校(党幹部訓練機関)」と呼ばれている。子弟の留学先が維持できたことで中国共産党幹部は胸をなで下ろしていることだろう。
だが、今回の合意で中国経済が好転する要素はまったくない。
トランプ関税で「失われる雇用」
米国が中国に課している関税は55%であり、昨年に比べて30ポイントも高い。
中国の5月の米国向け輸出額は前年比34.5%減の288億ドル(約4兆1600億円)だった。5月中旬に関税が大幅に引き下げられたが、その影響は続いている。
5月の輸出全体は前年比6%増と堅調だったが、失われた輸出需要を奪い合う中国企業間の競争で輸出価格の下落がさらに進んだとの指摘がある。
中国政府によれば、今年第1四半期の工業セクターの設備稼働率は74.1%と過去最低の水準になっており、第2四半期にさらに下落するのは確実だ。
消費後退がもたらす深刻な「需要不足」
これに対し、内外企業が関税を負担したことで、米国の5月の物価指標が予想を下回っており、関税引き上げはこれまでのところ米国の消費者に悪影響を及ぼしていない。このように、貿易紛争は明らかに中国にとって不利だ。
そうしたなかで、より深刻さが増しているのは異常気象による自然災害が頻発するようになっていることだ。しかも、中国は日本と同様、ダムなどのインフラ更新時期を迎えており、災害への備えがより脆弱になることが懸念される。
その中身については後編『面子だけの中国政府、「経済無策の代償」が明らかに…!「大洪水」と「老朽化ダム」で明らかになる中国経済の「緩やかな死」』でお伝えしていこう。