「人気投票」から導き出す投資アイデア
現在のような不透明感がまん延する日本の株式市場の中では、分析のプロであるアナリストの視点を活用する方がよいかもしれない。今回は、彼らがどの銘柄に注目しているのか、そのうえでどの銘柄が最も人気があるのかを分析し、投資アイデアに結びつけていく。
まずは日本株を取り巻く現状から分析していこう。
トランプ関税の進捗が次々と報告される中でも、期先の世界景気の鈍化への懸念は薄れない。
米国ではISM製造業、非製造業景況感指数がともに予想を下回る一方で、内訳を見れば価格に関連する指標は急騰を見せるなど、いわゆる典型的な「スタグフレーション」の様相を見せ始めている。
関税問題が仮に軟着陸を見せたとしても、4月2日に追加された10%の共通関税分は物価の上昇および景気に対するマイナス影響として残り続けるため、株式市場は回復基調にあるものの、依然として手放しで楽観視をするのは困難な状況だ。
しかしながら、どういった相場環境下においても、その時々の状況に応じて魅力的な銘柄は存在しうる。日本株市場内の一般論として、円高進行で外需企業の業績が傷んでも内需企業にはプラスに働くように、言うまでもなくすべての銘柄にプラス、マイナスに作用しうる要素は存在しない。言い換えれば、現在のような極めて不安定な状況でも、投資対象として魅力的な銘柄は確実に存在するはずである。
ただし、この「魅力的」という言葉の定義は曖昧だ。
どのような数字としての基準をもって銘柄が魅力的であると判断するかは、それこそ人によって千差万別だろう。直近話題のispaceのように夢のあるビジネスを展開していたり、昨今の防衛株のように時流に沿った急成長を遂げている銘柄であったり、価値基準は様々だ。
しかし、需給という投資家からの人気で株価が決まる、美人投票としての側面を持つ株式投資という性質を考慮すれば、ある程度客観的な尺度をもって銘柄の投資魅力度を定義することができる。
そのひとつが、「コンセンサス・レーティング」と呼ばれる指標だ。
「コンセンサス・レーティング」の光と影
コンセンサス・レーティングは、日本語で簡単に表現すれば、金融機関のアナリストが付与する銘柄の投資評価である。
証券会社を例にとれば、調査部内に業種ごとに銘柄をカバー(分析)しているアナリストがおり、彼らは個々の企業に買い、中立、売りといった投資の推奨、つまりレーティングを付与するのが仕事のひとつだ。
そして、著名な大型株になればなるほど各証券会社でその銘柄の投資評価を付与することになるため、それを数値化して集計した結果として「コンセンサス」というひとつの値が導かれることになる。
多くの場合、各推奨について買いを1、中立を3、売りを5といった具合に数値化し、すべてのアナリストの数字を集めて中央値、または平均値をコンセンサス・レーティングとすることが多い。
つまり、この数字を比較すれば、ある時点・地域の株式市場内において、最も投資評価の高い銘柄、そして低い銘柄を一意に決定することができるようになる。投資や分析のプロである金融機関のアナリストによる「人気銘柄」、「激推し銘柄」のランキングが導き出せるのだ。
もちろん、この数値の評価についても、その特性上の問題が存在しないわけではない。
まず、特に証券会社のアナリストについては、投資評価が極端に「買い」に偏りやすいバイアスが存在していることが知られている。これは、アナリストが企業のIRや経営陣と良好な関係性を維持するため(取材などのため)に忖度し、「売り」の評価をつけにくいといった圧力が存在することが挙げられる。
今のご時世はそのようなことは存在しないと願いたいが、過去には売りレーティングを付けたアナリストがその企業から出入り禁止を食らった事例も確かに存在していた。
また、そもそも証券会社は投資家に推奨銘柄を買ってもらうことで手数料収入を得ているため、売りレーティングを付与するインセンティブは乏しいのが実情だ。
アナリストが推奨しない「売り」
実際に、TOPIX構成銘柄について、「強い買い」、「買い」、「中立」、「売り」、「強い売り」と5種類のレーティングで銘柄群を分けその分布の推移を追ってみる。すると、「売り」または「強い売り」のレーティングの銘柄の割合の少なさは一目瞭然だ。「強い売り」については、もはや目視で確認することが困難(2025年6月現在で全体の0.3%程度)なほどだ。
図:TOPIX構成銘柄 レーティング水準別銘柄分布
しかし、そのようなバイアスがかかっている状態であっても、その範囲内での数値的な比較は可能となるだろう。同じ買いの中でも、どのアナリストも全員が一様に買い推奨をしているのか、人によって見方にばらつきがあるのかによって、レーティングの水準にも差が生じてくるはずだ。
果たして、アナリストの視点から見ると、どの銘柄が日本で最も人気があるのだろうか。いよいよランキングを作っていこう。
後編『最強銘柄は「サイゼリヤ」「フジクラ」、そして「第一三共」…!やがて来る大相場に備える日本株「アナリスト注目の20銘柄」を一挙公開する!』で、じっくりと導き出した「銘柄のランキング」を紹介していこう。