生成AI(人工知能)が生活やビジネスに深く浸透していく「普及期」へ差し掛かる期待が高まっている。2025年5月下旬には、中国のAI開発企業DeepSeek(ディープシーク)がAIモデル「R1」の改良版を開発したと報じられた。さらに注目すべきは、運用コストを大幅に削減できる次世代AIモデル「R2」の登場も近いと囁かれていることだ。
オープンAIやグーグルなどの米国勢と開発競争で切磋琢磨するなか、「軽量・高性能・低コスト」な生成AIがさらなる進化を遂げれば、AI活用の裾野が飛躍的に広がることは間違いないだろう。多くのユーザーが幅広いシーンで高性能モデルへ低コストにアクセスすることが可能になるはずだ。そうなれば、生成AIの心臓部である「生成AI向けデバイス」の需要も爆発的に伸びていくと予想される。
特にHBM(High Bandwidth Memory:複数の半導体メモリを積層し、データ転送速度を飛躍的に向上させる技術)やCoWoS(Chip on Wafer on Substrate:異なるチップ(CPU、GPU、HBMなど)を一つのパッケージに集積する先進パッケージング技術)などの高機能パッケージの需要は大きな伸びが期待できそうだ。いずれも従来の半導体製造では、あまり脚光を浴びる機会は少なかった後工程(半導体チップの加工・組み立て・検査工程)における高度技術が必要となる。この分野で高い優位性を持つ日本の半導体関連企業が大きな恩恵を享受することが期待できそうだ。
ディスコ(6146)
■株価(6月13日時点終値)33130円
半導体ウエハ―を「切る・削る・磨く(KKM)」技術に特化した事業モデルを展開しており、主力製品のダイサ(半導体ウエハ―を切断する装置)では70~80%、グラインダ(半導体ウエハ―を薄く削る装置)では60~70%という圧倒的な世界シェアを誇っている。HBMのような積層型メモリの製造には、ウエハ―を極限まで薄くし、精密に切断する技術が不可欠となる。その中核を担っているのが同社製装置だ。
ここ数年の収益拡大ペースは、半導体市場の生産量以上に拡大している。HBMなどAI関連需要によって後工程の複雑化が進み、同社製の高精度な装置への需要が増していることが背景にあることは言うまでもない。
強みは装置本体だけではない。ダイサーブレードやグラインディングホイールなどの消耗品は利益率が高く、顧客の稼働率が高まるほど利益が拡大するストック型ビジネスモデルだ。中国メーカーによるローエンド製品の市場蚕食が進む中でも、同社は高付加価値製品の分野で揺るぎない優位性を保っている。今後も高シェアと高収益性を維持する可能性は高いとみる。
アドバンテスト(6857)
■株価(6月13日時点終値)8504円
GPU(画像処理装置)やSoCなどのAIチップの品質保証は、複雑さと性能要求の高さからも極めて重要な工程となる。品質保証に不可欠な「半導体テスタ」において、世界をリードしている企業がアドバンテストだ。
半導体が良品か不良品かを電気的に検査するテスタ装置で、同社はメモリ向け、SoC向けの両方で世界シェアトップを誇る。AI半導体向けテスタにおける技術レベルでは、競合の米国企業でも容易に追いつけない優位性を持っている。エヌビディアのGPU、TSMCのファウンドリ(半導体受託製造企業)などと同様に、同社は半導体テスタ市場における「一強」の地位を固めつつある。
AI半導体の複雑化、大容量化、高速化は、テスト時間の長期化やテスト項目の増加をもたらしている。SoCテスタ向けの利益率は特に高く、GPU向けも高速化に追随するための大容量化・高速化が進む。HBM向けは通常のDRAMよりも試験工程が多くいなど、今後も高いシェアを維持できる要因は多い。
東京精密(7729)
■株価(6月13日時点終値)8070円
アドバンテストなどが製造するテスタとセットで使われる「プローバ」(半導体ウエハ―の電気的特性を検査する装置)においてトップシェアを誇る。また、半導体ウエハ―の加工に使う「ダイサ」(切断装置)と「グラインダ」(研削装置)でもディスコに次ぐ世界2位のシェアを持つ。
HBMやCoWoSなどの先端パッケージの生産規模が拡大するなか、プローバやグラインダの需要も飛躍的に伸びており、グローバルなOSAT(半導体受託後工程サービス企業)からの引き合いも活発化している。2028年3月期を最終年度とする中期経営計画では、AIチップの高性能化・複雑化に対応するための高精度な検査技術や、新たなパッケージング技術への対応に注力する姿勢を示している。
中期的にはNAND型フラッシュメモリのハイブリッドボンディング(異なるチップを直接接合する技術)向けグラインダ、さらには高性能ロジックチップ向けの温度制御機能を搭載したプローバなど、独自の成長シナリオにも注目したい。
日本マイクロニクス(6871)
■株価(6月13日時点終値)4325円
メモリ向けプローブカードで世界シェア1位の地位を確立している。プローブカードとは、半導体ウエハ―の電気的特性を検査する際に、ウエハ―上のパッド(電極)に直接接触させることで、チップの良否や特性、製造工程の問題を検出するための検査治具のことだ。
テスタと組み合わせて使用されるため、AIチップの高性能化・複雑化が進むにつれて、高精度なプローブカードの需要も拡大していくことになる。テスト時間の長大化やテスト工程の複雑化は、同社にとって新たな事業機会となるだろう。前期はプローブカードの受注高が大きく伸び、受注残高も増加した。HBM用DRAM向けプローブカードの旺盛な需要が続いていることに加え、青森工場の新棟が完成したことが背景にある。
今2025年12月期もプローブカードの組立装置を中心に169億円の設備投資を計画しており、来期にかけて生産能力は大幅に増加する見込みだ。HBMのビット成長(データ処理能力の向上)や世代交代に伴い、メモリ用プローブカードの需要は今後も継続的に成長すると予想される。
TOWA(6315)
■株価(6月13日時点終値)1584円
半導体後工程における「モールディング(封止)」や「シンギュレーション(切断加工)」の製造装置を手掛けている。同社が強みとするのは、超精密金型技術を基盤とした独自の技術開発であり、樹脂の利用効率を飛躍的に向上させた「マルチプランジャ成形方式」という世界初の技術で成長を遂げた。現在は、チップやワイヤへの影響を最小限に抑制して樹脂を流動できる「コンプレッション(圧縮)技術」を用いた高付加価値の封止装置で、他社との差別化を進めている。
TOWAのコンプレッションモールド装置は、次世代HBMであるHBM4の狭ギャップ(チップ間のごくわずかな隙間)にも対応可能な新たなパッケージング技術を確立している。この技術は、半導体チップの多段積層を可能にし、製造における品質と生産性の改善に大きく貢献することが期待される。
今2026年3月期も、PCやスマホなどの民生品需要は低迷が続くものの、AI需要の増加に伴う先端半導体向け投資が本格的な拡大期を迎え、同社のコンプレッション装置の需要を後押してくれそうだ。
ここ数年で生成AIの進化は想像を超えるスピードで進んだ。今後は活用の機会も着実に広がっていきそうだ。最前線でAIチップの製造を支える日本の半導体関連企業は「縁の下の力持ち」としてAI時代の牽引役に加わることが期待できる。収益拡大に直結する期待も大きいと言えそうだ。
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