丸くなって寝ている姿が可愛くて手を伸ばすと、頭をそらして距離を取る。体をすり寄せてきたので、抱き上げようとしたら、途端に走り去った。なのに、ベッドで寝ようとしたら、脇から入ってくる。
猫を飼っていると、ツンデレな対応に困惑させられることが多々ある。
この猫は自分のことが本当に好きなのだろうか。 なぜ追いかけるのは自分ばかりで、猫は呼んでも出てきてさえくれないのか。
東京大学、および大学院で獣医学を学び、在学中にカリフォルニア大学デービス校付属動物病院にて行動治療学の研究をされた高倉はるか先生にペットにまつわる謎を解説いただく連載の後編。
あまりに都合よく自分を使う飼い猫の、自分への愛が信じられなくなった飼い主のため、はるか先生より猫の愛を確かめる方法を教えていただく。
自分は飼い猫に愛されているか
――自分からすり寄ってくるのに、抱き上げようとすると、するりとかわし、追いかけると逃げて行ってしまいます。うちの猫は私のことが好きなのでしょうか。
「猫は、自分のことをわかってくれる人が好きです。今、何を欲しているのか。ごはんなのか、撫でてほしいのか、遊んでほしいのか。猫が何をねだっているか、全てわかるというならば、猫はあなたを好きだと思います。
ただ難しいのは、ごはんと言ってもカリカリなのか、缶詰なのか、おやつなのか。撫でて欲しくても抱っこは嫌、近くにはいたいけど、触られるのは嫌、撫でてもらいたいけど、長時間は嫌などと、猫の好みはとても細かいこと。
すり寄って来たから抱っこしたのに、とたんに逃げて行ったのは、触られるのはよくても抱っこは嫌いな猫なのかもしれません。器に餌が入っているのに、それには見向きもせずに何か欲しがるのなら、以前食べた別のおやつをねだっているのかも。
猫の要求に応えるには、何をしてもらいたいかを正確に見極める必要があります」
「わかってくれる人」になるためには
――「わかってくれない人」になると、嫌われてしまう?
「猫が嫌がることをしなければ、嫌われはしませんが、やっぱり『わかってくれない人』『期待通りいかない人』という風に思うでしょうね。
たとえば猫が家族の誰かをベッドに誘いに来た時、他の家族が抱いたり、布団に入れると、パッとかわしたり、逃げてしまったことはありませんか。
それは、猫が、家族の中に『一緒に寝る人』『餌をくれる人』『撫でてもらいたい人』など、役割を決めているためです。猫の決めた担当こそ、『猫のやってほしい通りにやってくれる』人で、『わかってくれない人』と一緒には寝たくないのです」
ーー猫に好かれているかどうか、不安になってきました。
「たとえば、少し離れたところから甘い声でごはんをねだる猫を、無理に抱き上げたことはありませんか。猫はごはんが欲しかったのに、無理に抱きすくめられて、『もう、嫌』と思ったに違いありません。
一度嫌な思いをした猫は、飼い主さんから呼ばれた時に、近くに寄りたい気持ちと、また嫌なことをされたらどうしよう、という不安な気持ちの間で葛藤が起きます。
ただ、もし過去に猫が望まないことをやってしまったとしても、一緒に暮らしていれば、これからも猫はいろいろ頼んでくるでしょう。そうした要求を後回しにせず、ちゃんとかなえてあげれば、猫からの信頼も回復していくと思います」
――今、自分は嫌われているかどうかは、どこで判断したらいいのでしょう。
「猫があなたをどう思っているかは、あなたと同じ部屋にいる時の猫の様子を見れば、わかります。
多少離れていても、寝たり、くつろいでいるようなら、心を許し、信頼している証拠です。呼んだ時に来なくても、触られたり抱っこを嫌がっても、それは猫の性格で、基本的にはあなたのことを大好きですから、安心してください。
けれども、あなたから距離をとったところからじっとあなたを見つめる、ドアを開けてほしいと鳴く、落ち着かない様子で高いところなどに逃げ込むようなら、まだ緊張しています。猫が自分から近づいてくるまでは自分からは距離はつめない、猫と目線は合わせず、できるだけいないものとして振る舞う、時々あくびをするなどして、リラックスしているように見せる、などしてあげてください」
猫が寄ってきたときには
――普段ツンデレの飼い猫に、もっと好きになってもらいたいときは、どうしたらいいのでしょう。
「まだ子猫ならば、遊びに夢中になりやすいので、たくさん遊んであげてください。たくさん遊ぶほど、猫はあなたを『一緒にいて楽しい人』と認識し、呼ばれると『遊んでくれるかも』とうきうきと来るようになるでしょう。
ただ、中には、あなたを信頼し、安心しているからこそ、呼ばれても動かない仔もいます。普段から大事にされ、愛情をかけられ、満たされ、安心しているのです。
愛情を確認したくなる気持ちはわかりますが、猫もただ聞こえないふりはしていないと思います。呼びかけた時、しっぽや耳は動いていませんか。小さくしっぽをぱたんと動かすようなら、それが猫の返事です。猫にとっては今が幸せなので、そのまま、猫の好きにさせてあげてもらえたらな、と思います。
反対に、ずっと留守番ばかりで、寂しくてたまらなくなると、帰宅時に走り寄ってくることも。猫が寄ってきたときは、後回しにせず、たっぷりかわいがってあげてください。
世話も愛情表現も、すべて猫の好みに合わせて、なんて言うと、なんだか猫に都合よく使われているように感じるかもしれませんが、猫は好きな人にしかおねだりしません。自分のやってほしいタイミングに、好ましいやり方で、好きな人にやってほしい。こだわりの動物なのです。
そして、それをわかってくれる人が好き。いくら自分のことを好きでも、そうしたタイミングややり方を理解できない人は、わかっていない人、信頼できない人、面倒くさい人として、距離を置きたくなる。
猫のペースを理解して飼っていただければ、きっと猫に愛される飼い主さんになると思います」