不振の春から一転、本気の夏ドラマがスタート
4月から放送していた春クールドラマはどれも苦戦を強いられた――。
最大の衝撃は、堤真一が主演を務めた日曜劇場『GIFT』(TBS系)の全話平均世帯視聴率が7.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)で1ケタ台に撃沈したことだ。
また、高視聴率が期待された『未解決の女 警視庁文書捜査官 Season3』『ボーダレス〜広域移動捜査隊〜』(ともにテレビ朝日系)、『時すでにおスシ!?』『田鎖ブラザーズ』(ともにTBS系)などもこぞって不振に終わり、テレビドラマの危機さえも感じさせた。
そんな閉塞感を吹き飛ばすべく、各局が本気を見せているのが7月からスタートしている夏クールドラマだ。タイトルの顔ぶれを見渡すだけでワクワクする作品が並んでいる。
大本命と目されているのは、前作の最終話世帯視聴率が19.6%に達し、社会現象を巻き起こした社会派アドベンチャードラマの続編にあたる『VIVANT』(TBS系、日曜午後9時〜)だ。
今作は異例の2クール連続放送が決定し、1話あたり約1億円の制作費をかけてアゼルバイジャンやタイでの大規模な海外ロケも敢行。同局の社長が「視聴率でドラマの年間トップを獲らないといけない」と公言するほど、局を挙げての一大プロジェクト作品だ。
また、28年ぶりに反町隆史が鬼塚英吉として帰ってくる『GTO』(関西テレビ・フジテレビ系、月曜午後10時〜)も話題性十分。最終回が35.7%という驚異的な視聴率を記録した伝説的ドラマの復活とあって、放送前からSNSを騒がせた。
さらには、SixTONES・松村北斗が地上波ドラマ単独初主演を務めるラブサスペンス『告白-25年目の秘密-』(日本テレビ系、土曜午後9時〜)、蒼井優が18年ぶりに地上波連続ドラマの主演を務める『Tシャツが乾くまで』(TBS系、金曜午後10時〜)、小池栄子主演の警察ヒューマンドラマ『さよならノワール』(フジテレビ系、火曜午後9時〜)など、豪華キャストによる多彩な作品がそろっている。
では、そんな話題作ばかりの夏ドラマの中で、キー局プロデューサーやディレクター、脚本家、ドラマライターといった業界関係者はどの作品を「面白い」「今後も見続けたい」と思っているのか?
序盤話の放送を終えた時点でのリアルな評価と今後について赤裸々な意見を聞いた。
不倫モノに風穴を開けた『Tシャツが乾くまで』
まず、キー局で連続ドラマのプロデューサーを手掛けるA氏は『Tシャツが乾くまで』(TBS系)について絶賛した。同作は、3話時点でいずれも視聴率6%超えを果たし、近年のドラマとしてはまずまずの数字をキープ。さらに、見逃し配信も絶好調で金曜ドラマ枠の歴代最高記録を樹立し、SNSでの反響も大きい。
「ストーリーは、ある事故に巻き込まれた夫婦の過去や秘密が暴かれ、不倫とも取れる関係性になっていく男女の繋がりを描いていくラブサスペンス。
昨今のドラマ業界は不倫をテーマにした作品が乱立され、視聴者はかなり食傷気味になっている。そんななかで、本作は単なるドロドロとした愛憎劇とは一線を画す繊細なアプローチで不倫関係を描いているので既視感がない。非常に面白く見ています」
A氏は同作の魅力を続けて語る。
「『silent』『いちばんすきな花』で人気作家になった生方美久さんと『カルテット』『花束みたいな恋をした』などのヒット作を手がけてきた演出家・土井裕泰さんのタッグが抜群に良いですよね。日常会話に潜む感情の機微を繊細に描き出す生方さんの脚本と、俳優がその場で生み出すリアリティやセリフの熱量を丁寧に映す土井さんの手腕が見事に噛み合っている。良質な映画を見ている感覚になれるドラマですよ。
また、随所に伏線となるシーンやキーとなるアイテムを紛れ込ませることで、先の読めない考察ドラマとしての盛り上がりを作っている点も素晴らしいなと思いました。
主演を務める蒼井優さんの自然体な演技はもちろんですが、相手役の中島歩さんの存在感も際立っている。テンションを変えずに朴訥と語る言い回しが、ドラマの不穏な空気感をより醸し出している。
とにかく、今後も気になるドラマの筆頭で個人的には『VIVANT』よりも期待しています」
視聴率は苦戦するも、重厚さが魅力的な『さよならノワール』
「小池栄子さんが主演を務める、警視庁に新設された“犯罪被害者支援室”を舞台にしたヒューマンドラマ『さよならノワール』(フジテレビ系)。視聴率で苦戦を強いられていますが、キャスト陣の演技も素晴らしく、ストーリーも重厚で奥深い。もっと見られてもよい作品だと思うのですが……」
こう語るのは、ドラマ制作会社でディレクターを務めるベテラン社員・B氏だ。
「同作は、小池栄子さん演じる元マル暴刑事の黒木と北香那さん演じる心理学者の白石が、さまざまな事情を抱える犯罪被害者や遺族と向き合っていく新ジャンルの警察ドラマ。
何よりも見てほしいのは小池栄子さんの天才的な演技力。笑顔を見せないサバサバとした熱血派の女性ながらも、犯罪被害者や遺族の心の傷に寄り添う優しさや人間味も持ち合わせた役どころを違和感なく演じている。
バディを組む北香那さんも達者。心理学に精通するものの、コミュニケーションが苦手で空気の読めない変わり者キャラを口調や身振り手振りで巧みに体現している。来年クールのドラマで大役が決まっているらしく、ブレイク間違いなしの女優さんです。
ストーリーはやや単調ではありますが、犯罪被害者支援という珍しいテーマをしっかり取材をしたうえで限りなくリアルに描いており、考えさせられるシーンも多い。
テーマが重すぎるため、気軽に見るには適していないのかもしれませんが、SNSの口コミでじわじわと評価を上げていく可能性はありますよ」
狂気溢れる演技の松村北斗は高評価
ラブコメやサスペンスを手掛ける女性脚本家のC氏は、アイドルグループに所属する俳優の演技力が光るドラマを評価した。
「SixTONES・松村北斗さん主演の『告白-25年目の秘密-』(日本テレビ系)は今後も見続けたいと思わせる一作です。
同作は、25年間片想いし続けた男の純愛と狂気を描くラブサスペンスですが、松村さんの演技のバランス感覚が素晴らしい。
一見するとおとなしく誠実そうに見える青年が、恋する女性のために狂気的な行動を取ってしまう。かなり難解な役ですが、セリフだけに頼らず、不気味な微笑みや違和感のある佇まいでキャラクターを憑依させている。彼の演技力がストーリーに深みをもたらしています」
各局が本気を出す夏ドラマ。では、業界人が今後を不安視する「面白くない」と感じた作品は何なのか? そして、好スタートを切った『VIVANT』に死角はあるのか?
後編記事『豊作の「夏ドラマ」で、業界関係者が「すでに離脱した」あの作品』でも引き続き関係者の声をお届けする。