計1364社が有効回答
7月31日、李強首相が北京で国務院常務会議を招集、上半期の経済情勢と下半期の経済活動に関する習近平総書記の重要講話の精神の学習貫徹を強調した。李首相は3月5日、「今年の通年の経済成長目標は4.5%~5%」と豪語したが、直近の第2四半期(4月~6月)は4.3%に甘んじている。
そんな中、同日、中国日本商会の本間哲朗会長(パナソニックホールディングス顧問)が、北京で記者会見を開いた。中国日本商会は、中国に進出している日系企業の唯一の中国政府公認の親睦団体である。私も北京駐在員時代(2009年~2012年)に入っていた。
同商会は、本間会長が就任した2023年以降、約半年に一度、「会員企業景況・事業環境認識アンケート結果」を発表してきた。今回はその第9回目の結果を発表する会見である。主に、今年上半期(1月~6月)の状況について、計1364社からの有効回答を得た。
会員企業景況・事業環境認識アンケート結果 第9回」は、全76ページに及んだ。毎回の発表文は、中国ビジネスの最前線で日々活動している日系企業の「赤裸々な声」に満ちている。
本間会長は記者会見の冒頭、河野洋平前日本国際貿易促進協会会長への追悼の意を述べた。
本間会長も日中関係を懸念
「最初に、6月8日にご逝去された河野洋平先生のご冥福をお祈りいたします。先生は訪中の度に、中国日本商会との対話を重視され、我々の説明内容を中国政府とのハイレベル交流に活かされていました。河野先生は日中関係が難しい局面にある今こそ、北京を訪れ、中国要人との会談を最後まで願っておられたと伺っております。商会としても、河野先生のご遺志を受け継ぎ、日中関係の改善を求めていきます」
なお日本国際貿易促進協会の新たな会長には、7月29日、岩屋毅前外務大臣が就任した。
本間会長は続いて渋面で、日中関係の厳しい現状に言及した。
「大変残念ですが、昨年11月以来、日中関係は難しい状況が続いております。7月17日に開催した全国日本人交流会では、中国各地の日本商工会等の皆様から現場でのご苦労のお話をたくさんいただきました。
また、アンケートの要望事項欄の記載を見ても『中国社会への不安も高まっており、駐在員やその家族、出張者の安全確保を求める』や、『トラブル事例等について、憶測や不安を払拭するため、タイムリーな情報提供を求める』というご意見をいただいています。日中両国政府におかれては、日中関係改善に向けて、十分な意思疎通を図る努力を続けていただくよう、お願いいたします」
以下、具体的な調査結果について見ていこう。
47%が売り上げ低下
まずは、現地での「売り上げ」と「自社の景況感である。なお質問の番号は、私が便宜上つけたものである。
質問➀ 売り上げについてご選択ください(2026年1~6月期を2025年7~12月期と比較した結果)
5%以上上昇した…13%、5%以下上昇した…19%、変化なし…20%、5%以下低下した…18%、5%以上低下した…29%
質問② 2026年1~6月期を2025年7~12月期と比べ、自社の景況をどう評価しますか?
改善している…8%、やや改善している…18%、横ばい…30%、やや悪化している…22%、悪化している…22%
まず質問①だが、単純に比較すると、売り上げが「上昇した」企業が32%で、「低下した」企業が47%。すなわち、売り上げが低下した企業の方が15ポイントも多い。
私が特に注目したいのは、売り上げが「5%以上低下した」企業の急増ぶりである。半年前の第8回調査(2025年下半期についての調査)では17%だったのが、今回は29%と、12ポイントも上昇しているのだ。
次に質問②だが、こちらも単純に比較すると、「改善」が26%で、「悪化」が44%なので、「悪化」が18ポイントも多い。さらに第8回と「悪化している」を比較すると、12%から22%へと、やはり12ポイントも上昇しているのだ。
これはどういうことなのか? 現在、日本企業にとって中国ビジネスは、「5大リスク」にさらされていると言われる。それは、以下の通りだ。
中国ビジネス「5大リスク」
⑴ 中国経済の悪化
⑵ 日中関係の悪化
⑶ 米中関係の不安定化
⑷ 中東情勢の悪化
⑸ 中国企業の台頭
日系企業の売り上げと景況感が悪化の傾向にある理由は、これら5つの要因が合わさったものだろう。だが、中でも気になるのは、やはり本間会長も言及している「日中関係の悪化」である。
私が北京駐在員をしていた2012年も、野田佳彦民主党政権による尖閣諸島の国有化などで、日中関係が急速に悪化した。すると日系企業の中国ビジネスに、顕著な悪影響が出た。
まず、自動車や電化製品、コンビニの菓子や飲料など、明らかに「日本の製品・商品」と分かるものは、中国人が買わなくなった。これは「B to C」(日系企業→消費者)の悪影響だ。
そればかりか、「B to B」(日系企業↔中国企業)にも大きな悪影響が出た。中国企業の側が、「日系企業と取り引きするのはハイリスクだから、他国(もしくは中国)の企業と取り引きしよう」という雰囲気になっていったのだ。私も、これまで取り引きしていた中国企業から突然、契約を打ち切る旨の連絡が来て、その会社を訪れると門前払いされたことがある。
その時はさらに、日系企業各社の内部にも動揺が走った。日系企業の組織は一般に、日本の本社から派遣されている少数の日本人と、現地で採用した多くの中国人で構成されている。
その中国人従業員たちが、家族や親から「転職してほしい」と言われたり、取引先の中国企業から「売国奴」と罵(ののし)られたりして、心が折れていくのだ。私が以前いた日系企業のある中国人従業員は、「大学の同窓会で自分の勤めている会社を言えなかった」と漏らしていた。
こうした結果、優秀な中国人従業員から日系企業を離れていく。それがボディブローのように、日系企業の経営に影響していくのだ。
日中関係の悪化は、日系企業の投資傾向にも表れている。
日系企業は「守りの姿勢」に
質問③ 2026年は投資額を前年と比べて増加させますか?
大幅に増加させる…2%、増加させる…15%、前年と同額…42%、前年より投資額を減らす…17%、今年の投資はしない…23%
このように、「大幅に増加させる」と超強気な企業は2%しかない。「増加させる」と合わせた強気な企業も17%。逆に、「投資を減らす」「投資しない」は、計40%に上っている。
その40%の企業からは、こんな理由が挙がっている。
「中国市場の低迷や価格競争の激化により売り上げ・利益が減少している」
「利益確保や資金繰りの面から、投資をしたくても投資ができる状況にない」
「今後の需要動向や景気回復が見通せず、投資判断が慎重になっている」
「既存の設備やリソースの稼働で、現時点の受注を十分に賄える」
「前年までに新法人設立、大型システム導入、設備更新等の大型投資を完了している」
「日中関係や国際情勢を踏まえて、投資を控える」
「資産を増やさない『軽量化モデル』への移行を図っている」
このように、「いまは情勢を慎重に見極めよう」という「守りの姿勢」に入っている日系企業が多いことが分かる。おそらく私が経営者だったとしても、その道を選ぶような気がする。
それは、前述のように日中関係の悪化が大きく影響しているのは、否めない事実だ。だが次に大きな要素は、上記の回答にもあるように、中国経済が低迷していることだ。そのことは、以下の回答からも顕著である。
1%が「中国経済は改善していく」
質問④ 2026年1~6月期を2025年7~12月期と比べ、中国国内の景況をどう評価しますか?
改善している…2%、やや改善している…10%、横ばい…40%、やや悪化している…33%、悪化している…16%
質問⑤ 2026年の中国国内の景況について2025年と比べてどう予測しますか?
改善していくだろう…1%、やや改善していくだろう…11%、横ばいだろう…39%、やや悪化していくだろう…34%、悪化していくだとう…16%
こちらも、何とも悲観的な結果が出た。まず質問④は、中国の景気についての現状認識である。「改善している」がわずか2%で、「やや改善している」と合わせても12%に過ぎない。
続いて質問⑤、これから半年で中国の景気はよくなっていくかというものだが、「改善していくだろう」がわずか1%で、「やや改善していくだろう」と合わせても12%に過ぎない。
実はこうした現地の日系企業から見た中国の景況感というのは、2023年の第1回調査から、まったく変わっていない。そのことこそが、中国経済の深刻さを物語っていると言える。
2023年当時はコロナ禍明けだったので、景況感が悪いのは、ある意味当然だった。中国は丸3年にもわたって、悪名高い「ゼロコロナ政策」に固執してきたからだ。「ゼロコロナ政策」とは、街に一人でも陽性者がいたら、その街をロックダウンしてしまう極端な封じ込め政策のことだ。
それがようやく2023年になって明けたので、いつ「V字回復」していくのかが注目された。14億国民も当然ながら、一刻も早い景気の回復を待ち望んでいた。
ところが、2023年3月に3期目に入った習近平政権が、政策の一丁目一番地に掲げたのは、「総体的安全観」だった。すべての分野で「安全」を最優先させていくというものだ。
「反スパイ法」改正で冷や水
象徴的だったのが、同年7月に反スパイ法を改正したことだった。その第4条で、何をもって「スパイ行為」とするかについて明示しているが、第6項には「その他のスパイ活動の行い」と書かれている。これは当局が恣意的に「スパイ行為」と認定できることを示しており、日系企業を含む外資系企業は震え上がってしまった。
そのような状態が、もう3年以上も続いているのだ。さらに7月30日には、より一層内部の引き締めを図る「5中全会」(中国共産党第20期中央委員会第5回全体会議)を、今年10月に開くことが発表された。これでは、日系企業の景況感も悲観的になろうというものだ。
調査は、中国ビジネスの展望についても質問している。
質問⑥ 2026年以降の中国市場をどう考えていますか?
一番重要な市場である…25%、3つの重要な市場の一つである…27%、多くの重要な市場の一つである…35%、重要な市場ではない…6%
この結果は、習近平政権の前の胡錦濤政権の時代に中国ビジネスに携わっていた私からすれば、衝撃的である。なぜなら、「中国市場が世界で一番重要な市場である」というのは、当時の日系企業の間では常識であり、このような質問自体が「愚問」だったからだ。それがいまや、全体の4社に1社しか、中国を最重要市場とみなさなくなっているのだ。
おしまいに、今回の結果に掲載された「日系企業の声」を列挙する。
帰国を希望する駐在員
「日中関係の悪化がビジネス活動へ影響を与える懸念がある。政府間の対話による関係改善を進め、相互理解・協力関係の維持・構築を進めて欲しい」
「日中関係の悪化もあって、中国社会への不安も高まっている。駐在員やその家族、出張者の安全確保を求める」
「トラブル事例等について、憶測や不安を払拭するため、タイムリーな情報提供を求める。地方の日本企業からすると、取り残されていると感じことがある」
「中国に対する日本本社との認識ギャップにより、日本からの出張者・協力が得にくくなっており、駐在員の負担が増加しており、帰国希望も出てきている」
「日中間の航空便(特に地方都市への直行便)の減便解消を求める。出張や一時帰国が難しくなっており、ビジネス上の支障となっている」
「デュアルユース(軍民両用)品目等の輸出管理規制に関して、税関や担当者によって解釈・対応が異なる。前月まで問題なかったが、突然規制対象となるケースもあった。基準の明確化、手続きの簡素化を求める」
「一般貨物の輸出において、税関検査(抜き打ち・開梱検査)の割合の増加や審査の長期化が発生しており、納期遅れや船積み遅延などが発生している」
「60歳を超えると就労ビザの取得が厳しくなり、日本からベテランで優秀な人材を継続的に派遣することが難しくなっている。65歳への引き上げを求める」
「急速に進んだ円安で収益への打撃が大きい。円安の緩和を求める」
総じて言えば、こうしたアンケート調査は、現実よりも甘い結果が出るものだ。なぜなら、私も経験があるが、日々最前線で中国ビジネスに勤しんでいると、心情的に否定的な回答をしづらくなるのだ。
それにもかかわらず、これだけ悲観的な結果が出ているということは、やはり日本企業にとって、中国ビジネスは岐路に立っているのかもしれない。
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