「勝負」を支配する〈数の法則〉がある!
ギャンブルの勝ち負けは「運の良し悪し」に左右されるイメージがありますが、じつは確率・統計の知識に基づく「期待値的に正しい」賭け方があります。
胴元はなぜ、「必ず儲かる」のか? パチンコ店はなぜ、たまった玉を「いったん換金しろ」と言うのか? 「本命」と「大穴」、どちらで勝負すべきか? 「必勝戦術」のあるゲームとないゲームはどう違うのか?……
そんな素朴な疑問から、世に蔓延する「必勝法」のウソをあばき、「数学的な裏づけに基づく賭け方」を伝授する話題沸騰の書『ギャンブルのからくり 確率・統計であばく「必勝法」のウソ』(講談社ブルーバックス)が登場します。
ブルーバックス・ウェブサイトでは、この書から興味深いトピックの数々をご紹介していきます。
今回は、「ギャンブルのからくり」の解明に欠かせない確率論の歴史をたどってみます。
じつは、「確率論はそもそも、ギャンブルを背景に生まれた」と言ったら驚くでしょうか。大数学者を悩ませた、賭け事大好き貴族の難問をご紹介します。
*本記事は、『ギャンブルのからくり 確率・統計であばく「必勝法」のウソ』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
偶然が起こることは、ほぼ必然
誰かが「長いあいだ会っていないあの友人は今どうしているかなぁ」と考えたまさにそのときに、その友人が亡くなったという連絡が入ったとする。このような偶然は、当の本人にとっては「心が通じ合った」とか「虫の知らせ」でなければ説明できないものかもしれない。
しかし、少なめに見積もっても、成人のアメリカ国民の10人程度が毎日、このような経験をしているはずだ、とある学者は計算する(マイケル・W・フリードランダー『きわどい科学』(田中嘉津夫・久保田裕訳、白揚社、1997年)に紹介されているルイス・アルヴァレスという物理学者)。
このような(本人にとって)奇跡のような話は、家族や友人を通じて、「超自然的な不思議な出来事」として広まっていく。しかも、適当な尾ヒレがついて……。
なんだ、1日に10人なら1年で3650人、10年でも3万数千人じゃないか。アメリカ国民はその数千倍もいるのに、と思う人もいるかもしれない。
ここで注意してほしいのは、これは「偶然想い出した人の死が知らされる」という事象に限定された話であることだ。日常生活のなかには、これら以外の出来事がそれこそ数え切れないほどあり、それぞれについても同じことが言えるのである。
たとえば、車を運転しているある日、10個の信号がすべて青で通過できるかもしれないし、ウサギを1日に2回轢(ひ)いてしまうかもしれない。
要するに、めったに起こらない偶然は、けっこうたくさん起こっているはずなのである。長い目で見れば、「誰かにまれな偶然が起こることは、ほぼ必然である」という逆説的なことが結論づけられるのである。
短期と長期、個人レベルと大衆レベルでの確率論の差には要注意。
ギャンブルから確率論が生まれた
1654年のある日のこと、フランスの数学者パスカル(Blaise Pascal : 1623~62)は、シュバリエ・ド・メレというギャンブル好きの貴族から、少々変わった質問を受けた。
その質問とは、次のような問題であった(例題として示す)。
例題 ギャンブル好きの貴族、シュバリエ・ド・メレの質問
同額の賭け金を出し合い、先に3勝したほうが勝ち、とするゲームで、時間の関係で途中でやめることになった。その時点で私(メレ)が2勝1敗のスコアで勝っていたのだが、賭け金の分配方法がよくわからなかった。
結局、私が3分の2、相手が3分の1ということにしたのだが、これでよかったのだろうか。
パスカルは、この問題を同じ数学者のフェルマー(Pierre de Fermat : 1601~65)と手紙をやりとりして研究した。その結果として生まれたのが、こんにち「確率論(basic law ofprobability)」として知られる数学の一分野である。
実は、パスカルとフェルマーの100年以上も前に、イタリアの数学者カルダノ(Girolamo Cardano : 1501~76)が確率論の概念を打ち出していた。
ただし、カルダノの著作(『Liber de ludo aleae』〈英題:『The Book on Games of Chance』〉)が発表されたのは1663年のことで、カルダノの死後87年が経ってからである。しかも、それはパスカルの死後でもあるため、パスカルらはカルダノの著作は知らなかったはずである。
なお、カルダノはギャンブル好きとして有名な数学者であったことも付け加えておこう。そう、ギャンブルが確率論を生んだのである。
さて、メレ氏の質問の解答に戻ろう。
結局メレはいくらもらえるのか…打ち切りがなかった場合を想定する
2人の実力は同等と仮定する。現時点でメレがリードしているので、実力差があると仮定するならメレの実力が上とみなすべきだが、ややこしくなるのでやめておく。少なくとも、相手のほうが強いという仮定には根拠がないだろう。
先に3回勝ったほうが勝ちとなるので、最大5回やれば、どちらかは最低3回勝っているはずである。
現在のメレの2勝1敗という状況から、打ち切りなしであと2回プレイをしたものとすると、メレから見た「4回目-5回目」のありうる組合わせは、「勝ち-勝ち」「勝ち-負け」「負け-勝ち」「負け-負け」の4通りである。
メレは損していた!
メレの勝ちを「○」、負けを「×」で表すと、この勝負の帰趨(きすう)は次のようになる。
2勝1敗のあと、5回戦までやってみる
現在までの勝敗4回戦5回戦勝者◯◯× →◯◯メレ◯◯× →◯×メレ◯◯× →×◯メレ◯◯× →××相手
2人の実力が同じで打ち切りがないという前提なので、起こりうる4つのケースはどれも25%の確率で起こる。つまり、3戦終了時から見て75%(4分の3)はメレが勝者となるはずで、したがって賭け金もその割合で分配されなくてはならない。
結論として、正しくはメレが4分の3、相手が4分の1の賭け金を受け取るべきである。
*
メレと、彼のギャンブル友達との分配金の割合は、みなさんの想定通りだったでしょうか。メレの相談を受けたパスカルとフェルマー、そしてカルダノによってはじまった確率論の歴史には、さらにもう一人、著名な数学者が登場します。
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