株価下落時に自社株買いが期待できる企業
日本株市場の調整局面では、自社株買い(企業が自らの資金を使って自社の発行済み株式を買うこと)を期待できる銘柄に注目したい。7月は海外投資家が夏季休暇を取得することで需給が悪化する、いわゆる「夏枯れ相場」に陥りやすい時期だ。主要企業の4ー6月期の決算発表を控えて様子見姿勢も強まりやすい。裏を返せば、こうした需給の空白期間は投資の好機ともなりやすい。
大規模な自社株買い枠を設定している企業にとって、株価下落で自社の株価に割安感が台頭したと判断できれば、積極的な自社株買いで相場の下支えをはかるアクションが期待できる。企業が自ら買い戻した株式の多くは消却され、発行済み株式数が減ることで1株当たり利益(EPS)が押し上げられる効果もあり、その後の株価を下支えする要因ともなる。
自社株買いの「枠設定」は、あくまで株数と金額の上限を定めた「取得する可能性がある」という意思表示に過ぎない。実際に予算を使い切って自社株取得に踏み切るかどうかは、企業の裁量に委ねられている。投資家が物色対象として吟味する際には、実際に自社株買いを遂行し、株価を押し上げる可能性が高い企業を見極める必要がある。
過去のデータを分析すると、直近の株価パフォーマンスが過熱しておらず、割高感を伴っていない企業は、自社株取得を有言実行で執行する可能性が高い。そして何より、発行済株式数に対して取得比率が高い自社株買い枠を設定している企業は、中長期的にTOPIXを上回る株価パフォーマンスを示す傾向がある。熱すぎて滅な夏枯れ相場は「実質的な還元力」の高い自社株買い銘柄で乗り切りたいところだ。
アイシン<7259>
・ 7月17日終値2256円 配当利回り(予)3.32%
自動車のパワートレインユニット(変速機や駆動装置など動力伝達に関わる機器群)とブレーキを主力とする総合部品メーカー。自動車メーカーの電動化投資が着実に進むなか、同社のトランスミッション技術と熱マネジメントシステムは代替不可能な存在となりつつある。
2028年度を最終年度とする中期経営計画では、ハイブリッドトランスミッションやeAxle(モーターと減速機、インバーターを一体化した電気自動車向け駆動ユニット)の拡販を軸に、過去最高となる営業利益3300億円(営業利益率6.2%)、およびROE(自己資本利益率)10.0%を目指す。
親会社トヨタ自動車からの自立を促すグループ内の政策保有株式の縮小は、資本効率の改善も促している。配当指標ではDOE(株主資本配当率:自己資本に対する配当総額の割合)を3.0%水準から2028年度に3.5%水準へ段階的に引き上げると表明した。さらに、上限6500万株・1000億円の自己株式取得枠(取得期間は27年3月31日まで)を設定し、上限株数を取得した場合の自己株式を除いた発行済株式総数に対する割合は9.0%となる。PBR(株価純資産倍率)1倍割れの是正に向けたアクションが期待される。
日本化薬<4272>
7月17日終値1952円 配当利回り(予)3.38%
自動車安全部品(エアバッグ用インフレーター等)に加え、がん治療薬などの高付加価値な医薬品や、半導体パッケージ用エポキシ樹脂など、異色の3領域を融合させた事業ポートフォリオは、景気後退局面においては強力なディフェンシブ性が発揮されるだろう。
2027年3月期は、医薬事業でのジェネリック医薬品の価格競争を、半導体材料の高成長と自動車安全部品の生産正常化が余りあるカバーをし、収益性を改善させる期待がある。特に半導体市場の回復と微細化プロセス(半導体の回路幅を極限まで細かくする技術)の進展は、高純度材料の需要を強く押し上げてくれそうだ。
5月12日には、1300万株・150億円を上限とした自己株取得枠(取得期間は2027年3月31日まで)を設定すると発表した。上限株数を取得した場合の自己株式を除いた発行済株式総数に対する割合は8.75%と高い。
潤沢なネットキャッシュ(現預金から有利子負債を差し引いた実質的な手元資金)も自社株買いを機動的に実施するには十分な余力だ。配当性向40%以上を目標とする累進配当に加え、ROEが8%を達成するまでは総還元性向(配当と自社株買いの合計が純利益に占める割合)100%以上を実施する姿勢も心強い。
ANAHD<9202>
・7月17日終値3027円 配当利回り(予)1.98%
「2026-2028年度中期経営戦略」では、2028年度に営業利益2500億円(営業利益率9%)、2030年度には営業利益3100億円(同10%)を目指す。初年度の2027年3月期こそ中東情勢を受けた燃油費増などで減益見通しだが、燃油サーチャージ(燃料価格の変動に応じて航空運賃に上乗せされる付加運賃)による価格転嫁と、旺盛な訪日需要を背景にした高運賃の維持により、翌年度以降のV字回復が期待される。
コロナ禍で大きく傷ついたバランスシートの修復(財務健全化)が完了し、本格的な株主還元フェーズへと移行する過渡期を迎えている。同社は2025年11月10日に上限675万株(発行済株式総数に対する14.2%)・総額1,500億円の自己株取得枠を設定している。このうち累計324万株・総額955億円は2026年6月末までにすでに取得済みだが、依然として多くの取得余地が残されている。
積極的な自社株買いの背景には、コロナ禍の公募増資で希薄化した株式数を圧縮し、EPS(1株当たり利益)と資本効率を高める狙いがある。取得した自社株はすべて消却する方針で、EPS成長を通じた株価評価の底上げにつながろう。2031年3月期までに1000億円規模の追加取得を検討しているもようで、過去10年程度の中でも低位なPERには割安感が感じられる。
大阪ガス<9532>
7月17日終値5367円 配当利回り(予)2.42%
地盤の京阪神エリアでは激しい顧客獲得競争に直面しているが、国内のガス事業だけにとどまらず、米国を中心とした海外エネルギー事業の成長によって中長期的な収益構造の変革を遂げている。サビン社を軸とするシェールガス開発や、火力発電(IPP)プロジェクト、さらにはフリーポート液化基地の運営など、天然ガスの上流から下流までの一貫したバリューチェーン(製品やサービスが顧客に届くまでの各工程の連鎖)を構築している。
米国のシェールガス事業を含む海外エネルギー事業の伸長を背景に、株主還元ではDOE(株主資本配当率:配当金総額を自己資本で除した指標)を3.0%から3.5%に引き上げた。あわせて発行済み株式の7.04%にあたる2800万株、上限800億円の自己株式取得(取得期間5月11日から2027年3月末)を実施し、取得株式は原則消却する方針だ。
2027年3期は、燃料価格高騰によるタイムラグ差損(原料費調整制度におけるスライド適用のズレによって一時的に生じる差損益のこと)が上期を中心に利益を圧迫する懸念はあるが、下期以降の価格安定化や、米国事業の安定的な生産数量増、LNGの割安調達効果によって大部分が相殺される見通しだ。中長期的な目標では、2030年代早期のROE10%達成を掲げており、次期中期経営計画での具体的な施策発信が待たれる。
東京海上HD<8766>
・7月17日終値7526円 配当利回り(予)3.26%
5月20日に上限1億3000万株・2000億円の自己株式取得(取得期間は5月21日から12月23日まで)を発表している。上限まで取得した場合の発行済み株式総数に対する割合は6.9%に達する。
さらに今期の自己株式取得はこれだけにとどまりそうにない。損保業界で大きなテーマとなっている政策保有株式の削減について、「2030年3期末までにゼロにする」という極めて明確な目標を掲げており、2027年3期単年度だけでも4,300億円規模の売却を計画している。売却によって創出された資本が、さらなる成長投資や株主還元へと循環する好サイクルが期待できそうだ。
2035年に向けたグループのありたい姿「Aspiration 2035」では、2036年3期の修正純利益目標を2026年3期比で2倍となる「1.7兆円以上」、修正ROE目標を「17%以上」に設定し、高い成長意欲を示している。
また、市場で話題となった米バークシャー・ハザウェイとの戦略的提携においては、再保険分野での協働や、共同でのM&A(企業の合併・買収)などのグローバル展開を予定しており、中長期的に企業価値を向上させる原動力となりそうだ。
日本株市場は株主還元の観点で、世界で有数の魅力を持つ国として海外投資家からも注目を集めている。2026年1-5月に上場企業が設定した自社株取得枠は、同期間としては過去最高に達し、実際の取得実施金額の累計も大幅に増える見通しだ。株安局面では特に強力な投資テーマとして浮上するだろう。
【宇野沢茂樹 和光証券(現みずほ証券)でデリバティブ業務に従事後、投資情報会社フィスコ、ラジオNIKKEI「マーケットプレス」キャスターなどを経て、現在はエンジニア(Python,SQL)としてDX支援にも参画。日本証券アナリスト協会検定会員。】
【株に関する記事をもっと読む→マイクロソフト「1兆6000億円」投資で注目の「データセンター銘柄」…ソフトバンクでも、さくらでもない「日本企業の名前」】