中国を解説して浴びた非難
先日、あるテレビの人気バラエティ・ニュース番組に呼ばれ、最近の中国外交について、こんな解説をした。
「中国は現在、ざっくり言えば、『世界は皆、人類運命共同体、ただし日本とフィリピンを除く』という外交を展開している。
これが、日本人が想像する以上に功を奏している。なぜなら、米ドナルド・トランプ大統領が、連日のイラン攻撃を始め、訳の分からないことばかりやって、信頼度がガタ落ちし、相対的に世界で中国の存在感が増しているからだ。西側諸国もアジア諸国も、『北京詣で』が絶えない。日本はいま、国会でチマチマした議論をしているけれども、中国の動向と世界情勢の変化も知っておくべきだ――」
こんな話をしたら、カリスマ・ユーチューバーとして知られる年長のコメンテーターから、「中国のエージェント(代理人)のようなことを言っている」と、カチンと揶揄(やゆ)された。加えて、このカリスマ氏の影響なのか、SNS上でも少なからぬご批判をいただいた。
私はかつて、北京に4年住んだことがある。しばしば日本と対立するような国に住むと、祖国に対する愛国心が強くなる。これは、中国に留学・駐在した日本人に、ほぼほぼ共通した傾向だ。
かつ私は、「中国ウォッチャー」ということを「職業として」やっているので、なおさら日々の中国の動向を見ている。そうすると、「井の中の蛙」「夜郎自大」をやっている日本に、時に警鐘を鳴らしたくもなるのである。私からすれば、「愛国心の発露」のつもりなのだが……。
国を挙げて「AI覇権」掌握へ
というわけで、前置きが長くなってしまったが、今回もその延長である。中国が、アメリカに成り代わって世界の「AI覇権」を掌握すべく、国を挙げて動き出したことを取り上げたい。
7月17日から20日まで、上海の西郊賓館で世界人工知能(AI)大会(WAIC=World Artificial Intelligence Conference)が開かれた。この大会は、AIの重要性が世界的な話題になり始めた2018年から毎年、上海で開いており、今回が9回目。世界80ヵ国・国際組織の代表らが参加した。
また話は飛ぶが、最近、韓国メディアの北京特派員による中国報道が、頗(すこぶ)るレベルが高い。残念なことだが日本メディアの報道レベルを明らかに凌駕しつつある。今回も、韓国『ハンギョレ新聞』の北京特派員が、「習近平首席、AI主導権競争を宣言」と題した長文の出色の記事を出した。
<WAICは、10万㎡を超える会場に1100社以上の企業が参加する中で開幕した。人型ロボットやAIなどに関連する3000点以上の製品が展示され、その中の300点以上が世界初公開の新製品だ。
ファーウェイ(華為技術)は、最大8192枚のニューラル・ネットワーク処理装置を接続する「アトラス950スーパーPoD」を発表。ユニツリー(宇樹科技)などの中国企業は、人型・産業用ロボットを公開し、先端技術分野での自立能力を誇示している……>
トランプへのアンチテーゼ
中国の官製メディアも、この一週間近くというもの、この大会の話題を報道し続けた。それは今回初めて、習近平主席が出席したこととも関連している。
習主席が出席したということは、国家として「本気」になったということだ。習主席は17日の開会式で、「公正で合理的な全世界のAIガバナンス・システムを、手を携えて構築しよう」と題した非常に長い基調講演を行った。その要旨は、以下の通りだ。
「70年前、米国のニューハンプシャー州ダートマスで開催された会議で、一群の若手学者たちが初めて、AIという概念を提唱した。70年後の現在、新たなAIの波が勢いよく押し寄せる中、私たちが人類に恩恵をもたらす方向に発展するよう共に議論することは、極めて重要な意義を持っている。
歴史を振り返ると、蒸気機関の発明が産業文明の幕を開け、電力の普及が現代社会に光を灯し、インターネットの誕生が世界全体をつないだ。現在、世界のAIの技術革新は、かつてないほど活発な時期を迎えており、万物のスマート接続、人間と機械の協調、分野横断的な融合、共創・共有といったスマート技術が、相乗的に巨大なエネルギーを放出している。
これには大きな機会が秘められている一方で、ガバナンス上の課題にも直面している。機械が思考し始めたとき、人類はどのように共存すべきか。アルゴリズムが意思決定に関与するとき、安全はどのように保障されるのか。技術が倫理に挑むとき、ガバナンスはどのように対応すべきか。格差が拡大し続ける中、いかにして包摂的な発展を実現するのか。これらの問題に対し、国際社会は深く考察し、共に答えを見出さなければならない。
中国は、手を携えて公正かつ合理的、グローバルな人工知能ガバナンス体制を構築すべきと考えている。ここに、4つの意見を述べたい。
第一に、開放とウィンウィンを堅持し、革新的な発展を推進することだ。第二に、リスク意識を強化し、安全かつ管理可能な状態を確保することだ。人工知能分野において国家安全保障の概念を汎用化したり、自国の安全を他国の安全より優先させたりする行為に、共同で反対すべきである。
第三に、包容と吸収を奨励し、文明間の相互学習を促進する。第四に、協調と共助を提唱し、グローバル・ガバナンスを整備する。人工知能は全人類の共通の知恵の結晶であり、貴重な財産である。真の多国間主義を実践し、国連の重要な役割を確実に発揮させるべきだ。
中国は責任ある大国として、一貫してAIが国際公共財の提供者となるよう尽力してきた。私が(2023年10月に)『グローバルAIガバナンス・イニシアティブ』を提唱して以来、中国側は国連総会において人工知能能力構築に関する国際協力決議の合意採択を推進し、『人工知能能力構築インクルーシブ計画』および『「人工知能+」国際協力イニシアティブ』を発表し、世界人工知能協力機構の設立を提唱するなど、絶え間なく「中国の解決策」を貢献してきた。
中国人は俗に、『一本の弦では音は出ず、一本の木では森は成らない』と言う。AIの発展は、ある一国の独奏であってはならず、世界的な協力による交響曲であるべきだ。私はここに、今後5年間で、中国が発展途上国に対し、AIについての専門研修の受講枠を5,000人分提供することを発表する。
中国は、より開放的な姿勢、より実践的な行動、より長期的な視野をもって、各方面と共に人工知能の発展がもたらす機会と課題を把握・対応し、手を携えて人類社会のより美しい未来を共に築いていきたいと願っている」
このように、習近平主席は「正義の味方」をアピールしたのだった。重ねて言うが、トランプ大統領へのアンチテーゼである。
核兵器以来の脅威
こうした傾向は、大会前日のイベントからも見て取れた。7月16日、やはり上海の西郊賓館で、中国が主催して「世界人工知能協力機構」(WAICO=World Artificial Intelligence Cooperation Organization)の設立協定の調印式が行われた。中国政府を代表して、王毅外相が署名した。
また、国連からわざわざ駆けつけたアントニー・グテーレス事務総長が、同機構設立の「証人」となった。調印式に参加したのは、以下の29ヵ国である。
中国、ロシア、アルジェリア、ベラルーシ、ブラジル、カンボジア、コンゴ、キューバ、エチオピア、インドネシア、カザフスタン、ケニア、キルギス、ラオス、レソト、マレーシア、モザンビーク、ミャンマー、ニカラグア、オマーン、パキスタン、セネガル、セルビア、南アフリカ、タジキスタン、ウズベキスタン、ベネズエラ、ザンビア、カメルーン
本当は参加したかったが、米ドナルド・トランプ政権の目を気にして、躊躇(ちゅうちょ)した国もあったろう。過去に中国がイニシアチブを取ったSCO(上海協力機構)やBRICS(新興5ヵ国)、「一帯一路」(ワンベルト・ワンロード)、AIIB(アジアインフラ投資銀行)などもそうだったが、始めは様子見していても、徐々に参加国は増えていくものだ。発展途上国としては、新型コロナウイルスが蔓延した時に中国製のワクチンを欲したように、いまは中国製のAI関連技術が欲しいのである。
WAICOの設立は、昨年7月のこの大会で、中国が提唱したものだ。それはひと言で言えば、このままでは「AI覇権」をアメリカに握られてしまうという危機感からだった。
昨年11月には、AI開発で米中に較べて出遅れているロシアが乗っかって、共同で参加国を募ることにした。だが、ロシアをコアメンバーとして入れることは、ウクライナ戦争でウクライナ側に肩入れしている西側諸国に門戸を閉ざしたに等しい。もちろん、中国もそんなことは百も承知なので、WAICOにはアメリカと西側同盟国に対抗するというメタファーが含まれていると見てもよいだろう。
そして、そこにグテーレス国連事務総長が乗っかった。これは、AIを世界規模で早く何とかしなければいけないという、国連の危機感の表れとも言える。
そうした心情は、核兵器と比較すると分かりやすい。1945年、アメリカが初めて原爆を製造し、広島と長崎に投下した。その後、ソ連(現ロシア)、イギリス、フランス、中国も保有した。
1964年に「5大国」すべてが保有したところで、国連は核兵器が世界に拡散することを恐れるようになった。そこで、国連のもとにNPT(核兵器不拡散条約)体制を作り、1970年に発効させた。日本は1976年に加盟し、いまでは世界191の国と地域が加盟している。
NPTは3本柱からなっている。第一に、5大国以外に世界で核兵器を持たせない。第二に、5大国は核軍縮の交渉を行う。第三に、5大国以外でも原発などの平和目的での原子力の使用は認める。
その後、インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルが核開発に走るなど、NPT体制には課題が多い。それでも、まがりなりにもNPT体制が存在することで、広島・長崎に次ぐ「第2の核兵器使用」は防止してきた。その意味で国連は、「世界の核兵器を監視する」という役割を果たしてきたのである。
いまや、核兵器の出現以来とも言える、世界秩序を一変させるAIという道具を人類は発明した。核兵器は国家が管理できるが、進化したAIは制御不能となるかもしれない。そこで、一刻も早く国連が主導してNPTのような監視体制を作らないといけないという危機感を、グテーレス事務総長は抱いているのである。
各所に表れる「トランプ批判」
だが、こうした国連の動きに強く反対しているのが、アメリカのトランプ大統領だ。「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領は、アメリカがAIで世界の主導権を取ることこそが、世界覇権を継続させるカギになると考えている。そのため、国連と足並みを揃えて監視体制を作ろうなどという気は毛頭ない。
そもそも、トランプ大統領とグテーレス事務総長は、「犬猿の仲」で知られる。トランプ政権1期目の初年度、2017年9月の国連総会で一度だけ、ランチを共にしたことがあった。だが互いの溝は埋まるどころか、かえって広がった感じだった。以後は、互いに顔も合わせていない(と思う)。
逆に、習近平主席とグテーレス事務総長は「蜜月関係」にある。グテーレス事務総長は、もともと習主席と同じ社会主義者で、ポルトガルで社会主義政党の党首として首相になった。その後、2017年に国連事務総長になれたのも、中国が後押ししたことが大きかった。
グテーレス事務総長の任期は、今年の年末までで、今月下旬の国連安保理事会と9月の国連総会に向けて、次期事務総長候補たちのデッドヒートが展開中だ。ここでもやはり、米中が水面下で角逐している。
ともあれ、任期切れ間近のグテーレス事務局長率いる国連としては、アメリカがダメなら中国と手を組んで、何とかしてAIについての国際的な規制・監視の体制を構築しようとしているのである。
グテーレス事務総長は、7月17日午後、習近平主席と会談した。その席で、こう述べた。
「習近平主席の堅強な指導のもと、国際情勢がいかに困難で複雑であろうとも、中国は一貫して多国間主義と国連の活動を断固として支持し、国際協力を推進し、世界に模範を示している。中国は、発展の不均衡是正、気候変動への対応、AIの善き利用、発展格差の解消、公正と正義の維持に一貫して尽力している。一連の重要な理念やイニシアチブを提唱しており、その姿勢は称賛に値する。
国連は今後も中国との協力を強化し、一国主義、保護主義、覇権主義や抑圧に反対し、国連憲章と国際法を擁護し、世界の多極化プロセスを推進し、国際社会の共通の利益を守っていく」
やはり発言の各所に「トランプ批判」が含まれているように思える。習近平主席もこう述べた。
「あなたが国連事務総長に就任してからの10年間、国連を率いて多国間主義を断固として擁護し、気候変動などの地球規模の課題に積極的に対応し、人工知能などの新興分野におけるグローバル・ガバナンスを推進し、国連改革のプロセスを開始したことを、中国側は高く評価している。(中略)中国はこれまでと同様に国連との協力を深化させ、世界の平和と発展の事業を促進し、『人類運命共同体』の構築を推進していく。
現在、国際情勢において変化と混乱の側面がより顕著になっており、真の多国間主義をさらに実践し、国連の地位と役割を再活性化させる必要がある。
第一に、公正と正義を堅持することだ。すべての国は国際社会の対等な一員であり、各国の主権、領土保全、および正当な権益は尊重されるべきであり、決して世界を『弱肉強食』の時代に戻してはならない。
第二に、『正義を守り、革新を図る』ことを堅持していく。『正義を守る』とは、国連憲章の目的を遵守し、第二次世界大戦後に確立された国際体制とルールをしっかりと維持することだ。『革新を図る』とは、国連が時代の変化に応じて変革を進め、勇気を持って自己革新を行い、さらなる質の向上と効率化を図ることを意味する。
第三に、責任を果たし、行動を起こすことだ。世界190カ国以上が、運命を共にする一つの船に乗っており、『同舟共済』の精神で手を携え、地球規模の課題に立ち向かわなければならない。
大国はより多くの責任を担い、より大きな視野を示すべきだ。中国は常に具体的な行動を通じて、新時代における大国間の正しい共存の道を模索することを積極的に推進し、世界にさらなる安定性と確実性をもたらしていく」
重ねて言うが、アメリカがあの体たらくなので、こうした中国の説く「正論」が、世界に響くのである。
今回、日本の隣国で、AIについてこれだけのビッグイベントが開催されたにもかかわらず、「日本の影」はほとんど見られなかった。国会のセンセイ方も、通常国会が閉幕したら、世界に目を向けていただきたいものだ。
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