その翻訳、もしかして「AI」でやりました……?
ChatGPTやDeepL、GeminiやClaudeなど、急速に進歩したAI翻訳を使えば「破綻のない英語」を書くのは簡単です。しかし、破綻がないことが、「理系英語として正確」かつ「世界に通用する」ではありません。AIによる出力結果を、正確な理系英語に“整える力”が必要です。
「正確な理系英語」を出力させるための、日本語原稿作りの重要ポイントとは……?
全理系人に必須の考え方とテクニックを、豊富な実例を交えて懇切丁寧に解説した待望の書が、ご自身の英語論文執筆に加え、学術論文や産業分野の技術文書の英訳の経験も豊富な物理学者、森弘之さんの筆による『論文から技術文書まで 「AI翻訳」で書く理系英語入門』(講談社ブルーバックス)です。
本シリーズでは、この注目の書から、AI翻訳に必須のテクニックと、注意すべきポイントのいくつかをご紹介していきます。
本シリーズでは、この注目の書から、AI翻訳に必須のテクニック、ポイントのいくつかをご紹介していきます。
今回は、論文や技術文書の「主語」について考えます。じつは、分野や文書の性質によっても、選択の基準がかなり異なるそうで、注意が必要な重要テーマなのです。
*本記事は、『論文から技術文書まで 「AI翻訳」で書く理系英語入門』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
「we」にするか「I」にするか
英語論文を単著として書く際、多くの日本人執筆者が迷うのが、著者自身を指す主語を「we」にするか「I」にするかという問題です。
日本語ではあまり意識されませんが、英語ではこの選択が論文のトーンや読者との距離感、さらには専門分野における慣習に大きく影響します。
理系論文のなかでも、物理学、化学、工学、医学、生命科学、計算機科学などの分野では、単著論文であっても「we」を使うのが一般的です。
その理由は、「we」が「私たち研究者」という広義の集団を意味することに加え、「読者とともに考察を進めていく」というスタンスを表現しているからです。論文執筆が研究室全体の成果であることや、読者を含めた議論の枠組みに「私たち」という集団性を感じさせたいという文化的背景に基づいています。
また、「we」という主語によって、研究行為そのものに客観性を持たせるという効果もあります。典型的な表現は次のとおりです。
We designed a new catalytic system for hydrogen production.
(水素製造向けに新しい触媒システムを設計した)
We conducted the experiments using a 500MHz NMR spectrometer.
(500MHzのNMRスペクトロメーターを用いて実験を行った)
We show that the proposed method outperforms existing models.
(提案した手法が既存のモデルを凌駕することを示す)
「we」ならOKというわけでもない
他方、数学や理論物理学などの一部の分野では、「I」を使うことが受け入れられる場合もあります。私も、理論物理学の大御所と言われる人が「I」を使った論文を書いているのを読んだことがあります。
ただし、これも投稿するジャーナルや分野の慣習に依存するため、必ずしも一律ではありません。とくに国際的な学会誌では、編集方針として「we」を推奨しているケースが多く見られます。
少々ややこしいのは、「著者」を表現する必要がある場合には、「we」は不適切である点です。上述したように、「we」は必ずしも論文の著者を表すとは限らないからです。
そのため、明確に「著者」と書きたい場合には「the authors」を使います。たとえば、複数の著者がいる論文で「著者の一部による以前の研究」と言いたいときには、次のように書きます。
previous study conducted by some of the authors
また、謝辞を書くとき、感謝の意を表している主語が「we」では、前記と同様の理由から適切ではありません。感謝しているのは著者当人なので、そこははっきりと「the authors」と書く必要があります。
技術文書における「一人称」をどう考えるか
技術文書の場合は、「we」か「I」かという選択以前の問題として、そもそも「著者を表に出してよいか」という点を考える必要があります。
たとえば、誰でも想像がつくように、マニュアルや仕様書に著者を表現する「we」や「I」が出てくるのは違和感があります。マニュアルや仕様書の類は、読み手に対して書き手を意識させることのない文章だからです。
一方、特許文書はどうでしょうか。
当然のことながら、その特許技術には「発明者」が存在します。これは学術論文の著者と同じです。
しかし、論文とは異なり、「we」や「I」は避けるのが一般的です。発明者や出願者を表すには、まさにそれに相当する英語である「inventor」や「applicant」などを用います。
では「報告書」はどうでしょうか。
たとえば製品に不具合があり、メーカー側が検査や必要な実験を行ったうえで、メーカー側に製造責任があるかどうかを判断しなければならないこともあるでしょう。そのため、通常は書き手が誰であるかを意識させない文章が使われますが、「当社」などが主語になることもありえます。
この場合は「the company」や具体的な社名を使うのが一般的です。
*