相場はAI・半導体関連株に一曲集中
2026年6月3日、日経平均株価は終値で6万8,402円13銭をつけ、過去最高値を更新した。3月末に51,000円台だった指数が、わずか2か月あまりで1万7000円超上乗せした計算になる。年初からの上昇率は約36%、けん引役は「半導体」一色だ。
キオクシアの時価総額がこの5月に初めて30兆円を突破し、6月1日にはソフトバンクグループがトヨタ自動車を抜いて約22年ぶりに国内時価総額首位に立つなど、AIや半導体関連株に持たざるリスクを意識した資金がなだれ込み、相場の一極集中はいよいよ極まっている。
新NISAで個人投資家がコツコツ積み上げてきた人気高配当株の定番であるメガバンクやNTTなどの通信大手は、半導体ラリーに乗れないどころか、いまや「安全資産」にすら利回りという最後の砦で抜かれ始めている。
「高配当株はオワコン」になってしまったのだろうか。金利のある世界で、いま利回りをめぐる競争が激化している。
配当金より国債の利回りが高い?
まず事実を押さえたい。2026年4〜5月の半導体主導の急騰局面で、メガバンクや商社の株価は下がったわけではない。むしろ上がっている。だが上がり方が指数に追いつかず、しかも株価が上昇した分だけ配当利回りが押し下げられている。
みずほフィナンシャルグループの予想配当利回りは、2026年6月8日時点(以下同)で1.98%。三菱UFJ、三井住友も大幅増配を続けながら共に3%前後。三井住友は配当性向40%を維持しつつ連続増配を続け、2026年3月期決算は経常利益が前年比34%増という好決算だったにもかかわらずだ。
総合商社も同様に配当利回りは低調だ。三菱商事の予想配当利回りは2.59%、三井物産は約2.84%となっている。
ここで視線を「株という箱」の外に向けると、風景が一変する。日本国債の利回りが、歴史的な水準まで駆け上がっているのだ。
10年物国債の利回りは2026年5月下旬時点で約2.7%だった。4月のコアインフレが2%目標を大きく上回って加速し、日銀の追加利上げ観測が強まったことが背景にある。長期金利は完全に「金利のある世界」へ移行した。超長期ゾーンの上昇はさらに鮮烈で、30年物国債利回りは2026年1月に一時3.52%をつけ、過去最高を更新している。
この数字を、先ほどの高配当株の利回りと並べてみてほしい。
満期保有なら元本が確定し、信用リスクもほぼゼロの国債が、利回り約2.7%(10年)から3.5%(30年)。一方、株価下落で元本割れもありうるメガバンクや商社の配当利回りは約2〜3%にとどまる。ここに、株と国債の逆転が起きている。
株価が下落するリスクを背負ってメガバンクの配当2%を取りにいくより、10年国債を黙って持っているほうが利回りで上回る。下落リスクを取って株を持つのに、リスクを取らない国債と同じか、それ以下のリターンしか得られない――リスクを調整した実質的なリターンで考えれば、株の優位性は大きく削られているわけだ。
これは、バブル崩壊後の日本で長く続いてきた「インカムが欲しいなら高配当株」という大前提が、根本から崩れたことを意味する。
もっとも、ここだけを切り取って「株が国債に全面敗北した」という話ではないことも確かだ。国債の利回りは買った瞬間に固定されるが、企業の配当は業績が好調であればそこから増えうるし、株価も値上がりしうる。
株には「成長」という、国債にはない武器がある。より正確には、下落リスクの対価に見合うだけの増配力と成長力が株式に要求される時代へ変わった、というべきだろう。
高配当株「冬の時代」の歴史
ここ30年で、高配当株が冷遇された代表的な局面を2つ紹介したい。
まずは2000年前後のITバブル期だ。
利益の裏付けに乏しいネット関連株に資金が殺到し、地味な高配当・バリュー株は無視された。だがバブルが崩壊すると、市場が最後に信頼したのは「実際の収益力と経営基盤」だった。夢ではなく、現に稼ぎ、現に配当を出せる企業が選別されて生き残った。
2度目は2013年のアベノミクス初期だった。2012年11月から2013年5月にかけて日経平均は78.4%上昇したが、主役は円安メリットを受ける輸出株とグロース株で、高配当バリュー株は出遅れた。
しかしその後の長い上昇相場で報われたのは、出遅れ組の中でも「増配を継続できた企業」だった。一過性のテーマで跳ねた銘柄ではなく、利益成長に裏打ちされて配当を毎年積み増せた企業が、最終的に株価とインカムの両取りを実現している。
生き残る配当株を探す「三つの軸」
これらの局面が示す教訓を、現在の定番銘柄に当てはめる「ものさし」として、三つの軸を提案したい。
第一に、配当原資の質だ。
総合商社の高配当は、近年の資源価格高騰による一過性の利益に支えられた部分が大きい。2026年度に減益が予想されるいま、資源市況の反転で配当原資が細るリスクを見る必要がある。
対照的に、メガバンクの増配は金利上昇に伴う利ざや改善という構造要因に支えられており、原資の質は相対的に良好だ。同じ「高配当」でも、原資が市況頼みか構造要因かで、持続力はまるで違う。その配当が何から支払われているのかに、注意すべきだ。
次に、ROE(自己資本利益率)水準を確認したい。
配当を出しながら、なお資本を効率的に使って稼げているか。高配当でもROEが低い企業は、成長に再投資できず配当でしか株主に報いられない「ジリ貧型高配当株」の疑いがある。
第三に、成長性だ。国債利回りが3%に届く時代に、利回りの低い株をあえて持つ理由は、将来への期待にほかならない。
たとえば購入時点の配当利回りが1%でも、毎年大きく増配を続けられる成長企業なら、取得した株価に対する実質的な利回り(取得利回り)は年を追うごとに2%、4%と膨らんでいく。長い目で見れば、利回りが固定される国債を上回るケースも十分あり得る。
この点、NTTのような巨大企業のディフェンシブ銘柄は安定しているが、増配の伸び余地は限定的だ。この場合は国債との差別化が難しくなる。
この三軸でスクリーニングすれば、同じ「高配当株」でも評価はくっきり割れるだろう。
オワコンなのは「株の中だけで考える発想」
高配当株はオワコンか。答えはノーだ。
そして、問いの立て方そのものが古い。本当に問われているのは、「株という箱の中だけで利回りを考える発想」が、金利のある世界ではもう通用しない、ということだ。
配当利回りは、同年限の国債利回りを上回っているか。下回っているなら、株を持つ理由を増配と値上がり期待の両面で説明できるか。
配当原資は構造要因(金利・安定収益)か、それとも市況・一過性の益か。後者なら、ピークアウト後の減配を織り込んでいるか。
これにイエスと言える銘柄だけが、いまの相場で「あえて株で持つ高配当」に値する。
高配当株が終わったのではない。何も考えずに「高配当だから」と買えた時代が、終わったのだ。
変わったのは銘柄ではなく、それを測るものさしのほうである。
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