「焼肉店」の倒産ラッシュが続いている。東京商工リサーチの調査によると、2025年度の「焼肉店」の倒産(負債1000万円以上)は57件にのぼり、これは前年度比14.0%増の数字であり、2年連続で過去最多を更新したそうだ。原材料費や人件費の高騰に加え、消費者の節約志向も重なり、いま、焼肉業界は明確な逆風下にある。
そうしたなか、ひときわ象徴的な存在がある。かつて全国に800店舗以上を展開し、世界展開も果たした焼肉チェーンの王者だった『牛角』だ。なんと現在(2026年4月)、牛角の国内店舗数は約480店舗にまで減少しており、かつての勢いは見られなくなっている。フードアナリストの重盛高雄氏に話を聞いた。(以下、「」内は重盛氏のコメント)
記事前編は【焼肉界の王者「牛角」の閉店ラッシュが止まらない…絶好調な「焼肉きんぐ」との決定的な違い】から。
牛角に生じていた“小さなミスマッチ”の蓄積
牛角はどこで時代とのズレを生んだのか。背景にあるのは、コロナ禍での“失敗しきらなかった体験”だという。
「焼肉業界がコロナ禍で受けたダメージは比較的小さく、牛角はある意味“どん底”を経験していない。そのため戦略の見直しが遅れ、“失敗しきらなかった体験の延長線上”で動いてきた可能性があります。
そのうえで最近、私自身が牛角の店舗を実際に訪れて感じたのは、“小さなミスマッチ”の積み重ねでした。お一人様需要やインバウンド対応の遅れに加え、満席時の案内がわかりにくいなど、基本的なオペレーションにばらつきがある。本来なら『予約で埋まっています』と明示するだけでも印象は変わるはずですが、そうした細部が徹底されていない。結果として、“また来たい”という動機が弱くなっている印象です」
重盛氏は“牛角の現状”をさらに掘り下げたうえで、次のように指摘する。
「以前は“安くて満足できる”が強い訴求でしたが、いまは“価格に見合う体験かどうか”で選ばれる時代です。外食回数を減らしてでもいい店に行く層と、徹底的に節約する層に分かれるなかで、牛角は大きく変わっていない。ブランドが確立されている分、大きく舵を切りづらく、立ち位置が曖昧なままになっています。
たとえば価格帯で見ても、牛角の単品メニューは一皿平均800円前後。一方で、少し上の価格帯には“一皿1000円~2000円でも満足度が高い店”が存在しています。そうしたなかで、“どちらを選ぶか”と考えたときに、牛角が選択肢から外れてしまう場面が出てきているのです」
新業態の展開も進む
そんななか牛角は、『牛角焼肉食堂』や『牛角食べ放題専門店』といった新業態の展開を進めている。これは明確な戦略転換に思えるが――。
「方向性としては自然ですので驚きはありません。従来の牛角は利用シーンが限定されていたため、『牛角焼肉食堂』のようなフードコート型や、『牛角食べ放題専門店』のような食べ放題業態に挑戦することで客層を広げる狙いは理解できます。ただ現状は、“本腰を入れた転換”というより“もしその業態が当たれば広げる”という程度の段階に見えるのです。
例えばファミリー層を本気で取り込むなら、価格設計やメニューをもっと踏み込んで変える必要があります。子ども向け施策でも、思い切った無料施策や特化メニューなど、より強い打ち出しが求められるでしょう。ただ現状はコラボやキャンペーンは目立つものの、“どの客層に強く来てほしいのか”がやや曖昧で、新業態もブランド全体の再定義にはまだつながっていないように映ります。
厳しく言えば、このままでは“衰退しているブランド”と見られても仕方ない。4月下旬にグランドメニューを刷新していましたが、それを踏まえても、市場も消費者も変わっているのに価値提案の更新がさほどされていないと感じます。その結果、選ばれる理由が弱くなっているのが現状です」
再成長のカギは“誰に選ばれる店か”の再定義
一方で、巻き返しの可能性が閉ざされたわけではないと重盛氏は語る。
「牛角は海外展開もしており、本来は成長余地のあるブランドです。特にアジア圏では、日本式焼肉そのものに高い価値があり、価格帯も国内とは異なる水準で成立しています。国内だけでなく、海外のローカル市場や富裕層をどう取り込むかといった視点も、今後はより重要になってくるでしょう」
では、国内で牛角が再び成長軌道に乗るために何が求められるのか。
「前提として、価格だけで勝負するのはもう難しいでしょう。原材料費の上昇もあり、単純な値下げには限界がありますし、単価を上げるだけでも支持は広がらない。重要なのは、“誰に選ばれる店なのか”を改めて定義し直すことです。
最終的には、“来てよかった”と思わせられるかどうか。価格以上の満足感や、小さな感動をどう設計するか。そこが強化されれば、自然と“選択肢に入る店”には戻ってくるはずです」
――かつて焼肉に“オシャレ”という概念を持ち込んだ革新性は、いまもブランドの核として残っている。だが、その価値を現代の消費者にどう再提示するのか。再び選ばれる存在になれるかどうかは、その問いに真正面から向き合えるかにかかっているのかもしれない。
(取材・文=逢ヶ瀬十吾/A4studio)
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