焼き魚を主力に据えた定食チェーン「炭火焼干物定食 しんぱち食堂」が急速な成長を遂げている。現在、全国に60店舗以上を展開し、さらに今年3月にはすかいらーくホールディングスが買収を発表。さらに出店を加速させ、2030年にグループ300店舗の達成を目指しているという。
だが、そんな新進気鋭のチェーン店にも懸念要素が無いわけではない。すかいらーくも不安視する、“思わぬ弱点”が露呈しつつあるというのだ。
【前編記事】『「投資回収まで100年以上」驚きの計算も…定食チェーン「しんぱち食堂」で大バクチ、すかいらーくの勝算は』よりつづく。
どこも真似できない「しんぱち食堂」の強み
フードビジネスコンサルタントの永田雅乙氏によれば、「炭火焼干物定食 しんぱち食堂」(以下、「しんぱち食堂」)という業態そのものの完成度は非常に高いという。
「同チェーンのコンセプトはずばり焼き魚専門のファーストフード。これまで『焼き魚』という料理は、その工程ゆえオペレーションが複雑になりやすく、何より“焼き立て”で提供するのも難しいとされてきました。焼き魚の専門業態がこれまであまり出てこなかったのはそのためで、大手定食チェーンでも避けられがちだったのです」
そこに目を付けたのが、業界内でも“アイデアマン”として知られる創業者の江波戸千洋氏だ。
同氏はこれまでにも立ち食い焼肉の先駆けとなった「立喰い焼肉 治郎丸」などユニークな業態を開発してきたことで知られるが、「しんぱち食堂」では炭火焼機を独自に開発。これにより一般的な焼き時間の半分で、皮は香ばしく身はふっくらとした仕上がりを実現したという。永田氏も「他が参入しようとしても、この短時間ぶりは真似できない」と言う。
この“模倣困難性”を最大の武器としつつ、優位性をもつ点は他にもある。外食チェーン店の多くがランチ~ディナーにしか営業していない一方、「しんぱち食堂」は朝から夜まで営業しているしている点だ。
レベルの高さは「サイゼリヤ」に匹敵するが…
定食業態でありながら、「しんぱち食堂」の営業時間は基本的に朝7時から夜11時まで。つまり、ランチだけでなく、朝食、さらには夜の“ちょい飲み”需要も満たすことができている。
特に飲み需要のけん引役として挙げられるのが、同チェーンの『生ビール(アサヒスーパードライ)』。こちらは定食メニューを注文した客のみが頼めるという制約はあるものの、値段はたったの160円(税別、店舗ごとに変動あり)。その上、酒の肴となる小鉢メニューも『冷奴』や『インゲン胡麻和え』、『高級ネギトロ』などがあり、いずれも100円以下と、激安居酒屋チェーンも驚く安さだ。
実際、運営側にとっても想定以上に夜の集客率が高かったらしく、報道によれば、〈当初の売上比率の想定では朝0.5、昼2、夜1だったが、実際は朝0.5、昼1、夜2。夜の方が昼の2倍の売上がある〉とのことだ(『ビジネスチャンス2025年4月号』より引用)。
ここまで見ると、「しんぱち食堂」は特にコスパ最強と呼び声高い「サイゼリヤ」によく似ていることがわかる。こちらも模倣困難なローコスト構造を武器に、安くて美味しいイタリアンを提供。グラスワインは1杯100円で「サイゼ飲み」を提案、さらに最近ではモーニングの「朝サイゼ」も開始している。
「しんぱち食堂」は、まさに“定食界のサイゼリヤ”――もしそれが本当なら、「2030年に300店舗達成」という壮大な目標も現実味を帯びてくる。だが、比較しておいて恐縮だが、サイゼリヤとは大きな違いが存在する。それこそが、今後同チェーンの致命的な弱点になりうるかもしれない。
低すぎる営業利益に「答え」があった
一見、完成度の高い「しんぱち食堂」だが、本当に弱点などあるのだろうか。前出の永田氏はこう分析する。
「買収前の運営元である株式会社しんぱちの業績を見ると、2025年10月期の売上高は前期比32%増の64億円と好調な推移を見せていますが、気になったのは営業利益の低さです。前期は1100万円の赤字だったのが今期は7600万円の黒字と数字上ではプラスになっていますが、それでも同チェーンの規模感を考えると、かなり低い金額です。
こうした営業利益がやたら低い外食チェーンの場合、考えうる要因は2つ。『オペレーションコストが高い』か『原価率が高い』かのどちらかです。前述にある通り、創業者の江波戸氏はDX(デジタルトランスフォーメーション)化に強いことで知られるので、前者は考えにくい。となると、商品原価が高いというのが課題となりえます」
「しんぱち食堂」を訪れたことがある人なら分かるだろうが、同チェーンは徹底したDX化が施されている。タッチパネル注文や無人でお会計ができる自動釣銭機を導入しており、入店から退店まで、スタッフが関与するのは料理を席に届けるタイミングのみだ。
では永田氏が指摘する原価率の高さは、どう影響してくるのか。それはいたってシンプル、「値上げ」のリスクが高まりやすいということ。「しんぱち食堂」の公式サイトを見る限り、価格改定に関するお知らせは出てこない。ところが、そのウラで度々“ステルス値上げ”が行われているというのだ。
店の貼り紙で「値上げ」を知るしかない
店舗や地域・エリアごとに価格設定が変動する外食チェーンであったとしても、運営会社が「価格改定に関するお知らせ」という形で全体のリリースを出し、値上げの実施を消費者に伝えるのが一般的だ。
ところが、編集部の調べでは、「しんぱち食堂」はこれまで、一斉リリースという形で値上げを知らせる様子は見られない。一部報道では、〈価格変動の激しい魚を取り扱う同店は、半年に1回の価格改正をしている。〉(『ビジネスチャンス2025年4月号』より引用)としているが、こちらも公式サイトで言及されているわけではない。
では、消費者がどのタイミングで「しんぱち食堂」の値上げを知るかと言えば、各店舗が店頭に掲示する「価格改定に関するお知らせ」という貼り紙1枚で、店を訪れて初めて気付く、という状況になっているという。チェーンらしからぬ、言ってみれば“個人経営店スタイル”だ。
ちなみに今年5月1日から、またしても値上げが実施されたことが一部店舗の貼り紙から分かっている。それによれば、
〈昨今の米を含む原材料費や物流コストの高騰を受け、現在の品質を維持しながら安定した商品の提供を続けていくため、価格改定を実施させていただくことになりました。特にさばやサーモン関連商品につきましては、原材料価格の高騰により、やむを得ず大幅な値上げを実施せざるを得ない状況となっております。〉
だという。漁獲量の減少や原油価格の高騰などを鑑みれば、魚を扱うチェーン店として、どれだけ経営努力しても、値上げを余儀なくされることは十分理解できる。だが、消費者にとって“ステルス値上げ”にも思われるような告知方法はいかがなものか――。
すかいらーくが買収した矢先、「しんぱち食堂」のさらなる飛躍のタイミングに“水を差す”事態にならなければいいのだが。
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