高市首相が、官邸に招いたアメリカのテック企業、パランティア・テクノロジー社。前編ではその実態が、CIA資金で作られ、Googleすら逃げ出した「殺人にもつながるAI」を開発している企業であり、創業者の倫理に外れた発言も度々問題になっていることを確認した。
【前編はこちら→『【日本人が知らない】高市総理が急接近した「ピーター・ティールのAI企業」の壮絶実態』】
そうした中で、同社のシステム導入に向けて動き始めているのが日本だ。
2026年1月16日、小泉進次郎防衛相がワシントンのパランティア本社を訪問した。同社幹部との会合で小泉氏は「安保戦略を考える上で、AIや無人機の活用が非常に重要なポイントだ」と述べ、安保3文書改定に向けた議論に反映させる考えを示している。
現状、日本政府は富士通などの民間企業を通じてシステムを調達する方向で調整が進んでいる。そのシステムとされるのがPalantir Gothamである。Gotham(ゴッサム)とは、国家が持つバラバラのデータを統合して、AIが分析・監視するシステムだ。
警察の犯罪記録、税務署の納税データ、入管の出入国記録、防衛省の機密情報、SNSの投稿履歴……これらは通常、別々のデータベースに保管されている。ゴッサムは、これらを一つのプラットフォームに統合する。そして、AIが「誰が誰とつながっているか」「誰が危険人物か」を自動で分析し、地図やネットワーク図で可視化する。
米メディア『Wired』によれば、パランティアの元社員は「政府機関がある人物について知っているすべての情報、運転免許証の目の色から、交通違反の車のナンバーまでを一箇所に集約できる」と証言している。
現在のマイナンバーカードは、あくまで「照会システム」だ。税務署が納税記録を、入管が出入国記録を、それぞれ個別に管理している。マイナンバーで紐付けられているとはいえ、各機関が持つデータは基本的にバラバラのままだ。
ところがゴッサムは違う。すべてのデータを一つのプラットフォームに統合し、AIが横断的に分析する。たとえば、ある人物の名前を検索すると、こんなことが一瞬でわかる。
・過去5年間の納税記録(国税庁)
・出入国履歴と渡航先(入管)
・SNSの投稿内容と交友関係(警察が収集したデータ)
・自動車ナンバー読み取り装置が記録した移動履歴
・携帯電話の位置情報
そして、AIがこれらを組み合わせて「この人物は過去にAさんと会っている」「Bという場所に頻繁に出入りしている」「Cという組織とつながりがある可能性がある」といった分析を自動で行う。さらに、犯罪を起こす危険性まで予測する。
つまり、マイナンバーが「個人情報の照会システム」だとすれば、Gothamは、個人の行動を丸ごと監視するどころか、予測までしてしまうシステムなのだ。
完璧な安全……いや、監視システムだ。そのよくも悪くもあまりに優秀な監視システムに、導入を検討した主要国は次々と逃げ出している。
ヨーロッパが忌避するパランティア
ヨーロッパでは、当初は効率的な管理が行えると期待されたシステムの実態に狼狽し、キャンセルが相次いでいる。例えば、2023年2月、ドイツ連邦憲法裁判所は、ヘッセン州とハンブルク市の警察がパランティアのシステムを導入する法律について「違憲」との判決を下した。理由は「情報自己決定権の侵害」というものだ。
ここで問題になったのは、ヘッセン州が2017年から運用していた「hessenDATA」である。これは、犯罪予防を目的としたシステムで、警察が持つ膨大なデータを統合してAIが分析するというものだ。
ところが、このシステムには致命的な欠陥があった。米テック誌『Techdirt』によれば、裁判所は「警察がワンクリックで、容疑者とその周辺の人物を区別することなく、包括的なプロファイルを作成できる」と指摘している。
つまり、犯罪容疑者を弁護した弁護士、その家族、たまたま弁護士事務所に電話した人までもが、すべて同一の犯罪ネットワークのメンバーとして自動的にピックアップされていくことが問題とされたのだ。
ようは暴力団員の弁護にあたっている弁護士に、まったく別の依頼で電話したら、それだけで「この人も暴力団関係者です」とAIが自動的にピックアップするわけである。優秀どころかポンコツすぎるシステムである。裁判所が違憲判決を下すのも当然だろう(しかし、パランティア社はどこ吹く風だ)。
このことをもっとも明確に語っているのが、スイス軍がまとめた非公開の調査報告書だ。
デジタル主権を失うリスク
スイスの調査報道誌『Republik』が情報公開によって得た資料をもとに2024年12月に報じたところによれば、スイスは2017年から2024年までの7年間に、連邦政府の複数の機関がパランティアからの売り込みを少なくとも9回にわたって拒否している。
軍、保健省、マネーロンダリング対策部門、統計局……あらゆる政府機関がパランティアの提案を断った。 そして2024年12月、スイス軍参謀本部は20ページに及ぶ内部評価報告書をまとめ、パランティアのシステム導入を最終的に拒否したと報じている。
しかし、パランティアは反省するどころか『Republik』に対して「反論権が十分に与えられなかった」と訴訟まで起こしている。
スイス政府が導入を拒んだ最大の理由は「デジタル主権」である。
もし、アメリカ政府がサーバーに保存されているデータの提出を求めた場合、GoogleやAmazonも法的に従わざるを得ない。ただし、これらの企業は民間顧客が主であり、政府の要求に対して法廷で争う余地がある。
ところが、パランティアは最初から争わないのではないかと思われる。創業時にCIA傘下のベンチャーファンド・インテキュルから出資を受け、最初の顧客がCIAだった。つまり、設立当初からアメリカ情報機関のために作られたとも言えるからだ。
しかも、アメリカには「CLOUD Act」という法律がある。CLOUD Act(Clarifying Lawful Overseas Use of Data Act)は2018年に成立したアメリカの法律だ。この法律により、米国企業が管理するデータは、たとえ外国のサーバーに保存されていても、米国政府が令状を出せば開示しなければならない。
どういうことか。たとえば、日本政府がパランティアのシステムを導入し、データを日本国内のサーバーに保存したとする。それでも、パランティアは米国企業である以上、CLOUD Actが適用される。
つまり、FBIやCIAが「日本のデータを見せろ」と令状を出せば、パランティアはそれに従う法的義務がある。日本政府が拒否する権利はない。
一方で、パランティアはあくまで民間企業であるため、日本政府が「このデータを見せろ」と求めても、契約上の制限を理由に拒否することも可能だ。つまり、米国政府にはデータが筒抜けになる一方、データの本来の持ち主である日本政府が自国のデータにアクセスできない事態すら起こりうる。これが、日本政府が自国のデータを管理する主権を失う恐れがあるということの意味だ。
これはパランティアだけの問題ではない。AWS(Amazonのサービス)やGoogleクラウドを使っていても、CLOUD Actは同じように適用される。
行政のDX化は目下話題になっているが、日本だけは、誰もAWSやGoogleクラウドを使うことのリスクを問題にしていない。ヨーロッパ各国がデジタル主権を巡って米系テック企業の排除を進めている中、日本政府は無防備なまま、米国企業のシステムに依存し続けている。
そんな意識のまま、防衛省はパランティアのシステムを導入しようとしているのである。
NATOは導入後に後悔——でも、もう抜けられない
もっとも、そのヤバさに気づかずやらかしてしまっているのは、日本だけではない。
2025年3月、NATO(北大西洋条約機構)通信情報局は、パランティアの「Maven Smart System」の導入を正式に発表した。NATOによれば、「わずか6ヶ月で契約を完了した、NATO史上最速の調達」だという。
ヨーロッパ諸国は、パランティアのシステムへの懸念が明らかになった後に契約してしまっている。あまりにも愚かだ。いま、ドイツやスイスなどヨーロッパでパランティアへの懸念が広がっている中で、NATOが同社のシステムを切れないのは、一度導入してしまったからに尽きる。
パランティアのシステムは、一度導入すると、すべての業務フローがそのシステムに組み込まれる。データ、分析、意思決定のすべてが、パランティアのプラットフォームなしでは動かなくなる。つまり、契約を切ろうとしても、代替システムへの移行に膨大なコストと時間がかかる。事実上、撤退不可能だ。
これが「ベンダーロックイン」と呼ばれる罠である。しかも、データはすべてパランティアのサーバーに保存されている。契約を切ったら、過去のデータにもアクセスできなくなる。
ドイツは違憲判決で逃げ、スイスは9回断って逃げた。だが、NATOは問題が明らかになった後に導入してしまった。それなのに、日本だけが、何の議論もないまま、ノリノリで買おうとしている。
これが無知ゆえなのか、確信犯なのか。いずれにせよ、この国の安全保障は、致命的な選択ミスの入り口に立っている。
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