実行犯に有罪判決が下り、終結したかに見えた積水事件。だが、獄中から届いた手紙が、葬られたはずの衝撃的な真相を次々と暴き出していく。
前編記事『土浦のいちばん高級なキャバクラで「一晩50万豪遊」地面師たちが騙し取ったカネの行方』より続く
一晩で200万〜300万円の散財
【残された謎② 積水から奪った55億円は誰がどう懐に入れたのか】
カミンスカスは手紙で何度もこう訴える。
〈私が受け取った金員は(仮)契約時の紹介料の1億円だけです〉
さらに、本来は無事に成約すれば2億円のところ、事件化してもらい損ねて、1億円になったと愚痴るのである。
この発言はウソだろう。さすがに実行役のカミンスカスが、55分の1ということはありえない。
事件当時、カミンスカスは自らのマンションに大きな荷物を運び込んでいる。捜査では、「運び屋」の大塚洋とキャリーバッグをガラガラと引きずっている防犯カメラ映像の存在も浮かんでいたのだ。
カミンスカスは積水ハウスと仮契約を果たした前後に、タワーマンションを2部屋購入している。そのうち1部屋をカミンスカスから買ったという不動産業者は取材にこう答えた。
「小山(カミンスカスの旧姓)はあの当時、すごく羽振りがよかった。1億円だけではあんな遊び方はできません。浅草のサウナに呼び出されたときに、『俺はあんたにいくら借りているんだっけ? いくら欲しい?』と聞くから『300(万円)くらいかな』と答えたら、いきなり札束を取り出して何百万円か渡してきたりしました」
その頃は浅草のフィリピンパブの常連で、一晩で200万~300万円散財していたという。
報酬は「命がけの奪い合い」の可能性が高い
一方で、カミンスカスがドラマでいう辻本拓海並みの貢献をしたのだとすれば、数億円もらっていても「足りない」と思うかもしれない。
’25年8月に週刊ポストでライターの河合桃子氏が北田文明の手紙を公開し、そこでは〈小山10億 土井、北田10億 マイク3億くらい〉となっていた。それをカミンスカスに伝えると、こう返事が来た。
〈北田が言っている金の分配は間違っています。たぶん土井が北田に嘘を言ったのだと思います。分配は土井20億円、北田10億円、内田3億円、その他だと思います〉
まさに、詐欺師と詐欺師の騙し合い、である。カミンスカスが私に手紙を送ってきたのと、エマイユ横澤のM&A詐欺が公になったタイミングが同じというのも、はたして偶然の一致なのか。
ドラマでは、ハリソン山中と辻本拓海が最後に殺し合いを演じる。積水から騙し取った55億円をめぐって、本物の地面師たちも「命がけの奪い合い」を続けている可能性が高い。
積水ハウスの「不可解な動き」
【残された謎③ 積水ハウスはいつ詐欺だと気づいたか?】
積水ハウスといえば、年商4兆円を超える国内トップクラスのハウスメーカーでありデベロッパーである。そんな会社が詐欺集団にコロッと騙されたヘマをやらかしただけなのか?
事件発生当時から誰もが抱いてきた謎だ。私もそこがずっと気になっていた。
今回、カミンスカスと50通の往復書簡を交わすなかで、積水の動きについて新事実も出てきた。
積水ハウスの公式発表に記載されていない、あるいは見過ごされた出来事があった。一つは「詐欺が判明した後も積水が地面師グループと行動をともにしていた」事実である。積水ハウスの動きは実に不可解と言うほかない。犯行が発覚した後、取引の担当者が詐欺師のカミンスカスと一緒に、雲隠れしたなりすまし役の羽毛田正美を探そうとしているのである。
カミンスカスに言わせれば「積水も自分も被害者」で筋が通るのだろうが、すでに法務局で詐欺が判明したことここに及んで、カミンスカスが詐欺グループの一味ではないなどと、積水ハウスは本気で信じていたのだろうか。
おまけにカミンスカスは、一連の手紙で意味深長なことを書いてきた。
〈私は海老澤(佐妃子)さん(海喜館の持ち主)が亡くなった以上、鳥海兄弟(仮名、手紙では実名。海老澤佐妃子の弟である相続人)と話をつけて再度物件を積水に買ってもらおうと考えていました〉(カミンスカス’24年11月5日付書簡)
このカミンスカスの計画はなぜ実現しなかったのか―ある仮説が成り立つ。もし法務局が積水ハウスの申請した不動産登記を認めていたら、どうなっていたか。新たな所有権者が生まれることになる。実際の地面師事件では、そうして本物の地主が泣きを見るケースも珍しくないが、そうはならなかった。
ドラマで山本耕史の演じた積水ハウスの担当者は果たして本当に騙されただけなのか。新著では、その疑惑の核心を追い、事件の真相に迫った。
【もっと読む→「ハッキリ言います。私は無罪です」…Netflix『地面師たち』のモデルとなった事件の主犯が獄中から送った「手紙」の内容】
「週刊現代」2026年3月16日号より