「浮気は夫婦だけの問題ではありません。本人と相手の両親や子供を巻き込み、問題の解決を迫られる場合も。その結果、心の病になる人もいます」
こう語るのは、キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さん。彼女は、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。
山村さん連載「探偵はカウンセラー」は、山村さんが心のケアをどのようにしていったのかも含め、さまざまな事例から、多くの人が抱える困難や悩みをあぶりだしていく。個人が特定されないように配慮をしながら、家族、そして個人の心のあり方が、多くの人のヒントとなる事例を紹介していく。
2026年3月11日には、松本洋平文科相が既婚女性と浮気し、女性が衆議院会館に訪れ、密会していたことが報道された。12日の衆院予算委員会では、この問題が取り上げられた。高市早苗首相は、松本氏の更迭を否定。松本氏も本件について謝罪し、「妻から叱責された」と発言していた。
「仕事とプライベートは別」という人もいるかもしれないが、「妻のことを軽んじる夫」「浮気の相手を軽んじる男性」が国民のことをきちんと大切にするのだろうか、という疑問も残る。
妻だけではない。家庭で支える母や妻が軽んじられる事例も少なくない。今回、山村さんのもとに相談にきたのは66歳のパート勤務・祥子さん(仮名)。40歳の息子の素行調査の依頼でした。息子は30歳で結婚し、娘を授かるも、5年目に浮気が原因で離婚。翌年に再婚し息子が生まれたが、また浮気の疑惑が持ち上がっているという。妻の異なる9歳の娘と2歳の息子を持ちながら、いまだに「祥子さんの息子」として甘えている様子も伝わってきたのだ。
浮気が原因で一度離婚した40歳の息子
祥子さんの一人息子は、30歳で元読者モデルの女性と結婚し、翌年に一女を授かります。理系の大学院を出て、大手企業に勤務する息子のことは、70歳の夫にとっても誇らしい存在でした。
しかし、結婚5年目に息子の浮気が原因になり、離婚。この時、祥子さんは妻から「アンタの育て方が間違っていた」など、子育てを全否定する発言のほか、罵詈雑言を浴び、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症。以来、睡眠導入剤が手放せなくなっています。息子は慰謝料400万円を支払い、今も毎月の養育費8万円の支払いをしていますが、妻の怒りが激しく、娘にほとんど会えていない状態が続いています。
この離婚の翌年に、息子は当時26歳の大学院の後輩と再婚し、2年後に男子が生まれます。この時に、祥子さんは「毎月、8万円も払っているのだから」と息子にこっそり4万円の援助を始めました。
新しい妻は聡明で優しく、子供と3人で穏やかな結婚生活を送っていると思っていましたが、ある時息子が、「月の援助を5万円にして、さらに30万円がほしい」と言ってきました。用途を聞くと「じゃあいいよ」と話をはぐらかす。この時、「また浮気をしているのではないか」と直感したのです。
夫に相談すると「お前は考えすぎだ」と一蹴されてしまいました。だからこそ祥子さんは「証拠を見せて、家族会議をすれば、息子に浮気をやめさせられるのではないか」と考え、私たちに相談したのです。
お小遣いが振り込まれる翌日に張り込み
祥子さんはもちろん、成人して一緒に暮らしていない息子の行動を全く把握していません。ただ、4万円のお小遣いが振り込まれる翌日、もしくはその金曜日に動く可能性が高いと踏んで、息子の尾行のスケジュールを立てました。
祥子さんからもらった資料、見せていただいたLINEの文面などから、几帳面で大胆な性格であることがわかります。他の探偵とも相談し、「仕事がない土曜日に動くのではないか」と結論し、朝から息子が住むマンションで張り込みをスタート。
息子の家は、祥子さん夫妻が住む一戸建てから800メートルの徒歩圏内です。祥子さんの子育てのサポートを期待して、住まいを選んだのでしょう。実際、祥子さんは孫の保育園のお迎えをしたり、食事をさせたりしているそうです。それは微笑ましい関係性ではありますが、けじめをつけるために謝礼を払って親に子どもの世話を頼む人も多い中、息子の妻は、夫が母親からお金のサポートまで受けていることを知っているのでしょうか。
土曜日、妻と息子に見送られて向かった先
土曜日、10時に出てきた息子は、「このまま出勤します」というようなスマートカジュアルでした。すらっと背が高くスキニーパンツが似合います。祥子さんに似て顔立ちが整っており、指が細く長い。節のない指の先には、磨かれた爪があり「なんとなく、モテそう」という雰囲気でした。40歳ですが、もっと若々しく見えます。
駅まで歩き始めたところで振り返ったので「尾行に気づかれた?」と思いました。探偵に尾行された経験がある人は、頻繁に後ろを振り返ったり、猛烈にダッシュしたり、違う方向の電車に乗ろうとしたりして、探偵の尾行を撒こうとします。しかし、息子はベランダを見ながら手を振っています。おそらく、息子と妻が「行ってらっしゃい」と見送っているのでしょう。
そんな関係性にある夫が、浮気するのかと思いますが、先入観を持ってはいけません。尾行を続けます。
東京方面に移動し、都心の大型書店の雑誌コーナーにいた、小柄で知的な30代後半のふっくら体型の女性に声をかけます。女性はパッと花が咲いたような表情になり、2人は向かい歩き始めました。女性は長い髪をツヤツヤに手入れし、さらに巻いており、胸も大きくファッションも女らしい。キラキラした都会の素敵なアラフォー女性という佇まいで、とても魅力があります。
百貨店に入って行き、ジュエリーコーナーで30分ほどあれこれ迷いながら、20万円程度の小さなペンダントを購入。息子がお金を払っていました。その後、地下に移動し、2万円のワイン、5000円のオードブル、チーズ、ケーキなどを購入しましたが、全て息子が支払っています。そして、喫茶店で小休止。
女性の家らしき場所に移動し…
女性は終始、楽しそうに笑っており、息子も幸せそうです。お互いのアイスティーが半分くらいになったところで、息子は女性に断って、近くのコンビニへ。ものすごい早足で店に入り、避妊具をピックアップ。お金を払うとポケットに入れ、また早足で戻っていました。この一連の様子も動画で撮影しています。
喫茶店の支払いを女性がしている間、息子はタクシーを止め、荷物を詰め込み2キロ先の住宅街で下車。女性が先導しながら、あるマンションに入って行きます。オートロックかと思ったらそうではなく、部屋を特定することができました。
21時に出てきた息子と女性は、住宅街の中は指を絡ませながら歩き、大通りに出るとパッと手を離し解散。電車に乗って帰宅中も息子はニヤニヤと笑いながらLINEの画面を見ていました。
調査の結果、性交渉時の音も取ることができました。しかし依頼者が親であるだけに、息子の尊厳にも関わると感じ、この音声と避妊具の購入シーンは、「必要があればお出しする」という方針にしました。祥子さんの心の負担を軽くしたいという考えもあります。
両親そろって報告の場に
翌日、報告の場に祥子さんは夫とともに来ました。「女性と密会していました」報告すると祥子さんは「やっぱり」と落胆したような、悲しみを含んだ声を出しました。通常、報告書は時系列に画像を貼りつつまとめていくのですが、今回は画像ではなく文字で説明する部分を増やし、親子間の説得材料に使うことを考慮しながら作成しました。
報告には祥子さんと夫も来て、「この度はありがとうございました」と深いお礼をいただきました。夫は「家内に任せてしまい、反省しています」と言っています。祥子さんの夫は現在も企業コンサルティングの仕事をしており、威厳があります。
依頼時、夫に会っていなかったので、てっきり亭主関白で頭ごなしに叱りつけるタイプかと思っていましたが、そうではなさそうで安心しました。
調査をしていて感じたのですが、息子はもしかすると心の病を抱えている可能性がある。育児への不安やプレッシャー、「完璧にやらなければ」という強迫観念や、結果を出せないことへの焦燥感や無力感で適応障害になるケースも見られます。また、家事や育児をしても「そうじゃない」と否定され、家に居場所がなくなることの焦りなどから、外に自分を肯定してくれる存在を求めることが、浮気につながるケースも多いのです。
夫は「息子に対して『お前は結婚に失敗しているのだから、仕事も育児も完璧にやれ』と言っていました。私の時代は仕事だけしていればよかったのですが、今の時代は大変ですね」と話していました。私は祥子さんはこれをどんな気持ちで聞いているのだろうとも思いました。70歳と66歳。昭和の時代から家父長制の中で、「家族を支える」ことを最優先してきた祥子さんに対してどのような思いを抱いているのか。祥子さんに感謝を伝えたことがあったのか……。
それに、共家事・共育児は「大変なもの」なのだったら、働く女性はどうなのでしょう。穏やかで紳士的な方ですが、息子も父の影響を受けて女性のケアワークに対しては軽視しているのかなとは感じてしまいます。今回のように遊びの浮気は、パートナーを軽視して自分の欲望を優先しているのですから。
息子は浮気相手と別れるそうです
その後、祥子さんから連絡があり、「息子、浮気相手と別れると。あと、心理カウンセラーのところに通うことになりました」と話してくれました。
「息子は『今度こそ間違えてはいけない』と、家事も育児も頑張りましたが、嫁から『やり方が違う。気が利かない。察しが悪い』と怒られ続けていたそうです。子供を気遣うと、寝不足になり仕事も思い通りにいかない。無力感のようなものから逃れるために、女性に走っていたというのです。あの彼女は同業者交流会で知り合った人で、既婚者だそうです。彼女の夫は海外に単身赴任しており、その間にお邪魔していたとか。もう恥ずかしいやら情けないやらでびっくりですよ」
祥子さんに要求した30万円は、女性への誕生日プレゼント代のようでした。息子は女性と別れることになりましたが、相手も遊びだったようで、スムーズに関係は終了します。
この報告ののち、息子はカウンセラーの元に通い、気持ちに整理をつけ、妻とも円滑にコミュニケーションを取れるようになったそうです。この浮気については祥子さん、夫、息子の3人が「墓場まで持っていく」と証拠を破棄。祥子さんは「誰も幸せにならない行動はしません。そうそう、あれから主人がちょっと優しいんです」と話しており、お役に立てたようでホッとしました。
息子は今もお小遣い4万円は受け取っているようです。祥子さんがお金を渡さないほうがいいのでは……と思いながら、それは祥子さんたちが自分たちで決めることなので黙っていました。息子さんがメンタルのケアをしたうえで、祥子さんにどのように支えられていたかを息子がわかれば、そのお金を受け取るべきなのかどうかを判断することができるでしょう。そもそも養育費を払わなければならない浮気をしたのは息子自身なのです。
家族で支えあうことは大切だけれど、依存してしまっては誰かの負担になりうる。また経済的にどちらかがその役割を担うとしても、無償労働をする側が「従者」なのではないはずです。家族の中でも自立すること、そしてお互いに尊重することの重要性を感じた調査でした。
調査料金は15万円(経費別)です。