同居してない成人が「親の支援」を受け続ける
「高齢の母親が、成人になった子供が仕事をして別に暮らしているにもかかわらず、気の毒だとお金を渡し続け、老後のお金がなくなってしまったという相談もあります。成人した子供についてお金のことや家族のことで親が心配して調査を依頼する場合も少なくありません」
こう語るのは、キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さん。メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。
もちろん、病気を抱えたり、養育費をもらえなかったり、やむを得ない事情で親のサポートを受ける事例もあるだろうが、親の金銭的サポートを受け続けるのを「当然」としてしまうと、自立できない状況になる。
2019年、無職で暴力をふるってきた長男を殺害した元次官の事件なども記憶に新しいだろうし、自立できないままの息子に困っているという例は少なくない。夢を叶えるために橋上して貧しく暮らしている場合もあるだろうが、山村さんが冒頭に行った事例では、仕事をしていて別居している40代の成人男性に、元公務員の高齢母が毎月20万円要求され、退職金を使い果たしてしまいそうになって、これだけお金が必要なのはなにか脅されているのではないかと相談がきたのだという。
数年に一度発表されている「全国家庭動向調査」の最新版は2024年4月に発表された第7回で、それ見ると、成人でも親から経済的支援を受けている人は少なくない。ランダムに選ばれた5518名(29歳以下150名、30歳~49歳1721名、50~59歳1179名、60歳~69歳1217名、70歳以上1251名)の調査をみても、親と同居していない単身男性でも5万円以上親から経済的支援を受けている人は父から19.8%、母から17%いる。
山村さんは、学生時代は警察官を希望していたが、当時は身長制限があり、受験資格はなかった。一般企業に勤務するが、目の前の人を助けたいという思いは強く、探偵の修行に入る。探偵は調査に入る前に、依頼者が抱えている困難やその背景を詳しく聞く。山村さんは相談から調査後に至るまで、依頼人が安心して生活し、救われるようにサポートをしている。
これまで「探偵が見た家族の肖像」として山村さんが調査した家族のことをお伝えしてきたが、この新連載「探偵はカウンセラー」は、山村さんが心のケアをどのようにして行ったのかも含め、様々な事例から、多くの人が抱える困難や悩みをあぶりだしていく。個人が特定されないように配慮しながら、家族、そして個人の心のあり方が、多くの人のヒントとなる事例を紹介していく。
今回山村さんのところに相談に来たのは、66歳でパート勤務をしている祥子さん(仮名)。「40歳の息子のことで相談がありまして……」と電話をかけてきた。
山村佳子(やまむら・よしこ)私立探偵、夫婦カウンセラー。JADP認定 メンタル心理アドバイザー JADP認定 夫婦カウンセラー。神奈川県横浜市で生まれ育つ。フェリス女学院大学在学中から、探偵の仕事を開始。卒業後は化粧品メーカーなどに勤務。2013年に5年間の修行を経て、リッツ横浜探偵社を設立。豊富な調査とカウンセリング経験を持つ探偵として注目を集める。テレビやWB連載など様々なメディアで活躍している。
40歳、高学歴大手企業勤務の息子
依頼者・祥子さんから電話があったのは夕方でした。「お恥ずかしい話なのですが、息子の問題で相談させてください」と電話がありました。それから1時間後、「渋滞で手間取ってしまって」とカウンセリングルームにやってきました。
祥子さんは「どこから話していいのかわからないのですが」と思い詰めた表情をしています。まずは、落ち着いていただくためにハーブティーを出し、「息子さんのどんなところに困っているのでしょうか」と切り出しました。
すると、顔を真っ赤にして涙を流しながら「私があんな息子を産んでしまったから、悪いのかもしれません。主人にも『一人息子だからって甘やかしすぎだ』と叱られてしまうし」と言っています。まずは息子さんについて伺いました。
「息子は今、40歳です。仕事は大手食品メーカーで開発の仕事をしています。小さい頃から器用で、学校の成績も優秀でした。大学院まで出したのにバカなことを繰り返している。主人は、息子に一目置いているから、今回の問題にも『あいつに限ってそれはない』と私が後始末しなければならないのです。事実を突きつけて、息子の目を覚まして、主人にもこの問題に向き合ってほしいのです」
祥子さんの夫は70歳。この年代の方は普通に使っているのでしょうが、「主人」と呼ぶのは単に習慣なのではなく、主従関係があるのだなと感じさせられます。そして問題の核心を隠したまま話をしているとも感じました。長年、悩んできたことを話すには、聞き手への信頼が必要です。私は1時間ほど時間をかけ、あちこちに散らかる話を拾い、軌道修正しながら聞き出すと、「息子は5年前に浮気が原因で離婚。4年前に再婚したが、再び浮気をしている様子だ」ということがわかりました。まずは最初の結婚の話から伺います。
30歳のときに1回目の結婚
「息子が最初の結婚をしたのは、30歳でした。相手は合コンで出会った派遣社員の女性です。この人は読者モデルをしていた綺麗な人で、本当によくしゃべる。うちに来てもずっと話し続けているようなタイプです。結婚1年で孫娘も生まれて、この子がとても可愛くてね。孫を預かった日は、主人もデレデレ。『預かってほしい』とよく言われ、一緒に旅行、プールやテーマパークに連れて行ったのです。今思えば、あれは離婚の話をしていたのでしょうね」
その原因となったのは、息子が35歳のとき、結婚5年目で浮気をしたこと。相手は同じ会社の後輩の女性でした。
「思慮が浅くて、べらべらしゃべる嫁が鬼のような顔になって、怒鳴り込んできた。主人は『お前に任せる』と出かけてしまう。主人も息子も怒っている女の人が大嫌いなんですよ。私はいつもニコニコしているように頑張っていましたからね。嫁は専業主婦だったし、離婚しては生活ができません。私は『浮気は、男の人にはよくあること。私も耐えたんですよ』と話したら、『時代が違う』と怒鳴られました。結局、離婚という結果になってしまい、息子は400万円で、浮気相手の女は200万円の慰謝料を払ったって。さらに息子は毎月8万円の養育費を払っています」
すべては「母親の責任」に…
離婚が決まったあと、妻は祥子さんに「アンタがまともに子育てしなかったから、浮気するような無責任な男に育ったんだ」という言葉を筆頭に、罵詈雑言を浴びせたそうです。
「私の子育てを全て否定されたその日から、私は体調を崩してしまって……病院にいったら精神科の受診を勧められ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)だと診断されました。主人からも『お前が甘やかすからだ』と言われて、眠れなくなり自死を考えたこともありました。嫁は本当に怒っていて、私たちはもちろん、息子にも孫を会わせてくれません。あれだけ可愛がっていた孫にも会えなくなり、あの子のことを思うと、涙が出たり、体に力が入らないこともあるんです」
息子のために嫁の罵詈雑言に耐えたのに
息子の離婚から5年、祥子さんは心の病が続いており、今も心療内科の通院をしています。睡眠導入剤が手放せないと言います。離婚前に嫁からかなりの罵詈雑言を浴びたのでしょう。
「肝心の息子は『俺たちの問題だから、無視していいよ』とほったらかし。私は、嫁を邪険にして、息子が不利益を被ったら困るし、浮気をしても復縁するかもしれないと思って、話を聞いたんですよ。だから罵詈雑言だって耐えていたのに……。それなのに離婚してしまい、心が空っぽになりました」
10歳年下の妻を連れてくる
しかし、その翌年、息子は「この人と結婚する」と、10歳も年下、26歳の妻を祥子さん夫妻に紹介します。それは、浮気相手の女性ではなく、大学院の後輩とのこと。
「容姿は前の嫁より劣りますが、知的で聡明、優しい女性で“この人となら、息子は一生添い遂げられる”とほっとしたのです」
それから、2年後、新しい妻は男子を出産。妻は大手企業に勤務しており、子育てがしやすい環境が整っていますが、時々祥子さんがサポートに入りつつ、良好な関係を築いているそうです。
「息子は、前の嫁に月8万円の養育費を払っている。給料はいいほうだと思いますが、新たに子供が生まれれば、お金が足りなくなると思うのです。そこで私は、この2年間、毎月4万円の援助をしていました。男の人同士のお付き合いもあると思って。私はマンションを1室持っており、パートもしていますので、息子をサポートしたかったのです」
お小遣いの値上げと30万の借金を
息子は驚きながらも喜んでいたそうです。ところが最近、「物価高もあるから、援助を5万円にしてほしい。あと、30万円貸してくれないか」と言ってきたとのこと。
「そんな大金、すぐに出せないし、甘えるのもいい加減にしなさいというところですよ。息子に用途を聞くと『じゃあいいよ、忘れて』と言う。その時に、『この子はまた、浮気をしている』とピンときたんです。前に浮気をしていた時と雰囲気が似ているし、孫を預かることが増えたからです。つまり、嫁に育児を任せて遊び歩いているってことでしょ。このままでは息子はまた離婚されてしまう。それを阻止したいのです」
このことを夫に相談すると、「お前は考えすぎだ」と一蹴されてしまったそうです。
「主人は昔から、自分が見たいように物事を見る。主人も理系だから、事実に弱い。浮気の証拠を見せれば、息子にガツンと言ってくれると思うんです。息子は主人を未だに怖いと思っていますし、男同士のメンツもあって、浮気をやめてくれると思って」
祥子さんは「お恥ずかしい話で、恐縮なんですけれど」と言っていました。
「主人」と呼ぶことは「なんとなく丁寧そう」でもあり、この世代の方のみならず、「主従関係だ」という意識がなくとも使う人は多くあります。しかし「主人」「嫁」という言葉を何の疑問もなく用いている祥子さんの家庭は、典型的な昭和の家父長制の中にあるなと感じました。そういう中で大切なのは、無償労働を軽視しないことですが、浮気をしても平気でいるのも、そこに祥子さんのご家族の男性たちの女性を軽んじる意識が見えてきます。息子の結婚相手が怒ったのもよくわかります。
お話を伺うにつれ、祥子さんは夫からも息子からも軽視されてしまっていると感じました。ずっと頑張っていらした祥子さんが報われるようにするためにも、悩みを解決すべく調査に入ることにしました。
◇息子が本当に浮気しているのかどうかはわからない。マンションを持っているとはいえパート勤務をして地道に生きている祥子さんからとお小遣いをもらい、しかも値上げを請求してくる息子は、祥子さんをATMのように思っているのだろうか。父にはそれを依頼できるのだろうか。
対策をするにも、まずは息子の現状を知る必要がある。調査の結果とその後は後編「66歳母から毎月お小遣い4万円もらう40歳大企業正社員の夫が「2度目の結婚」でしていたこと」にて詳しくお伝えする。