7人に1人、日本に約1700万人いるとされる「境界知能」の人たち。
言語化が苦手、仕事の段取りを覚えられない、行動がワンテンポ遅い、対人関係の距離感が極端、金銭管理ができない、ダマされやすい……困っているのに気づかれなかった人々の実態とは?
注目の新刊『境界知能の人たち』では、当事者を見てきた第一人者の医師が、全体像をわかりやすく解説する。
(本記事は、古荘純一『境界知能の人たち』の一部を抜粋・編集しています)
知的機能の著しい制約とは
AAIDDのテキストによれば、知的機能の概念には(a)知能の一般的定義特性、(b)標準化された知能検査を用いて現在収集できる能力評価、(c)人として働きかける他の次元(適応行動、健康、参加、状況)や支援体系の影響を受けるというコンセンサスが含まれていると記載されています。
(a)の一般的定義には、「思考と学習」「推論と計画」「経験から学ぶこと」などがあります。知的障害の人は、この機能に著しい制約があるということです。
「知的機能の制約」とは具体的にはどのようなものでしょうか? 表にまとめてみました(図表3)。
(b)の標準化された知能検査ですが、標準化とは統計の用語で、多くの数値データの平均が0、分散が1になるように変換することをいい、このような処理を施された知能検査を用いて知的機能を評価したものです。
知能検査で測定された場合、全検査IQが平均値よりも約2標準偏差以上低いとされています(標準偏差とは、平均値からの差の程度やばらつきのこと)。図表1に示した、IQ70の数値が、おおよそ-2標準偏差になります。一方85という数値はおおよそ-1標準偏差になります。
なお、知能検査を行って評価する際、個人の文化的・言語的な環境要因や練習効果など影響を与えるものを考慮することになります。実際得られたIQは±5、ときには±10の測定誤差も検討されることがあります。
(c)に関しては、知能や知的機能よりも幅広く、人としての働きよりは狭い概念と記載されています。知能だけでなく、日常の活動や支援体系にも影響を受けるとのことですが、これについて、診断評価法は難しいものの、支援を行うにあたっては重要な視点になると考えています。
この概念を含む知的障害を、誰もが共通認識を持てるように定義するのは、容易ではないといえるでしょう。
適応行動の明らかな制約とは
適応行動の制約の基準は、その3つの領域(概念的スキル、社会的スキル、実用的スキル)のうち、少なくとも1つにおいて、使用した特定の個別式検査の標準測定誤差を考慮して、平均より約2標準偏差以上低い適応行動得点とされています。
概念的スキルとは、問題解決、言語、読み書きなどのほか、金銭、時間、数の概念などを含むスキル、社会的スキルとは、対人的スキル、社会的責任、自尊心、騙されにくさ、簡単には信じない用心深さ、規則/法律を守る、被害者にならないようにする、社会的問題を解決するなどの適応スキル、実用的スキルとは、日常生活スキル(個別ケア)、職業スキル、金銭の使用、安全、ヘルスケア、移動/交通機関、予定/ルーチン、電話の使用などのスキル、とされています(図表4)。
これらの適応行動を評価する尺度は、知能検査よりも複雑で、かつ評価者も検査に熟達していないと評価が難しいといえます。
日本で最も広く使用されている検査(Vineland Adaptive Behavior Scales-3)も、得点化して評価することになりますが、「約2標準偏差以上下回る」という得点の取り扱いについては、知能指数と比べて、具体的な研究は多くありません。
ところで、知的障害で支援を受けるには、療育手帳(原則18歳まで)もしくは精神障害者保健福祉手帳の取得が必要になります。
精神障害者保健福祉手帳の診断書には、「日常生活能力」について記入する項目があります。これは、適応行動の社会的スキルと実用的スキルの困難さに類似すると考えられますので、参考までにお示しします(図表5)。
療育手帳制度については、1973年(昭和48年)の厚生事務次官から都道府県知事、政令市長宛の通知「療育手帳制度について」で示された、「知的障害児(者)の福祉の向上については、かねてより特段の御配慮をいただいているところであるが、知的障害児(者)のより一層の福祉の充実を図るため、知的障害児(者)に対し手帳を交付することとし、このため別紙のとおり『療育手帳制度要綱』を定め、今年度から適用することとしたので、この制度の適正かつ円滑な実施を図られるよう通知する」の文言に基づき、何度かの改正を経て現在も運用されています。
したがって、精神障害者保健福祉手帳と異なり法的に定義されたものではありません。
さらに「日本に1700万人いるとされる「境界知能」の人たち…当事者を見てきた医師が明かす「その実態」」では、7人に1人いるとされ、知的障害と平均値のボーダーにある境界知能の実態に迫っていく。