先月末に米国とイスラエルがイランに仕掛けた一方的で理不尽な武力攻撃から、早くも2週間が経過しようとしている。先行きの不透明感が増す中、少なくとも戦争序盤で明らかになったのは両陣営の間に横たわる圧倒的な軍事・情報技術力の格差だ。
攻撃開始から1分以内に着弾
イスラエルとアメリカ両軍による最初の空襲が開始されたのは、イラン・テヘラン現地時間の2月28日午前9時45分(米国東部時間の同日午前1時15分)。この攻撃開始から僅か数十秒後には、当時ハメネイ師がいた(英語で)「リーダーシップ・コンパウンド」と呼ばれる最高指導者の「居住」兼「公務執務」施設にミサイルの着弾が始まった。
この日は土曜日だが、イランなどイスラム圏では週の始まりが土曜日なので、ハメネイ師は側近や軍幹部らと休日(金曜日)明けの会議に臨んでいる最中だった。この会議にはハメネイ師の他に40名以上の高官が集まっていたが、この言わば「最高指導者と幹部全員が揃う瞬間」まで、イスラエルと米国は数か月前から監視して狙い撃ちしたのだ。
この居住・兼・執務施設には万一の攻撃に備えて地下バンカー(地下壕)が用意されていたが、地上階で会議中のハメネイ師ら幹部陣はそこに避難する間もなく一瞬で殺害された。同師の娘や娘婿、孫もこの攻撃に巻き込まれて死亡したと報じられている。
因みにイスラエル軍は地上階にいたハメネイ師らを殺害した後も、コンパウンドの地下に広がるバンカーをミサイルで執拗に攻撃し続けた。最初の攻撃から約1週間後の3月6日、イスラエルは約50機の戦闘機を投入して、地下数十メートルに及ぶこのバンカーを約100発のミサイルで完全に破壊した。
イスラエル軍によれば、その理由はハメネイ師や幹部らが殺害された後も、その残党が地下壕を指令センターとして使い続けていたからだという。これを根絶やしにするために、イスラエル軍はその後も地下壕を激しく空爆したのである。
国民を監視するシステムが…
このハメネイ師の殺害計画において、イスラエルの諜報機関「8200部隊」による「監視カメラのハッキング」が極めて重要な役割を果たしたと報じられた。この機関はイスラエル国防軍(IDF)に所属する軍事情報処理の精鋭部隊だ。
その隊員の多くは18歳~20代前半の若者で、数学やコンピュータの才能に秀でた者が高校時代から極秘裏にスカウトされるという。また本来軍隊の一部門でありながら、階級に関わらず自由な発想を推奨する文化があるという。この部隊を除隊した若者は、後にイスラエルの「Check Point Software Technologies」など先進的なサイバー・セキュリティ企業を次々と設立している。
この8200部隊は、イラン政府が自国民の監視や交通管制のためにテヘラン市内に設置していた街頭のセキュリティ・カメラを、数年前から組織的にハッキングして、その制御権を握っていた。
ハッキングしたカメラの映像はリアルタイムで暗号化され、(イスラエル最大の商業都市)テルアビブ近郊のサーバーへ直接送信されていた。8200部隊と共にイスラエルの諜報機関モサドも長期間に渡ってこれらの映像を分析し、ハメネイ師や側近、幹部らの移動ルート、警護の配置、時間帯ごとの行動パターンを完全に把握していた。
攻撃当日の朝、彼らはハッキングしたカメラを通じてハメネイ師のコンパウンド到着と敷地内への進入を確認した。つまりイラン政府が本来市民のデモを鎮圧したり、(ヒジャブを着用しない女性など)服装のルール違反を取り締まるために導入した街頭カメラなどの監視システムが、今回皮肉にも同国の最高指導者の居場所を特定するため(敵国によって)使われてしまったのだ。
まるでSFのようなシステム
だが、もっと恐ろしいのは、その後に起きたことだ。
イランの監視カメラ(監視システム)は街頭のみならず、ハメネイ師のいるコンパウンド内部にも設置されていた。「なんで?」と思われるかもしれないが、イランのサイバー部隊はこの「極小の隠しカメラと収音マイク」を使って、日頃から(ハメネイ師を筆頭とする実質的な)政権内部の裏切り者や西側のスパイなどを見つけようとしていた。
たとえばコンパウンド内部でハメネイ師らが参加する会議が開かれるときには、サイバー部隊は会議参加者の「表情」「動作」「ひそひそ話」「どんな書類を読んでいるか」などを監視システム(隠しカメラと収音マイク)で逐一記録して、後でハメネイ師に報告していたのである。
先月末の米国とイスラエルによるミサイル攻撃の直前、8200部隊はコンパウンド施設内のこれら監視システムをハッキングして、施設内にいるハメネイ師の居場所をピンポイントで特定した。その直後、上空のイスラエル戦闘機から約30発の精密誘導ミサイルが発射された。
一方、イスラエル軍はこの(コンパウンド内の)監視カメラ映像を、イラン上空から発射されたミサイルの誘導システムに直接つなげて同期させた。つまりミサイル自身に装備されたシーカー(ミサイルの目)に、ハッキングした監視カメラが捉えている「今まさにそこにいるハメネイ師」の映像を直接流し込んだのである。
あとはAI(人工知能)がそのシステムを自動制御することで、標的(ハメネイ師)が僅か1メートル動いただけでも、その標的を追尾するようミサイルの軌道を修正し続けた。ミサイルは言わば自分の目で最高指導者(の動く姿)を捉えながら、寸分たがわぬ精度でこの人物を目がけて突っ込んだことになる。
この言わば「死神のように標的を追いかける軍事AIシステム」によって、ハメネイ師は本来自分が誰かを監視するために設置したカメラに、逆に自分が監視(追跡)されながら自らの最期を迎えたのである。
後編記事『中国がイスラエルの「ピンポイント暗殺技術」に怯えはじめた…!中国政府が進める徹底調査の内実』へ続く