高市早苗総理が親しみを込め、その風貌にちなんで「ザビエル」とあだ名で呼ぶ男がいる。そして、この男こそが「SANAE TOKEN(サナエトークン)」騒動をめぐる鍵を握っているのだ。ジャーナリスト・河野嘉誠氏が深層に迫る。
高市総理の公設秘書がノーボーダー側とやりとり
思わぬ余波を拡げている仮想通貨サナエトークン。高市総理サイドの関わりは本当になかったのか?
筆者は「週刊現代」編集部とともに取材を進め、「現代ビジネス」で他のメディアに先駆けて、その真相を報じてきた。
「サナエトークンは、人気格闘技イベント『Breaking Down(ブレイキングダウン)』を手がける実業家・溝口勇児氏らが中心となり、政治系YouTubeチャンネル『NoBorder(ノーボーダー)』内で公式トークンとして発行されました。
溝口氏は総理周辺との“連携”を強調していましたが、高市総理は3月2日に自身のXで、『私は全く存じ上げません』と関わりを否定。金融庁が実態把握に乗り出すと報じられ、騒動化しています」(全国紙政治部記者)
筆者は、3月4日に「現代ビジネス」で、高市総理が代表の自由民主党奈良県第二選挙区支部の青年局長A氏が、ノーボーダー側とやりとりをしていたことを報道。A氏はノーボーダー側とのやりとりを高市事務所に報告していたと証言した。
そして3月11日には「デイリー新潮」が、高市総理の公設第一秘書で、高市事務所の所長・木下剛志氏が、ノーボーダー側とメッセージアプリ「LINE(ライン)」でやりとりを重ねてきたことを、スマホ画面のスクリーンショットつきで報道した。
「木下氏は高市総理に20年以上仕え、地元・奈良での活動を一手に取り仕切る最側近です。最近では週刊文春の直撃取材に、『はっ倒すぞコラァ』と凄むなど強面キャラとして知られる。
その一方、実は気配り上手で、地元後援会では総理本人よりも、“木下ファン”の方が多いほど。その風貌が、日本にキリスト教をはじめて伝えたとされる宣教師を彷彿とさせることから、高市総理は親しみを込めて木下氏を『ザビエル』と呼んでいます」(前出・高市総理に近しい関係者)
かように、高市事務所とノーボーダーの間で、やりとりはあったことが裏づけられてきた。その中で、キーマンとされるのが、この木下氏なのである。
高市事務所から来た1000字におよぶ「経緯説明書」
溝口氏も3月9日のYouTube番組「ノーボーダー」で、改めて高市サイドとのやりとりがあったことを強調していた。
「高市さんサイドとコミュニケーションをさせていただいて、説明したつもりではいるわけですよね。ですが、先方からすると、正式に了承はしていないっていう、こう認識のギャップがまず存在しているなと思っていて」
果たして、高市事務所とノーボーダー側の間で、どのような「コミュニケーション」があったのか。そこで、筆者と「週刊現代」が事務所に取材を申し込むと、所長の木下氏が約1000字におよぶ「経緯説明書」を寄せた。そこには高市事務所とノーボーダー側との密接なやりとりが明かされていた。
以下は、サナエトークンについてノーボーダー側とどのようなやりとりがあったのかを尋ね、高市事務所から届いた返答である(※表記などは原文ママ)。
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NoBorder 社より、「Japan is back」という勝手連での高市早苗応援団企画をしたいという相談は昨年末より受けておりました。
「Japan is back」でのご支援はNoBorder社側の責任範囲の中で行うことについては問題ないとの見解を、「Japan is back」の関係メンバーにお伝えしていました。
「自民党×民間プロジェクト (NoBorder)による、新しい日本の政治参加モデル」のご提案書というのを頂き、総選挙後に拝見しました。この「ご提案書」の中には「ビーナス号(※筆者注:総理が代表を務める奈良県第二選挙区支部が運営するキャラバンカー)の活動と民間のテクノロジーの共創」やブロードリスニングで収集した「国民の声 (政策提言) 贈呈式」といった説明が書かれていますが、「SANAE TOKEN」という用語は出てきていません。
総選挙後の本年2月25日、NoBorder 社関係者との「Japan is back プロジェクト」 に関するグループLINE 内で「SANAE TOKEN」について話が出ましたが、それは国民の政治の声を集めるブロードリスニングにおけるアプリ内のインセンティブポイントとの説明であり、それが仮想通貨であるとの説明は一切ありませんでした。
高市事務所の所長が綴る溝口氏への憤り
同日、NoBorder社側からチームサナエのアカウント(※筆者注:高市後援会のXアカウント)でリポストして欲しいとの依頼がありました。同社が作成し当方に示された文字には「コミュニティ提案により実現した『SANAEトークン』という新たなインセンティブ設計も注目されます」と書かれており、あくまでもコミュニティ内のインセンティブであるとの説明であることからリポストに応じました。この時、同社から仮想通貨であるとか、ミームコインであるとの説明は一切ありませんでした。
同日、溝口勇児氏らが出演したREAL VALUEというYouTube番組内でサナエトークンがアプリ内のインセンティブポイントではなく仮想通貨を発行するかのような話をされたのを知りました。 2月28日、私たちが説明を受けていたことと違うので、ブロードリスニングの設計の担当者に「投資を募るものでは無い事」をはっきりさせてもらいたい旨を伝えました。
なお、溝口氏が 「高市さんサイドとは結構コミュニケーションを取らせていただい」たとか、NoBorder社側のチームは、「高市氏サイドに説明したつもりであったが、先方には正式に承認した という認識がないとのギャップがある」とかのお話をされているようですが、 溝口氏自身から当方 に「SANAE TOKEN」を仮想通貨として発行するという説明を受けたことは一度もありませんし、 前述のとおりNoBorder社側からの「ご提案書」にもまったく記載がないことからも明らかなとおり仮想通貨発行の説明などはありませんでした。
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上記の通り、木下氏は溝口氏への憤りを綴りながらも、ノーボーダー側との頻繁な接触を認めた。
ただ、彼が繰り返した「仮想通貨事業だと知らなかった」という主張はにわかに信じがたい。本当にノーボーダー側からの「コミュニティ内のインセンティブポイント」という曖昧な説明で納得してしまっていたのだろうか? サナエトークンを紹介するホームページ上には仮想通貨であることが明記されてもいた。
気になる点は他にもある。
本当に仮想通貨だと知らなかったのか?
筆者が「現代ビジネス」で報じたように、A氏らは活動資金を捻出するため、「“サナエ愛用”歯ブラシセット」(6600円)など高市事務所公認グッズを販売するVeanas合同会社(以下、ビーナス社)を設立していた。
不可解なのが会社登記の目的欄だ。一番上に〈投資及びそれに関するコンサルティング業務〉とある。
ビーナス社が設立されたのは、昨年12月。実はちょうどその頃、ノーボーダー側は、サナエトークンの営業活動を進めていた。タイミングの一致は偶然なのか?
この件を巡っては、A氏は3月3日に、筆者にこう説明していた。
「グッズ販売がアホみたいに儲かったとするじゃないですか。僕の中では最初は、億ぐらい儲かったらどうしようって。儲かったら奈良県の中で、松下政経塾じゃないんですけど、勉強できるような場所作ったりしたいなっていうことで。そういう思いを持って投資をして、そういうの作りたいなと、最初は思ってたんですよ」
A氏の述べる“投資”とは、一体、何だったのだろうか? A氏の携帯を鳴らしたが、応じることはなかった。筆者は溝口氏にも、高市事務所との関係について質問状を送付したが、期日までに回答はなかった。
朧気ながらも輪郭が浮かび上がりつつある、サナエトークン問題。しかし、未だ払拭しきれていない疑念の数々が存在するのも確かだろう。
そこで、筆者と「週刊現代」編集部は、サナエトークン問題をあらゆる方面から徹底取材。その中で浮かび上がったのは、この問題には、当初、我々が想像していなかったほどの「広がり」と「深さ」があるということだった。
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かわの・よしのぶ/’91年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、『サンデー毎日』『週刊文春』の記者を経てフリーに。主に政治を取材している
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