3月5日、連覇をかけた戦いが始まる。17年前、イチローの決勝タイムリーに日本中が沸いた「伝説の大会」を、侍たちが振り返る。
山田久志(やまだ・ひさし)/’69年、阪急へ入団。アンダースロー投手として活躍し、通算284勝を挙げた。第2回大会では投手コーチを務めた
渡辺俊介(わたなべ・しゅんすけ)/’01年、千葉ロッテに入団。「ミスターサブマリン」と呼ばれ活躍。WBCには2大会を通じて5試合に登板した
内川聖一(うちかわ・せいいち)/’01年、横浜に入団。首位打者2回、通算2186安打。WBCには3大会に出場。第2回では優勝に大きく貢献した
前編記事『イチローの決勝タイムリーに日本中が湧いた…山田久志、渡辺俊介、内川聖一が明かす「WBC秘話」』より続く
なぜイチローを歩かせなかったのか
山田:3対2とリードして迎えた9回裏のマウンドは、ダルに託した。しかし大会で使用されたメジャー球だと、ダルのスライダーは曲がりすぎた。なかなか制球が定まらず四球を出してしまい、同点に追いつかれて延長に入った。
内川:10回表の攻撃は僕からでした。相手の投手はヤクルトに所属していた林昌勇。とにかく出塁するしかないと考えて打席に入った時に思い出したのは、イチローさんの言葉でした。大会中に「イチローさんはわざと詰まらせてヒットを狙うことはありますか?」と質問したことがあったんです。
するとイチローさんは、「あるよ。投手が打ち取ったと思った当たりがヒットになると、投手がダメージを受けるでしょ?」と。そこでインコースに入ってくるボールを引っ張らずわざと詰まらせると、フラッとした当たりとなり、ライト前に落ちた。
渡辺:10回表の2死二、三塁から、イチローさんの打席になった。韓国の監督がマウンドに向かったので、「歩かせるのかな」と思いましたが、相手クローザーの林は勝負を選んだ。韓国の監督は歩かせたかったようですが、林のプライドがそれを拒否したのか、それとも指示を間違えたのか……。いずれにせよ、イチローさんがカウント2―2から内角への変化球をセンター前にはじき返した時の、ベンチ、ブルペンを含めたチームの一体感は凄まじかった。超一流のプロ野球選手が気持ちをひとつにした瞬間でした。
山田:最後はイチローがおいしいところを全部持っていったよな。役者が違うよ。
渡辺:10回裏の守りは、ドジャースタジアムのブルペンのモニターで静かに見守っていました。ところが、ブルペンにいた他の投手陣は、勝利が決まったかのように大騒ぎしていた。誤審騒動などもあった第1回大会の経験から、何が起こるかわからないと思っていた僕は、再び追いつかれてしまう展開も頭に入れ、自分が登板する可能性に備えていたことを覚えています。
連覇に向けて、舞台は整った
山田:10回裏は、ダルがきっちりと締めた。イチローの決勝タイムリーは確かにハイライトだったが、ダルの精神力も並大抵ではなかったね。
今回の第6回WBCは、連覇が期待されるという点で、第2回大会に近いかもしれない。先発投手陣は間違いなく世界一でしょう。問題は抑えを誰が務めるのか。順当なら松井裕樹だったんだろうけど、出場辞退が濃厚(2月24日時点)。大勢が務めることになるのかなあ。ちょっとその点が不安ですね。
渡辺:WBCに向けた準備という点では、日本が世界一でしょう。基本的にケガなく日本の選手が力を発揮することができれば、優勝の可能性は最も高いと思います。また、意外に重要なのはケガをした選手が出てしまった時のバックアップメンバーをしっかりと考えておくことですね。
内川:前回大会は村上宗隆選手、岡本和真選手、山川穂高選手と、内野のポジション争いは熾烈だった。今回は佐藤輝明選手が出場する。侍ジャパンの強みは、スタメンで出られなくても、控えに回った選手たちが出番でしっかりと結果を残すところだと思います。連覇を期待されるとは思いますが、それを意識し過ぎず、目の前の試合を戦って欲しいです。
山田:今大会はメジャーから8人が出場する。実は、第2回のときは、松坂が在籍していたボストン・レッドソックスからの要求が細かくてね……。その日に行った練習や投げた球数、調子などを毎日、報告しなくてはならなかった。最後には「我々が預かっているのはボストンの松坂ではなく、ジャパンの松坂だ」とケンカになりました。
大谷翔平は世界一の選手だけに、所属するドジャースはもっとうるさいかもしれません(笑)。でも、’09年よりもWBCに対するメジャー側の協力体制も変わっているし、保険(選手が負傷した場合に、保険会社が年俸を補塡する仕組み)も充実していると思います。連覇に向けて、最高のパフォーマンスを見せてくれるでしょう。
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「週刊現代」2026年3月16日号より