中国経済はさらに減速か
2月28日にイスラエルと米国はイランを攻撃した。イランは報復攻撃を行い、ホルムズ海峡を封鎖したと発表した。イラン戦争に関するトランプ大統領の発言は一貫していない。
トランプ大統領の頭の中で、この戦争に係る複数のシナリオが十分に整理できていないのかもしれない。一方、イスラエルのネタニヤフ首相の強硬姿勢は変わらない。
それに対するイランの反撃は、UAE、オマーン、ドバイなど湾岸諸国にも及んだ。今のところ、イラン戦争が短期間に収束する気配はみられない。
今回の戦争は、様々な経路を通って世界の政治・経済・安全保障などに重大な変化をもたらすはずだ。特に、米・中・ロシアの三つの大国には、それぞれ異なるインパクトを与えることになるだろう。
中国は、現在、不動産バブルの崩壊で景気が低迷しており、イラン戦争によるエネルギー資源価格の上昇は、社会や経済の情勢にとって大きなマイナス要素となるはずだ。全国人民代表大会(全人代)で、中国は本年の実質経済成長率の目標を4.5〜5%と昨年の5%前後から引き下げた。
戦争が長引くと、中国経済の減速リスクはさらに上昇することが懸念される。
イラン戦争が中国に与える影響は多岐にわたる。ホルムズ海峡の封鎖が長引き、原油やLNGの価格が上昇すると、世界的にインフレ懸念は高まる。中国は石油と天然ガスの70%を輸入に頼り、そのかなりの部分がペルシャ湾を経由している。また、投資家のリスク回避の流れが続くと、中国の株式・不動産など資産価格に下落圧力がかかることも予想される。
その一方、イラン戦争は、中国の習近平国家主席にとってプラスの面もありそうだ。米国の関心が中東地域に向かうと、米国のアジアへの影響力は低下するだろう。それは、中国にとって、アジア地域での発言力を高める好機でもある。
恐らく、習近平政権はその機会を上手く使おうとするだろう。
イラン戦争がどう推移するか、現時点では予想が難しい。ただ、重要なポイントは、戦争がどの程度の期間続くかだ。もし長引けば、中国経済の成長率が想定外に低下したり、国民の不満が想定以上に蓄積したりすることも考えられる。
中国の先行き不確実性が高まる環境にどう対応するか。日本にとっては高市政権の真価が問われる場面に差し掛かっている。
イラン戦争が中国に与える打撃
現在、中国の経済はデフレ圧力に直面している。若年層の雇用・所得環境は悪化している。16~24歳の失業率は16.5%(昨年12月)と高止まりした。
本年の春節の連休中、1人あたりの日次消費額は約150元(約3300円)で、昨年から1割減ったようだ。特に、若年層は、結婚や就職をあきらめた“寝そべり族”、さらに無気力な“ねずみ族”など、節約心理の高まりに加えて将来に希望を持てない人も多い。
そうした状況下、イラン戦争が中国社会に与えるインパクトは決して小さくないはずだ。
まず、考えるべきは原油や天然ガス価格の高騰だ。6日、WTI原油先物価格は1バレルあたり90ドル台に上昇した。原油価格の先行きについて、カタールは戦争が長引くと150ドルに上昇するとの見方を示した。ホルムズ海峡の事実上の封鎖や、イランの攻撃による関連施設のダメージは大きいとみられる。
これまで中国は、イラン産の割安な原油を輸入することで、エネルギーの備蓄を積み増してきた。国別にみると、イランは、ロシア・サウジアラビアと並ぶ重要な対中石油供給国だった。
その供給が事実上寸断された。また、戦争が長引けば、中国の経済運営コストは上昇する。すなわち、基礎資材や電力、食品など経済全体でインフレ懸念の上昇につながる。
現在、中国は、再生可能エネルギー由来の電力供給を増やしているが、依然として石炭への依存割合は6割近いといわれている。ホルムズ海峡の封鎖や、中東湾岸諸国の液化天然ガス(LNG)施設攻撃を受けて、発電燃料をガスから石炭へ切り替える動きが強まるとの観測もあるようだ。
それを反映して、石炭価格に押し上げ圧力もかかりつつある。中国のエネルギー備蓄は約120日分とみられる。戦争が長期化した場合、景気が減速する中でエネルギーコストは上昇し、中国の内需が一段と弱含むリスクは高まるだろう。
中国の地方財政が悪化
中国国内では、景気が減速する一方で物価は上昇する。かなり厳しい状況に備える投資家も出始めているという。
その兆候として、イラン戦争の勃発後、中国の30年国債の流通利回りが上昇する場面が目立つ。全人代での財政拡大方針に加え、エネルギー価格の上昇でインフレを警戒する投資家は増えているという。そうした動きもあり、株価は不安定だ。
中国の新築住宅価格は、現在でも下落に歯止めはかかっていない。その中で、イラン戦争が長引くと、景況感はさらに悪化するだろう。個人消費、企業収益の減少懸念から、株価にさらなる下押し圧力がかかる懸念もある。
株価の下落が鮮明になると、中国国内でリスク削減を急ぐ投資家は増えるだろう。それに伴い、理財商品や信託商品など、中国国内で拡販された金融商品の価格は下落するはずだ。
そしてこれらの投資商品には、地方政府傘下の企業・地方融資平台(LGFV)の社債やローン債権が多く組み入れられ、不動産や鉄鋼関連企業の高利回り債権も含まれている。
政府の“暗黙の保障”が付いているとされてきたLGFV、および地方政府の債務を合計すると2900兆円に達するとの試算もある。
イラン戦争が長引くと、中国の資産価格は下落する可能性が高いだろう。
そうなると、地方政府の財政悪化懸念は一段と上昇するリスクがある。中国では、年金や医療などの社会保障制度は地方政府が運営している。地方財政の悪化は、そうした社会保障制度の安定性を損なうことも懸念される。
イランの報復攻撃の激化、イスラエルの強硬姿勢、一貫性のないトランプ大統領など、イラン戦争の今後の展開は見通しづらい。それは、中国地方政府の破綻リスクを増大させ、社会不安を助長する要因になるかもしれない。
一方、中国にとって今回のイラン戦争は好機とも捉えられる。
つづく記事〈イラン戦争の長期化で“半導体製造の巨人”TSMCが窮地に…台湾を狙う中国に好機をもたらした「トランプ大統領の執心」〉で詳しく解説する。