南鳥島沖レアアース泥の引き上げが注目される理由
その後、大きく報じられたが、2026年2月1日未明、南鳥島沖でJAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)が所有する地球深部探査船「ちきゅう」が、6000メートルの深海からレアアース泥の試掘に成功した。経済安保を政策の大きな柱に掲げる高市内閣においてもその成功の意義は大きく、世界生産量の約7割、精製量においては約9割を占め、外交カードとしてレアアースの供給を振りかざす中国に対して、有効性の高いカードとして喧伝されたことは記憶に新しい。
哀しいことに日本は国土も狭く資源小国であり、重要資源の殆どを貿易に依存しているが、視点を少し変えれば領海とEEZ(排他的経済水域)の範囲で言えば世界第6位の海洋大国であり、海洋に眠る資源を考えれば資源大国にさえなりうる、20世紀後半からそう叫ばれてきた<そうした未来>が、少しだけ現実感を帯びて感じられた、そんなニュースだった。
ただ、夢見る未来を本当に輝かしい現実に変えていくためには、分かったような気になっている事柄を一つ、一つ確認する作業(本当に分かっていくこと)から始めなくてはいけない。今回の試掘成功の意味合いを正確に理解するためにも、そうした作業は必要になる筈だ。
そこで、まず図1だが、ここに示したものが領海と排他的経済水域の概念図になる。排他的経済水域は領海基線からその外側200海里(約370Km)の線までの海域を指し、そこでは「天然資源の開発等にかかわる主権的権利」や「人工島、設備、構築物の設置および利用にかかわる管轄権」が認められている。
この領海とEEZを併せた海域の面積がよく言われるように世界第6位となり、我が国が海洋大国と自称する根拠になっている。
次に南鳥島の位置だが、それを示したものが図2になる。
この図を見ると、南鳥島を囲むEEZはまさに絶海の孤島そのものであり、この海域の資源開発において、公海上で中国が当該資源開発に虎視眈々と存在感を増している、とこれもよく言われる話の地理的な意味での理解が深まるだろう。ただ、南鳥島があることで、国際法上の優位性は確保されているし、それは我が国にとって何よりの僥倖と言える。
さて、この南鳥島の近海海底にレアアースの豊富な鉱床が存在する、そのことは既に様々な報道で繰り返されているので、本稿で詳細には触れないが、要点だけ記せば、そこに眠るレアアースの埋蔵量は中国、ブラジルに次ぐ1600万トンが推定されており、そこにはジスプロシウムやテルビウムなど重稀土類が含まれている。濃度も濃く、重要な点は南鳥島沖近海に眠る重稀土類は陸上のそれと異なり、成り立ちから放射性元素の含有量が極めて低い特徴があるとされる点になる。
詳しくは後編記事で触れるが、採算の問題がクリアできるなら、その開発を軌道に乗せることで、幾つかの産業用途については我が国の需要量で換算して数十年から数百年(幅、広いな)の供給が、そこで担保されると考えられている。2月1日の試掘成功で沸き立った報道が多かったのも然るべき話だ。
まだ始まりに過ぎない
しかし、冷静に言えば、全てはまだ始まりに過ぎない。図3に示したものは石油などの資源開発のプロセスになるが、海洋開発においてもこうしたプロセスの考え方は変わるものではない。
2026年2月段階ではこのプロセスのうち、探鉱が終わったに過ぎない。いや、たった1回の成功であれば、いまだ探鉱のプロセスにあり、これから初めて開発井の掘削が始まり、開発、生産の過程へと移っていく、と考えるのが正しいだろう。
実際、今回の試掘の成功を受けて、2027年2月から本格的な採鉱が始まり、1日最大350トンのレアアース泥の引き上げが始まり、その試験結果を踏まえ2028年3月に採算性に関する報告書が纏められる、とされている。
中国の資源外交に対する有効なカードを本当に手に入れられるかどうか、はまだまだこれからの話なのだ。ただ、水深6000メートルの海底泥をサンプルとは言え、引き上げる技術を持った、それ自体が大きな進歩であり、国民的な意思があるならば、海洋資源大国という輝かしい未来を次の世代に手渡せるその可能性を我々が持った、その意味は軽く考えるべきではないだろう。
海洋資源大国を夢で終わらせないために何が必要か——。後編記事〈快挙にわく「南鳥島沖レアアース開発」の死角…日本唯一の海洋掘削企業が辿った「わずか10年の栄枯盛衰」の教訓〉では、探査船『ちきゅう』と共に歩んだある企業の物語から、その答えを探る。