トランプ大統領に隙が生まれる
2月28日、イスラエルと米国がイランを攻撃したことを機にイラン戦争が勃発。イランは報復攻撃を行い、ホルムズ海峡の封鎖を発表した。
石油と天然ガスの7割を輸入に頼る中国にとって、このホルムズ海峡封鎖は経済運営コストを直撃する。戦争が長引けば、景気低迷が続く中国にさらなるダメージを与える可能性が高い。特に地方政府の財政状況は深刻で、中国国内の社会保障の崩壊も招きかねない。
前編記事〈イラン戦争の長期化で《中国地方政府は破綻》一直線か…中東産原油を絶たれた中国を待ち受ける「経済と社会保障の崩壊」〉では、こうした状況を詳しく解説している。
一方、中国の海外政策にとって、イラン戦争は重大な転換点になる可能性がある。
イラン戦争が長期化した場合、トランプ大統領は中南米地域(ベネズエラ、エクアドル、キューバなど)に加え、中東政策にもエネルギーを割く必要性は増す。つまり、トランプ大統領の関心は、中南米や中東地域に集中することが想定される。
その分、アジア政策は手薄になるだろう。中国にとっては都合が良いはずだ。中南米、中東政策に取り組まざるを得ない米国の虚を突くように、中国がアジア諸国への圧力を引き上げることも予想される。こうした動きは世界情勢にも大きな影響を与えるはずだ。
TSMCが危うい…
イラン戦争は、世界の産業界における地殻変動を加速させる決定的な要因になりうる。なかでも、中国による台湾侵攻リスクの高まりは、世界経済にとって最大の懸念事項といえるだろう。
今後、希土類(レアアース)などの中国依存を解消することで、チャイナリスクの低減を図る多国籍企業は増えるはずだ。デジタル家電などの製造拠点をインドやアセアン地域の新興国へと移す動きも加速するはずだ。
その中で、先端半導体の製造をどう確保するかは最も深刻な課題となる。注視すべきは、受託製造で世界トップシェアを誇る台湾TSMCへの影響だ。今後のアジア情勢において、同社、および同社への依存度が高い製品の安定供給については、極めて重大な懸念が残らざるを得ない。
そこで、わが国の半導体メーカーの存続意義が問われることになる。
熊本県では、TSMCが回路線幅3ナノメートル(ナノは10億分の1)のAIチップなど、先端半導体の製造を開始する計画だ。北海道では、日本企業であるラピダスが、最先端の2ナノメートルの回路線幅を持つチップ量産を目指している。
こうしたプロジェクトへの投資を日本政府が支援することは、日本企業の重要性を高めるために極めて重要だ。
成長期待の高い分野とは?
先行きの読めないイラン戦争の中で、日本および日本企業が、いかに中・長期的な視点で成長を目指すかが問われているともいえる。世界経済を俯瞰すると、今回のような状況下でも成長期待の高い分野はある。
一つは、半導体やロボットなどAI(人工知能)に関する分野だ。
現在、日本には、米オープンAIやアンソロピック、中国のアリババやディープシークのような企業は見当たらない。その一方、半導体製造装置、超高純度の半導体部材の分野で、日本の産業界は比較優位性を維持している。
AIチップ、AI搭載ロボットの製造に必要な新しい素材や装置を供給できれば、多国籍企業の脱中国、台湾依存軽減を収益機会として活かすことができるはずだ。イラン戦争の長期化リスクに、日本が対応するためにも重要な発想だ。
また、化石燃料や原子力、洋上風力などの再生可能エネルギーを組み合わせ、持続可能なエネルギーミックスを実現することも重要だ。
今回の戦争で、日本のエネルギー政策が海外リスクに対していかにぜい弱であるかが明らかになった。政府が掲げる危機管理投資の主たる取り組みとして、国内で持続可能なエネルギーを自給できる体制整備を急がねばならない。今後さらにニーズが高まるAIデータセンターの建設増加も支えるだろう。
高市政権の手腕が問われる
産業の育成には、民間企業の研究開発やマーケティングに加え、政府の規制緩和や設備投資支援が欠かせない。政府のしっかりしたサポートで、国内での雇用機会を増やすことが重要だ。
それができれば、厳しい環境下でも、国益を守る行動は可能なはずだ。
確かに、イラン戦争で世界経済の先行き不透明感は高まった。それに伴い、中国でのデリスキング(経済的な繋がりを保ちつつも、特定の国への過度な依存から生じるリスクを最小化する戦略)を急ぐ企業も増えるだろう。
こうした環境変化をいかに日本経済の実力向上につなげていくか。本当の意味で高市政権の政策運営の手腕が問われることになる。
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