日本固有の洋菓子「プリン」の魅力
カフェやレトロ喫茶だけでなく、コンビニからご当地モノまで日本全国で広く愛されているスイーツと言えば、「プリン」。日本におけるプリンの起源は、イギリスで16世紀頃に生まれた伝統的な蒸し料理「プディング」にあり、当初は甘くない食事系の食べ物でした。その後欧州を中心にさまざまな進化を遂げた後の明治時代に、西洋のデザートとして現代のスタイルに近いカスタードプディングが伝わりました。日本におけるプリンのトレンドを振り返ると、ぷるぷる、なめらか、レトロ喫茶系といったようにどんどん移り変わっているのがわかります。そし令和になった今、長らく人気を集めているのが、“濃厚・かため”。カフェの看板スイーツになるほど存在感を増しています。
実は日本のカスタードプディングを海外で探そうとすると一苦労。欧米のスーパーやカフェではほとんど見かけることはなく、同類とされる「クレームキャラメル」は日本のプリンに比べてかなり甘く、ゼラチンで固めたやわらかい食感のものが主流。またイギリスで愛されているカスタードプディングは冬の寒い時期に温かい状態で食べることが多く、食感はずっしり素朴なテイストです。いずれにしても、たまご本来の風味を感じるなめらか食感のスイーツではありません。つまり私たちが普段食べているプリンは、日本の中で独自の進化を遂げてきた、世界でも珍しいスイーツなのです。それではなぜ、この日本固有のプリンが、日本において圧倒的に支持され続けているのでしょうか? そこで今回は、日本のプリンについての知られざる秘密や、最新トレンドについて楽しく掘り下げていきたいと思います。
成城石井「イタリアンプリン」が話題に
はじめにご紹介したいのは、プリンの最新動向について。実は2026年に入り、プリンのさらなる進化を予感させるニュースが飛び込んできました。それは、全国に200店舗以上を展開するスーパーマーケットである成城石井の製造・販売する「成城石井自家製 マスカルポーネのもっちりイタリアンプリン」が、「お弁当・お惣菜大賞2026(主催:一般社団法人全国スーパーマーケット協会)」のスイーツ部門において最優秀賞を受賞したこと。このプリンは濃厚・固めをさらに進化させることで、“もっちり食感”と“旨味”という新しい食体験を生み出すことに成功しています。スーパーマーケットを研究する立場から申し上げれば、このプリンは従来のスーパーが作るスイーツの次元をはるかに超えたパティスリー顔負けの創作力。ファミリーサイズで1394円というコスパ力も強みとなり、全国規模で注目を集めはじめています。
ここで特筆すべきは、カフェやパティスリーではなく“スーパーマーケット”が、コスパ最高のプリンを作りだす時代になったということ。一般的にイタリアンプリンのプリン生地にはマスカルポーネチーズもしくはクリームチーズのいずれかが使われるのに対し、本商品は北海道産マスカルポーネに加えて、クリームチーズ、さらには純生クリームまで使用するこだわりぶり。同じことを小規模パティスリーでやろうとすると、この価格では確実に難しくなります。つまり原料調達力やセントラルキッチンの環境整備、確かな腕を持ったパティシエの安定的採用によって、感動級のプリンが手頃な価格で購入できるようになっているのです。
時代によって変化しながら、ますます身近な国民的スイーツとして不動の人気を確立しつつあるプリン。このシンプルなスイーツが幾度も新たなブームを起こし続けられる理由は何なのでしょうか?
戦後に生まれた「和製プリン」を食べて分かったこと
プリンが愛される理由。その答を探していた時、私はあるプリンを思い出しました。福岡県・太宰府天満宮の参道にある老舗和菓子店「梅園菓子処」には、「宝満山」という和製プリンがあります。同店の創業は1948年。創業者の藤丸正が戦後焼け野原となった福岡の街を見て、「人の心が明るくなるような甘くておいしい菓子を作ろう」という想いで生み出したそう。原材料は卵、砂糖、寒天、水あめのみ。
一口食べてみると、羊羹やういろう、淡雪羹のような和菓子とは別モノで、現代プリンの固めもっちり感とも異なります。今食べてみるとどこか新しさを感じながらもプリンという共通要素をしっかりと感じ、癒しに近い安心感が芽生えます。古くから存在する和製プリンを食べてみると、プリンがいかに長い間、形を変えながら人の甘味欲を満たしてきたかがわかるのです。
景気が低迷するとプリンブームが起こる
和製プリン以降の変化を見ていくと、喫茶店や家庭で味わうような素朴なプリン(レトロ喫茶系プリン)やスーパーやコンビニでも手軽に購入できる市販プリンが普及した後、1990年代前半のバブル崩壊直後からは、食感が激変する「なめらかプリンブーム(パステルの大ヒット)」がスタート。食感に大きな変化が見られました。そしてコロナ禍がはじまった2019年頃からの景気低迷期には、再び食感に大きな変化が訪れ、今の濃厚かためが台頭することに。
偶然かもしれませんが、戦争、経済的不安、コロナといったネガティブな大事件が起こると、プリンに大きな変化が到来。人は苦しさを感じると、食感などで個性が出しやすい黄色い食べ慣れた卵味のスイーツに安心感を抱き、明るい黄色に元気をもらおうとするのか? しかもそれだけでなく、新しい食べ心地を楽しむことで、目の前の不安を和らげようとするのか? そんな仮説を立てたくなるほど、経済低迷期には必ずと言っていいほどプリンブームが訪れているのです。
これから先も先行き不透明な状況は続きそうですから、人々が抱えるモヤモヤを緩和してくれる新たなプリンがいつ登場してもおかしくはありません。
プリンの未来はどこに行く?
この先プリンはどのような成熟、進化を果たしていくのでしょうか? 予測できる方向性の一つは、“他スイーツとの融合”です。例えば成城石井のプリン商品を見ていくと、販売されている全6種のプリンのうち、「成城石井自家製 ピスタチオプリン カスタードソースがけ」や「成城石井自家製 濃厚マンゴープリンのパッションフルーツゼリーがけ」の2種は、プリン生地だけではなく、ゼリーなどを合わせたり、ソースをかけていたりと、パフェのように華やかな仕立てです。
また、生ドーナツブームを巻き起こした「I’m donut?(アイムドーナツ)」と同グループのカフェ「AMAM DACOTAN cafe&bake」にも、これまでになかったような“焼き菓子屋が提案するプリンアラモード”が登場。ずっしりとした焼き菓子の上に絶妙な食感のプリンが乗った融合感は、平子良太シェフのこだわりとしてインスタグラムでも紹介されています。
苦境の時代は、プリンが救う。そこまで言い切れるかはわかりませんが、歴代の人気プリンが多くの人々の心をほっこり温めてくれていることは紛れもない事実でしょう。そして今後さらに柔軟な変化を見せてくれるに違いありません。さあ、皆さんはこれから先、どんなプリンを食べたいですか?
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