北海道で獲れるようになったブリ、価格高騰しているホタテ、寿司ネタとして使われるようになったシイラ、サーモンにアボカドやマヨネーズを合わせる食べ方……。寿司をめぐる環境は、近年大きく変化している。その背景について、「一般社団法人さかなの会」代表で、著書に『寿司ビジネス』があるながさき一生氏が解説する。
「気候変動」が寿司ネタに与える影響
近年、寿司ネタを取り巻く環境は大きく変わってきています。その背景にあるのが、気候変動とグローバル化です。海の環境が変わることで獲れる魚が変わり、同時に世界中で魚が求められるようになったことで、寿司ネタをめぐる状況も様変わりしてきました。
まず、気候変動の影響は、獲れる魚に如実に影響を与えています。海水温の上昇などにより、獲れる魚の産地や種類が変化してきました。
その代表例がブリです。
ブリといえば、かつては西日本を中心に獲れる魚というイメージが強く、冬の味覚の1つといえば「寒ブリ」でした。しかし近年では、北海道でもブリが水揚げされるようになっています。
北海道のブリは秋が漁期で、脂ののりも良い。最近では、秋半ばになると「ブリの季節になりました」と謳って、北海道産のブリを出す寿司店も見られます。寿司ネタの産地や季節感が、少しずつ変わり始めているのです。
「グローバル化」の影響も無視できない
一方、グローバル化による影響も無視できません。世界で魚介類の消費量が増え、人気の魚介は、世界中で求められるようになりました。その結果、日本で寿司ネタとなる魚介類についても取り合いが起きています
その1つがホタテです。
かつてホタテは、回転寿司では100円皿の定番でした。しかし最近では、100円台の皿で見かけることはほとんどなくなりました。この10年ほどで価格が2倍以上に上昇したからです。
背景には、一部地域での不漁といった生産面の不安定さに加え、海外での需要拡大があります。
国内の事情だけでなく、世界の動きがダイレクトに寿司ネタの価格に反映される時代になってきたのです。
ただし、こうした変化は、必ずしも悪いことばかりではありません。獲れる魚が変わることで、新たな寿司ネタが生まれることもあります。
これまで脚光を浴びなかった魚が……
その一例がシイラです。
シイラは南方の魚で、ハワイでは「マヒマヒ」と呼ばれています。日本では低利用魚とされがちですが、味はブリやヒラマサにも似ており、とてもおいしい魚です。ちなみに、新潟で漁師をしていた幼少の頃の私の実家では、シイラが揚がると「ごちそうがやってきた!」と騒ぎ立てていました。
このシイラですが、2024年のくら寿司でフェア商品として「柚子胡椒漬けしいら」が大々的に提供されました。このように、これまで脚光を浴びなかった魚が、寿司ネタとして提供される事例がポツポツ見られています。
また、グローバル化で生まれた寿司といえば、サーモンがその象徴的な存在でしょう。
日本では生食されていなかったサケ類が、ノルウェー産サーモンの売り込みをきっかけに寿司ネタとして定着しました。
寿司は柔軟に姿を変えてきた食べ物
さらに、サーモンにアボカドやチーズ、マヨネーズを合わせる食べ方は海外では一般的で、そうした文化が日本の寿司にも取り入れられています。寿司は、世界の文化と混ざり合いながら形を変えてきたのです。
このように見ていくと、寿司は環境や文化に合わせて柔軟に姿を変えてきた食べ物だと言えます。厳密なルールが少なく、ネタとして使える素材の幅が広い。だからこそ、気候変動やグローバル化といった大きな変化にも対応しやすいのです。
言い換えれば、寿司は「変わること」を前提とした食のフォーマットだとも言えるでしょう。
そもそも寿司は、持続可能な食べ物です。ネタとして使う魚種や素材を固定しないため、減っている魚に固執せず、増えている魚や新たに価値を見出せる素材を取り入れることができます。
環境や文化の変化を受け止めながら形を変えてきた寿司は、これからの時代においても柔軟に生き残っていく可能性を秘めています。
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