2025年に公開された映画『女性の休日』をきっかけとした「女性の休日PROJECT」が立ち上がり、3月8日の国際女性デーをはさむ3月6日から12日まで自主的なイベントが3月4日時点でも210以上開催されている。
FRaUでは、3月5日、「女性の休日WEEKのキックオフ」ともいえるイベントを、ジャーナリストの浜田敬子さんの声掛けから、NewsPicks for WEと共同で開催した。それが、「浜田敬子さん、鳥飼茜さん、能條桃子さんと「女性の休日」しませんか?日本をアイスランドに近づけるための大ブレスト会議」だ。
ジェンダーギャップ解消のために必要なことは?
イベントでは4つのセッションが行われた。浜田敬子さん、鳥飼茜さん、能條桃子さんの講演のほか行われたのが「私たちは男性を愛してる。でもちょっと変わってほしいだけ~みんなで考える「こうなったらいいな」妄想セッション」だ。「私たちは男性を愛してる。でもちょっと変わってほしいだけ」というのは、映画『女性の休日』に出てきた言葉でもある。
アンケートでは、80名の参加者の方々に「以下のキーワードで何を改善すれば、ジェンダーギャップが解消されると思いますか? 3つまで選んでください」という質問をした。
〇ケアワークの負担(家事育児、介護など)
〇会食・ゴルフで決まることの多い仕事
〇長時間労働
〇クオータ制
〇男性育休100%
〇選択的夫婦別姓
〇その他
選択的夫婦別姓、ケアワーク、長時間労働
アンケートで1位になったのは「選択的夫婦別姓」。2位は「ケアワークが女性にまかされがち」3位は「長時間労働」と続く。
ではこれらの選択肢を解説するために、国際女性デーから数日にわたり、過去の記事をピックアップしていくつか紹介していこう。第1回は「選択的夫婦別姓」についてお届けした。第2回は3位の「長時間労働」についてお伝えする。
『女性の休日』とは
その前に映画『女性の休日』について簡単にご説明しよう。これは2025年10月25日からロングランを続けているドキュメンタリー映画だ。この映画は、アイスランドで1975年10月24日に国民の9割の女性が一堂に会した「伝説の一日」の背景を伝えている。
アイスランドはジェンダーギャップ指数16年連続1位となっているが、50年前は男女の賃金格差も同じ仕事をしても女性は男性の6割しかもらえていなかったし、女性は船長や弁護士にはなれないと言われていた。ジェンダーギャップ指数118位の日本と同じなのだ。
この日、同じ仕事をしても女性は男性の6割しか賃金をもらえなかったり、ケアワークを押し付けられたり、好きな仕事に就くことすら許されない状況を、女性たちは訴えた。そして男女賃金格差を是正する法律制定につながっていったのである。
1991年、2015年の悲しい事件
ではまず長時間労働のみが原因ではないとはいえ、仕事が原因で命を落とし、労災の認定を受けた方々のことを振り返ってみよう。「過労死」という言葉を生み出したのは、ストレス研究の第一人者である医学博士の上畑鉄之丞氏だという。著書には『働き盛りの突然死』(1983/太陽企画出版)、『過労死の研究』(1993/日本プランニングセンター)、『過労死サバイバル 仕事ストレスが心身を蝕む前に』(2007/中央法規出版)などがある。
「過労死」の言葉が一気に広まったのは、1991年に電通の男性社員が過重労働によって自殺し、遺族が労災認定を求めた事件で、2000年に労災が認定された。それから厚生労働省では2002年より1年に1回「過労死等の労災補償状況」を発表している。
しかし、2015年には、過労で自ら命をたった高橋まつりさん(当時24歳)の痛ましい事件も起きてしまった。それから10年目、2025年12月25日の命日に寄せて、まつりさんの母の幸美さんはメディアの前で手記を読み上げた。一部抜粋にてご紹介する。
”日本では長年、過労死が相次ぎ、2014年に「過労死等防止対策推進法」、2018年には長時間労働を規制する「働き方改革」が成立しました。しかし依然としてまつりと同じように仕事で追い詰められ、命を落とす人が後を絶ちません。過労死は、若くて健康な人、経験豊富な人、様々な職種で起きています。”
”私は改めて強く願います。これ以上、まつりのような過労死の犠牲者を増やさないでください。私のように大切な家族を失う人を増やさないでください。まつりの命は取り返すことはできませんが、まつりの死が報われるとしたら、「働く人の命を奪わない社会をつくる」という約束だと思います。”
実際、令和6年度の過労死等の労災補償状況を見てみると、過労死等の労災補償状況を見てみると、過労死等に関する請求件数は4,810件 (前年度比212件の増加)で過去最多、決定件数は4,312件(前年度比1,033件の増加)で過去最多、支給決定件数は1,304件 (前年度比196件の増加)、うち死亡・自殺(未遂を含む)件数は159件(前年度比 21件の増加)だ。
それどころか、「働いて働いて働いて」という言葉が流行語大賞を取り、高市総理は月80時間の残業時間規制の緩和を検討するよう指示している。
長時間労働で命を落とした事例も
FRaUwebでは、多くの長時間労働の問題を報じてきた。リニューアルローンチした2019年には、労災の現場を取材してきた牧内昇平さんがまとめた『過労死 その仕事、命より大切ですか』(ポプラ社)という本を抜粋し、事例を紹介している。たとえば、2000年3月に46歳で自らの命を絶った、和歌山県内の自治体職員の苦悩を伝えた記事では、息子マー君が語った詩も紹介していた。
”│ぼくの夢│
大きくなったら
ぼくは博士になりたい
そしてドラえもんに出てくるような
タイムマシーンをつくる
ぼくは
タイムマシーンにのって
お父さんの死んでしまう
まえの日に行く
そして
「仕事に行ったらあかん」て
いうんや”(『過労死 その仕事、命より大切ですか』より)
ほかにも、正社員になった翌月に事故死してしまった24歳の男性のことも伝えた。真面目で、努力家の人だからこそ、追い込まれていった様子が伝わってくる。
「子煩悩で真面目な市役所職員が、過労死で自らの命を絶った理由」(牧内昇平/2019年3月)
「24歳の彼は、正社員になった翌月、寝ずに働いて過労事故死した」(牧内昇平/2019年3月)
「若者の過労死を「しない」「させない」ための6カ条」(牧内昇平/2019年3月)
外科医不足で必要な手術を受けられなくなるリスク
過労死を防ぐことが重要なのは当然のことだが、それだけではない。「長時間労働しなければならない現場」では、そこで働ける人材も限られてくる。出産や育児、介護などがあると職場にいられないという状況も起きてくるのだ。
浜田敬子さんは、外科医の過酷な労働環境、労働慣習を変え、女性が外科医を選び、働きやすくなるための活動を続けている、大阪医科薬科大学の一般・消化器外科の河野恵美子さん(当時)を取材。外科を目指していても途中でキャリアを断念する女性やのみならず、男性も含めて外科を選ばなくなっている現状に警鐘を鳴らした。
医師の数は全体では増えているものの、若い世代ほどワークライフバランスが取りやすい科を選ぶ傾向にあることを記事にしている。そうなると外科医が不足し、我々が必要な手術を受けられない可能性も少なくない。
「外科医の人数激減…「必要な手術を受けられなくなる日」が来ないために必要なこと」(浜田敬子/2023年2月)
「「子どもを産むなと言ったのに」外科医不足の日本で女性の外科医が直面する問題」(浜田敬子/2023年2月)
「働いて働いて働いて働いて働いて」というスタイルを良しとする風潮の恐怖
誰もが、健康を大切にしなければならないはずなのに、今の日本では長時間労働を強要される空気がある――そこに危機感を抱いた人は少なくないだろう。アクティビストの福田和子さんは、高市総理の「働いて働いて働いて働いて働いて」が流行語大賞を取ったことへの不安を率直につづり、多くの共感を得た。
「過労死過去最多なのに「働いて働いて」の高市発言が流行語大賞受賞の矛盾に30歳女性が感じた将来への不安」(福田和子/2025年12月)
福田さんはこの記事の中で以下のようにつづっている。
”何よりも怖さを感じるのは、新語・流行語大賞の選出理由が示すように、「働いて働いて働いて働いて働いて」というスタイルを良しとする風潮が、SNSをはじめ、世論の中に広がり始めていることだ。「ワークライフバランス、とか言い出したから日本は弱小化した」「高市首相の馬車馬のように働く姿勢こそ待っていた」……SNSに並ぶこういった言葉は、首相の発言と社会は無関係でないことを伝えている。”
では、ワークライフバランスを大切にしている国は「弱い」のだろうか。
「4時に帰る」のに生産性が日本より高いデンマーク
浜田敬子さんは、『第3の時間~デンマークで学んだ、短く働き、人生を豊かに変える時間術』(ダイヤモンド社)の著者、井上陽子さんと対談。井上さんは元新聞記者で、それこそテストを受けているときも携帯にニュースが来ていないか心配でしょうがなかったというほど「長時間労働の人」だったと自認する。井上さんが本書を上梓したのは、デンマークに暮らしてもなお「自分だけは4時に帰るなんて無理」と思っていたときに、「4時に全員帰宅するのに日本より生産性が高くなっている現状」を目の当たりにしたからだ。
「働いて働いて働いて、とは真逆。デンマークで「4時に帰るのに生産性が高い」理由」(浜田敬子・井上陽子/2026年2月)
「試験の間も仕事の連絡がないか心配だった…長時間労働を続けて夫婦関係に歪みが生じた女性の気づき」(浜田敬子・井上陽子/2026年2月)
この記事で紹介している、『第3の時間 デンマークで学んだ、短く働き、人生を豊かに変える時間術』に書かれているデンマークの現状は以下の通りだ。
〇父親も母親も、国家官僚も企業幹部も、午後4時前後には子どもを保育園や学校に迎えに行く。
〇フルタイムは週37時間で、残業はほぼなし。
〇年に5~6週間の有給休暇を完全消化し、夏休みは3週間連続して取るのが普通。
〇そんな”ゆるい”働き方をしているのに、デンマークの一人当たりGDPは世界のトップ10に入り、日本の2倍以上という水準。
にわかに信じがたいが、元読売新聞社の記者で、それこそ「働いて働いて働いていた」井上さん自身、本書をまとめようとした経緯をこのようにつづっている。
“かつて自分が当たり前だと思っていた、日本や米国のような競争社会とは、ほど遠いように見える国デンマーク。それで競争力ランキング1位って、さすがにそれは、どういうこと?
こうして私は、ようやく、この謎解きに本腰をいれることにしたのだった。
“(『第3の時間』より)
長時間労働をしてきて、それしかないと思っていた井上さんと、自身も出産後、子どもを産んでいないかのように仕事をしていたという浜田さんだからこその説得力がある。
そこにあるのは、「すべての人が長時間労働でない」からこそできることであり、個人の生活を尊重される環境だ。
では日本では同じようにできるかというと、すぐに「誰もが16時に帰るようにする」というのは難しいだろう。
「短時間のハードワーク」が業績を変える
しかし、無理だからといってそのままにしては、誰もが疲弊してしまう。そんな日本での「戦略としての働き方改革」を提案しているのが、2006年に「株式会社ワーク・ライフバランス」を立ち上げた小室淑恵さんだ。
小室さんがつねに主張しているのは、単に働く時間を短くすることではない。「長時間労働から抜け出し、成果を上げる」というものだ。
「いやいや、残業をなくしたら売り上げが下がるでしょ」という声が聞こえてきそうだが、では小室さんの唱える「残業をなくす」とはどういうことなのか。高知県のプロジェクトの実例とともにつづってもらった。
「「残業代を1.5倍にすることにします」高知県知事から言われた働き方改革の先駆者が「赤字覚悟」で黒字になった理由」(小室淑恵/2026年2月)
記事の中で、小室さんは次のように記している。
”能力も意欲もありながら事情で労働市場に出られなかった人材を獲得できる職場とは、長時間労働や休日出勤が前提ではない職場です。こうした変革ができた企業は人手不足とは無縁で、若手のエンゲージメントも高い。これからの業績向上の鍵は、こうした人材から「選ばれる企業」になり、かつその能力をフルに活用できるような「仕事のやり方」に職場が転換しているかどうか。いわば短時間で「ハードワーク」する職場です。”
長時間労働をなくし、誰もが人として健やかに余裕をもって暮らすことのできる環境は、ジェンダーギャップを解消し、生産性も高める可能性が大きいのだ。
少なくとも、人の命を大切にし、国民ひとりひとりが健やかな社会を求めることは、当然のことではないだろうか。
構成・文/FRaUweb新町真弓