「相撲人気が高まっている理由ですか? ガチンコで取組をする力士が増えたこと。これに尽きますよ。純粋な目で見ているお客さんには、『本物の取組』というものは伝わるんです」
平成の大横綱である貴乃花光司氏がこう語るように、いまの角界はかつてないほどの黄金期を迎えている。
相撲ファンが爆発的に増えたことで、本場所のチケットはプレミアがつくほど入手が困難になった。2024年と2025年は、6場所全90日間の入場券が完売(札止め)。’90年代前半の「若貴ブーム」を凌ぐ勢いとなっている。
相撲界は「令和の三帝時代」に突入
相撲人気の火付け役となったのが、大の里(25歳)であることは間違いない。’25年5月、8年ぶりの「日本出身横綱」へと登り詰めた。しかも、新入幕から所要9場所での横綱昇進は史上最速。他にもさまざまな記録を打ち立てたことから「角界の大谷翔平」との呼び声も上がっている。
だが、決して大の里の「一強状態」ではない。最強の好敵手が2人もいることも、好角家を喜ばせている。同じ横綱の豊昇龍(26歳)と、大関の安青錦(21歳)である。
特に今年の初場所で優勝したウクライナ人の安青錦は、新入幕から所要5場所で大関へのスピード昇進を果たし、大の里と並び史上最速のタイ記録を達成。3月場所で優勝して横綱になれば大の里の最速記録を破るとあり、注目が集まっている。
「何より面白いのは、この3人の力士が『3すくみ』になっていることです。大の里は同じ横綱の豊昇龍に負けることが多い。豊昇龍は大の里には強いけど格下の安青錦に勝てない。そして安青錦は豊昇龍には強いけど、大の里には一度も勝てていません」(相撲ライターの田中圭太郎氏)
いわば、「令和の三帝時代」に突入したことで相撲に関心が集まっているわけだ。折しも3月8日から開催される大阪場所も間近。いまの力士に詳しくない人でも本場所を存分に楽しめるように、角界の勢力図を徹底解説する。
大の里は「大鵬+柏戸」タイプ
まずは大の里について、もう少し深掘りしていきたい。石川県出身の大の里は中学進学を機に親元を離れ、県立海洋高校で相撲に励んだ。
高校卒業後は日体大に進み、全日本相撲選手権で2年連続のアマチュア横綱に輝く。身長193cm、体重175kg(当時)と恵まれた身体を活かし、圧倒的なパワーでバッタバッタと相手を倒していった。
それだけの逸材とあって、多くの相撲部屋からオファーが届いていたが、最終的には元横綱・稀勢の里が親方を務める二所ノ関部屋に入門する。’23年夏場所に、幕下10枚目格の付け出しで初土俵。翌年の夏場所で幕内初優勝を果たすと、その勢いのまま横綱まで駆け上がった。現在は、現役力士のなかで最多優勝回数(5回)を誇っている。
大の里のスタイルについて、漫画家で好角家のやくみつる氏がこう解説する。
「大柄な身体だけど細かな動きもそつなくこなせます。内側から相手を起こして攻めることもできる。この適応力こそ、彼の強みです。要は凄まじいパワーだけでなく、器用さも持ち合わせている。
レジェンド力士で例えるならば、『大鵬+柏戸』のようなタイプです。足して2で割る訳ではありません。大鵬は常に土俵の中心を取って、相手の攻撃を受けて捌いていました。こうした横綱相撲を取れることに加えて、柏戸の豪快さもあるように感じます」
’24年春場所優勝の際には、師匠の二所ノ関親方が「完成度は10%に過ぎない」と評したことが話題になった。横綱となった現在も成長途中であることがうかがえる。
初場所で注目…“新興勢力”安青錦
そんな大の里は、力士の間でも「気さくで良いヤツ」と評判だ。ある角界関係者はこう語る。
「巡業先でベテランの関取が『横綱、みんなで食事に行くけどどう?』と誘うと、『行きます』と快く応じてくれる。威張った態度が一切ない。白鵬が君臨していた時代は怖くて誰も近づけませんでした。
大の里は以前、乱痴気騒ぎを起こしたことが週刊誌に報じられました。その際は先輩力士たちに『お騒がせしました』と頭を下げていた。その実直な人柄で、誰からも好かれています。ちなみに、師匠の二所ノ関親方は、親方衆の輪に入ろうとせずポツンと一人でいることが多い。対照的な師弟だと言われていますね」
そして、初場所で大の里よりも注目を集めたのが新大関の安青錦である。彼は相撲が人気のウクライナで7歳から相撲を始めた。大阪で開かれた世界ジュニア相撲選手権で3位を獲得するなど、学生時代から成績を残している。
だが’22年春、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。母国の国立大学への進学が決まっていたものの、避難のために国外脱出。家族はドイツに移住したが、安青錦だけは力士になるため単身来日を果たした。
このとき世話になったのが、ジュニア選手権で接点ができた関西大学の相撲部だ。安青錦は相撲部主将の家に居候をしながら稽古に励み、そこから元関脇・安美錦が親方を務める安治川部屋に入門する。
「日本人力士には決してない感覚」
23年9月場所で初土俵を踏むと、史上最速で大関昇進。また、新関脇と新大関で2場所連続優勝を達成し、これは双葉山以来89年ぶりの快挙となった。前出の貴乃花氏はこう語る。
「押されたり動いたりしている中ではなく、止まった状態で小技を出すのが非常に上手い。そして、メンタルの強さもあると思います。いまも戦争真っ只中の母国を後にして、家族とも離れて、ひたすら相撲道を歩む。これは生半可な覚悟ではできません。日本人力士には決してない感覚ですよ」
安青錦といえば、師弟関係も有名だ。師匠の安治川親方は、’22年に伊勢ヶ濱部屋から独立して安治川部屋を新設した。彼にとって最初に幕内力士になった弟子が安青錦である。この二人三脚ぶりが、ファンたちに受け入れられた。
「裏の立て役者は、安治川部屋の女将さんです。早稲田大学法学部を卒業後、グラビアアイドルや舞台女優として活躍した異色の経歴を持っています。英語やフランス語も堪能で、いまは安青錦のためにウクライナ語も勉強しています。
こうしたサポートが安青錦にとっては力になったはずです。誰に対しても優しく礼儀正しい男なのですが、これも親方や女将さんによる温かい指導の賜物なのかもしれません」(前出の角界関係者)
ちなみに、大の里が所属する二所ノ関部屋も’21年に新設されている。相撲部屋は45部屋あるが、幕内力士が一人もいない部屋も珍しくない。そんな中、新興勢力の相撲部屋が横綱と大関を輩出したというのは注目に値するだろう。
つづく【後編記事】『「この前頭たちは絶対化ける」ひと目で分かる2026年大相撲【注目力士・有力部屋】一挙紹介』では、大の里と並び立つもう一人の横綱・豊昇龍ほか、次世代を担っていく注目力士たちを紹介していく。
「週刊現代」2026年3月16日号より