積分と聞くと、たくさんの公式、計算が大変、テストで苦い経験をした、など、よい印象を持たない方も少なくないでしょう。しかし、積分は、私たちの生活の至るところにひそんでいるといいます。
難しく感じるのは、まず微分を学んでから、その逆の操作として積分に入っていく、という高校数学での登場の仕方にある、と指摘するのは、東京大学大学院宇宙科学研究所(現・JAXA)から、オーケストラの指揮活動に従事した後、数学教育の道に携わるようになった、永野数学塾(大人の数学塾)の塾長永野裕之さん。
紙と鉛筆を用意する必要はありません、という、衝撃的にわかりやすい解説で、どっぷり積分の世界に浸れるはずです。
大好評の前作『読むだけでわかる「微分」』に続く、『読むだけでわかる「積分」』から、積分の興味深い話題をご紹介していきます。
今回は、「微積分学の基本定理」についての解説をお届けします。
*本記事は、『読むだけでわかる「積分」 理解すれば、本質が見えてくる』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
数学史を「それ以前と以後」に分ける、衝撃的発見
数学史を見渡すと、「微積分学の基本定理」のように、「それ以前とそれ以後」に分けられるようなエポックメイキングな発見がいくつかありますが、中でも、「微積分学の基本定理」は特に重要な位置を占めています。
アイザック・ニュートン(1642-1727)とゴットフリート・ ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)はそれぞれ独自の視点からこの定理に到達しました*。
*それぞれこの定理に到達:じつは、この発見には逸話があって、ニュートンの方が先に着想を得ていましたが、長らく公表せず、その間にライプニッツが論文にまとめて発表したため、両者(およびそれぞれの支持者)の間に先取権争いが勃発しました。さらに、18世紀初頭には、イギリス王立協会がライプニッツの盗用を主張したため、論争はさらに激化してしまいますが、今日では両者が独自に微積分を発見したと認められています。
それ以前、微分と積分はまったく別個の手法として発展していましたが、この定理により、両者が実は互いに逆演算の関係にあることが明らかになりました。つまり、ある関数を積分して微分すると元の関数に戻り、微分して積分すると定数項を除いて元の関数に戻るという、 驚くべき関係性が証明されたのです。
一見するとまったく異なる目的と効果を持つ2つの操作が、 実は密接に結びついた“裏表”の関係にあると明らかになったときの驚き。それはまさに「微積分学の基本定理」が発見されたとき、当時の数学者たちが感じた衝撃そのものです。
今回は、微積分学の基本定理がもたらした衝撃の事実、すなわち「微分と積分は逆演算の関係にある」とはどういうことかを、身近な例でイメージしていただきましょう。
貯金をグラフで積分・微分する
下の図上の「貯金額グラフ」は、10ヵ月間の貯金額(万円)の変化を表したグラフです。
この貯金額の変化の詳細をつかむために、「貯金額グラフ」を細かく(1ヵ月単位に)分割し、それぞれの区間の傾きを調べてみましょう。言わば、貯金額グラフを「微分」するわけです。なお、各区間の線分の傾き、すなわち 1ヵ月あたりの変化の割合をここでは「貯金率」と呼ばせてください。
次の図下の「貯金率グラフ」は、各区間の貯金率をまとめたグラフです。
この「貯金率グラフ」において、グラフと横軸(月の軸)で囲まれた図形(ピンクの部分)の面積を求めてみましょう。図形は凸凹していますが、横幅を1ヵ月とする長方形に分けて、足し合わせていきます。今度は貯金率グラフを「積分」するわけです。
ただし、横軸より下にある部分の面積は高さが負なので「負の面積」として扱います。 以下の表は計算結果をまとめたものです。
貯金率を積分すると、もとの貯金額に戻る
さて、注目していただきたいのはここからです。
「貯金率グラフの面積」の累計面積は、貯金額グラフにおける 当該月の貯金額と一致しています。
たとえば、最初から 5ヵ月までの累計面積は5(万円)であり、 これは、貯金額グラフの5ヵ月時点での貯金額と同じです。つまり、貯金額グラフを微分して得られた貯金率グラフを積分すると、もとの貯金額グラフに戻ってしまうというわけです。もちろん逆に、貯金率グラフを積分することによって得られた 貯金額グラフを微分すると貯金率グラフに戻る、とも言えます。
とはいえ、「貯金率」は1ヵ月ごとの貯金の増減を示す指標なので、これを一定期間にわたって積算すれば、その期間の最終的な貯金額に至るのは自明の理です。
でもこの事実が「微積分学の基本定理」の理解に役立ちます。
少し視野を広げてイメージしてください。もしある量S(x) が「f(x)Δxを積み上げた総和」として得られるものだとしたら、Δx あたりの S(x) の変化量はf(x) そのものになる、というのが「微積分学の基本定理」の本質です。
つまり、積み重ねた結果を表す関数と、その増え方を表す関数は、互いに表裏一体の関係にあると言っているわけです。このことは前回の記事で出てきた∫(インテグラル)を導入したときの表記を使って、次のように書くこともできます。
S(x)≒Sum of f(x)Δx ⇒ ΔS/Δx≒f (x)
「≒」を使っているのは、普通「f (x)Δxを積み上げた総和」はS(x)の近似になるからです。ただし、Δx → 0 とすれば誤差は0に近づき「=」になります。
微積分学の基本定理とは、f (x) の不定積分= f (x) の原始関数であることを示す定理です。原始関数とは、微分すると f (x) になる関数のことです。微積分学の基本定理を進める前に、この原始関数という概念を説明しましょう。
読むだけでわかる「積分」 理解すれば、本質が見えてくる
積分の考え方を、数学の歴史にも触れながら、わかりやすく解説。積分が身近なものになる1冊。