なぜ「有楽町店」の牛丼は美味いのか
日本一美味しい「吉野家」は東京・有楽町店で間違いない――。先月末、X上でにわかにこんな話題が盛り上がった。チェーン店は「どの店も同じ味、クオリティです」と一様に主張する。しかし、人や環境が変われば、自ずと味に違いは出てくるはずだ。
実は、吉野家有楽町店だけではなく、他のチェーン店にも「この店だけ異常に美味しい」「他よりレベルが高い」といった噂が絶えない店がある。徹底検証してみた。
まずは、目下話題となっている吉野家 有楽町店。“経営の神様”こと稲盛和夫も「この店が一番」と評したことで知られている。
全国約1200強の店舗を構えるうち、「有楽町店は日本一の客数を誇る店舗でございます」(株式会社吉野家広報)と言うが、実はこの来客数の多さが美味しさの決め手になっている。
同社HPによれば、吉野家の牛丼は、〈工場からたれを各店舗へ送りますが、各店舗で牛丼を作る際に肉や玉ねぎの味わいが溶け出したたれに工場から送ったたれを追加で継ぎ足して〉作られている。
一日約1600人が来店するとも言われる有楽町店では、肉と玉ねぎを煮る回数も来客数に比例して増える。結果、日本で一番、肉と玉ねぎの旨みが溶け出した極上のたれが生まれるというわけだ。
同じマニュアルを使っていても、そこに人がかかわる工程がある以上、味が変化する可能性は捨てきれない。「こってりラーメン」でおなじみ、天下一品の場合、京都・一乗寺にある総本店の味に近い、濃厚なスープが味わえると噂されるのが高円寺店だ。
天下一品“直営店の味”神話を検証する
天下一品を運営する天一食品商事の発表によれば、セントラルキッチン方式(食品の調理や仕込みを事前に専用工場で行い、各店舗に発送するやり方)でスープを仕込んでいるため、基本的に味は同じ、としている。
その実態についてラーメン評論家の山本剛志氏に尋ねた。
「天下一品と一括りに言っても、直営店、独立したベテラン社員や企業によるフランチャイズ店と様々。高円寺店は都内では数少ない直営店で『本店の味』として好むファンが多いのです」
都内の直営店は’24年に閉店した神楽坂店を除くと、高円寺店と中野店のみ。もうひとつ、直営店ではないが東京で最も歴史の長い池尻店なども人気だという。山本氏が続ける。
「個人的には、『直営だから』という強い思いや、長年通うことで生まれたノスタルジーが、味の補正になっているのではと思います。ただ、天下一品は元となるスープは同じですが、各店舗で本部が定めたマニュアルに沿って濃度や味の調整、加温などを行った上でラーメンを提供しています。直営店や老舗の店だと、そのオペレーションの精度が高く、美味しさにつながっている可能性はありますね」
天下一品のようにセントラルキッチン方式を導入するチェーン店は多い。これにより各社は調理の効率化や味の均一化を図っているが、それでも店ごとに味が変わるケースは少なくない。
「日本一美味しいマクドナルド」に行ってみた
巨大チェーン、マクドナルドにも実は「日本一美味しい」と言われる店がある。大阪・梅田駅から電車で約15分。豊中市の阪急庄内駅のすぐ目の前に、マクドナルド庄内店はある。一見、他のマックと何の違いもない店舗だが――「他店より美味しいと話題になっているんです」と語るのは、庄内店で実食したフードライターの松浦達也氏だ。
「まず一番に違いを感じたのが、ポテトの揚げ加減。油切れが良く、ファストフード特有の酸化臭が少なかったです。塩も軽く感じ、時間が経ってもカリッと感とアツアツ感が長持ちしている印象です。ハンバーガーに関しても、他店のバンズ(パンの部分)はパサつく印象でしたが、庄内店は内部の水分が蒸気となって行き渡るような、ふっくらした焼き上がり。レタスなどの盛りつけもきれいで、味に一体感がありました」
マクドナルドといえば’71年、銀座に日本1号店ができて以来、50年以上にわたって「変わらない味」を提供し続けてきたチェーン店。徹底したマニュアル化は業界随一とも言われているが、なぜ庄内店はひと味違うのか。
実はこの「マニュアル」が美味しさのカギを握っていると、松浦氏は指摘する。
「複数の元クルーの方々に話を聞いたところ、みな口を揃えて言っていたのが『マニュアルが遵守されているかどうかで味が全然違う』ということです。たとえばポテトの場合、油の品質管理や調理工程、器具の掃除具合で美味しさも変わってくる。庄内店はこれを徹底しているのでしょう。また、どんな飲食店でも、美味しさの要素にサービスの良さが入ります。その点、庄内店は提供スピードの早さや丁寧な接客も際立っています」
美味しさは主観によるものだが、マニュアルに忠実であればあるほど、本部や本店が考える本物の味に近づく。それが、味の違いとして生まれている、というわけだ。
つづく【後編記事】『人気飲食店チェーン「いちばん美味しい店舗」ベスト10を公開…餃子の王将、「焼き」の技術トップクラスはここ』では、「餃子の王将」「富士そば」など、あえてマニュアルから外れることで「美味しい!」と人気を集めるチェーン店を総力取材した。