積分と聞くと、たくさんの公式、計算が大変、テストで苦い経験をした、など、よい印象を持たない方も少なくないでしょう。しかし、積分は、私たちの生活の至るところにひそんでいるといいます。
難しく感じるのは、まず微分を学んでから、その逆の操作として積分に入っていく、という高校数学での登場の仕方にある、と指摘するのは、東京大学大学院宇宙科学研究所(現・JAXA)から、オーケストラの指揮活動に従事した後、数学教育の道に携わるようになった、永野数学塾(大人の数学塾)の塾長永野裕之さん。
紙と鉛筆を用意する必要はありません、という、衝撃的にわかりやすい解説で、どっぷり積分の世界に浸れるはずです。
大好評の前作『読むだけでわかる「微分」』に続く、『読むだけでわかる「積分」』から、積分の興味深い話題をご紹介していきます。
*本記事は、『読むだけでわかる「積分」 理解すれば、本質が見えてくる』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
面積とは、平面上の図形がどれだけ広がっているか
「面積」という言葉は、あまりにも当たり前に使われています。
小学校では「縦×横で出せます」と教わり、知らず知らずのうちに「長方形や三角形には面積がある」という感覚が身体に染み込んでいます。
でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。面積とは、 一体何なのでしょうか?
簡単に言えば、面積とは「平面上の図形がどれだけ広がっているか」を表す数値です。
たとえば、1辺が1cmの正方形を一つの「ものさし」にして、 「この図形にはいくつの正方形が入るだろう?」と数えていけば図形の広さが数値で表せるでしょう(図「図形の広さを数値で表わす」)。
このようにして、基準となる正方形の数を数えることは、四角形なら「縦×横」、三角形なら「縦×横÷2」という計算に帰着します。それは小学校で習う、最も素朴で直観的な「面積」の考え方です。五角形や六角形といった他の多角形も、三角形や四角形に分けられますから、その面積を求めるのは難しくありません。
ただし、世の中には三角形や四角形に分けるのが難しい図形も存在します。たとえば、放物線や円のように滑らかにカーブ する線で囲まれた図形です。
こうした図形の面積を求めるために生まれたのが、前々回の記事でご紹介した「取り尽くし法」でした。ただの「縦×横」では測れない図形についても、(後の)極限という概念を使えば正確な面積が求まる可能性を示したのです。
面積の「新定義」=定積分
ではここで、「極限」を使って、面積を精密化していきましょう。そのうえで「定積分」というものを定義していきます。
今、y=f(x) のグラフが下の図のような形であるとしましょう。このグラフと、x=a、X=bという2本の縦の線、そして x軸=でa囲まれた図形の面積をSとします。
このSを直接正確に求めるのは容易ではありません。そこで、図形をいくつかの細長い長方形に分割し、それらの「長方形の面積」の総和でSを近似する、という戦略をとります。
ここで言う「長方形の面積」とは、小学校のときに習った「縦×横」で計算される量です(面積を定義するのに「長方形の面積」を用いるのは循環論法ではないか、と思われるかもしれませんが、ここで言う「長方形の面積」は「縦×横」で計算される、固有名詞的な量であると考えてください)。
ちょっと大きめと、ちょっと小さめが同じ値に近づく
なお、長方形の置き方には次の2つのパターンがあることに注意してください(図「長方形の面積の総和でSを近似する」)。
- グラフに下からぴったりくっつける
- グラフに上からぴったりくっつける
当然、下からくっつけた場合は本当の面積Sより少し小さめ になりますし、上からくっつけた場合は少し大きめになります。
この「ピタリと一致する値」を面積Sと定めます。
図形をn個の長方形に分けたときの「長方形の面積」の総和を考え、nを限りなく大きくしたときの極限がSであるというわけです。
「分けた長方形の面積の総和」を式で書いてみる
これを数式で書けば 、式(1)と書けます。
ここで長方形の横の長さをΔxと書くと(Δは、差[変化分])、x=aからx=bの幅をn個の長⽅形に分けたとき、式(2)となります。
さらに、「長方形の面積」を「縦×横」としてf(x)Δxで表し、「総和」を英語の “Sum”で書き換えれば、式(3)となります。
ライプニッツの「∫」という発明
ただし、毎回式(3)のように書くのは、スマートではありません。 記号の王様ライプニッツもそう感じたのでしょう。 そこでライプニッツは、「∫」という記号を使って表すようにしました。
∫は「インテグラル」と読みます。ちなみに、形容詞の“integral”は「積分の」の他「整数の」という意味があり、動詞の“integrate”には「統合する」や「完全なものにする」などの意味がありますが、ライプニッツは「∫」を、「総和」を表すラテン語の“summa”の頭文字から想起したと言われています。
後に、Sを求める図形の範囲がx=aからx=bまでの範囲であることは、次のようにインテグラルの上下に書き添えるようになりました。
この右辺を「xのaからbまでの定積分」と言います。
この定積分の定義は、微分とは本質的に無関係である点に留意してください。
また、定積分の定義は、面積の定義でもあります。
「長方形の面積」を積み重ねた和の極限
面積とは、「長方形の面積」を積み重ね、その和の極限をとることによって定義されるものであり、この極限操作を「定積分」と呼ぶことにしたわけです。
したがって、面積とは定積分の別名であり、両者を同一視することで、面積という概念を拡張 (新定義)することができます。
【定義】面積=定積分
y=(f)xのグラフと、x=a、x=bおよびx軸で囲まれた 図形の面積Sは、定積分を用いて次のように定義する。
細長い「長方形の面積」の総和の極限(=定積分)を求める計算はたいてい面倒です。
この面倒を一気に解決するのが「微積分学の基本定理」なのです。
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次回は、「微積分学の基本定理」についての解説をお届けします。
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