急激に伸長するリカバリーウェア市場。VENEXなどの老舗のほか、ワークマンやAOKIが独自ブランドを発売、ニトリ、ローソンも参入するなど、多様な展開を見せている。
この流れを牽引しているのが、疲労回復パジャマBAKUNEを販売するTENTIALだ。
上下セットで2万5000円以上と、決して安い商品ではない。にもかかわらず、2022年の販売開始以降、累計150万セット以上(2025年8月末時点/トップス・ボトムスで1セット・累計販売数300万枚)を売り上げている。
業績は、2026年8月期第一四半期の売上高は70億7500万円、営業利益は6億5700万円と、それぞれ前年同期比100.6%増、37.4%増という好調ぶりだ。
なぜここまで売れるのか、そして、前年比2倍以上という急成長の秘密はどこにあるのか。同社代表取締役 CEOの中西裕太郎氏に取材した(以下、「 」内は中西氏)。
病気で夢を断念した経験から
前編記事『大ヒット「BAKUNE」は実は「医療機器」…徹底的にエビデンスにこだわった開発の裏側』でも述べたように、健康という課題や客のニーズに真っ直ぐに向き合ってきたことが、TENTIALの成長の理由となっている。これは簡単なことではない。例えば一般医療機器の基準を商品ごとにクリアするだけでも、検査のためにコストや手間がかかる。
同社のものづくりに対する「ブレない姿勢」はどこから来ているのだろうか。
中西氏がTENTIALを立ち上げたのは、「健康を通じて、人の挑戦を支えたい」という思いからだった。高校時代にプロサッカー選手を目指しながらも、病気で断念した経験を持つ。
「健康でなければ挑戦できないということを痛感した体験でした。幸い、私自身はITの道に進むことができ、挑戦を諦めずに済んだ。スポーツに関わることで何かできないかと考える中で、思い浮かんだのが健康というテーマです。
アスリートなら健康のために当たり前にやっていることを、知らないで過ごす一般の人も多い。社会を良くするためにできることがある、と感じました」
実は最初に立ち上げたのが、スポーツや健康の情報を伝える、デジタルメディアの事業だった。この原点が、まさにTENTIALの「ポテンシャル」となる。
まず、「デジタル」のノウハウを習得できたこと。後に、ECサイト運営やデジタルマーケティングを自社で行えたことは、顧客対応のスピードやコスト面で有利に働いた。
アスリートたちとの強い絆
次に、アスリートや関係者との緊密な関係性だ。
BAKUNEの商品開発にあたっては、商品をアスリートに使ってもらい、細かくインタビューをして聞き出した感想を開発に活かしている。こうした商品のフィードバック、TENTIAL側からのコンディショニングサポートという形で、これまで1000人以上のアスリートと連携してきた。
また従業員には元アスリートも多数在籍している。
「アスリートのセカンドキャリアに役立ちたい、という思いはデジタルメディア事業を営んでいた当時からありました。自分自身の体験もあり、幼少時からアスリートを目指してきて、突然夢を奪われた人にとって、人生の選択肢が少なすぎると感じていたからです。
メディア事業を通じて、そうした思いに賛同してくれるスポーツドクターやアスリートが少しずつ増えていきました」
元アスリートを起用した市民向けの睡眠講座なども、行政と連携して行なっている。
侍ジャパンとはオフィシャルパートナー契約、Jリーグとは未来育成パートナー契約などを結んでいるが、中西氏によると、よくあるCSRの一環や宣伝効果を見込んだものではなく、「企業としてスポーツの課題に関わっていくべき」という使命から行なっている意味合いが強いという。
中西氏の思いを発端に、創業以来培われてきたアスリートとの信頼関係は、品質の裏付けであると同時に、ブランドの信頼性、そしてブランドビジョンを支える軸として機能しているのだ。
「睡眠」という余白を見つけた
2019年には、デジタルメディアからメーカーへと事業を展開させたが、最初に発売した商品であるインソール(靴の中敷き)も、のちのBAKUNEにつながっている。
インソールからスタートさせたのは、アスリートにとって足の痛みとは日常茶飯事のため、それまでの事業であるデジタルメディアとの親和性が高かったことが理由だ。ここで行ったのがLINEを活用した「足の相談所」。顧客の悩みを集積しながら、商品開発に活かしたという。後のBAKUNEの手法がここで培われることになる。
なお、インソールは手に取ってもらうことが大事な商品のため、ポップアップショップやスポーツイベントなど、オフラインの施策も行なっていたという。
そして2020年、いよいよBAKUNEの誕生となる。
「当時、血行を促進する『コンプレッションウェア』は市場に存在しました。しかしスポーツ時に身につけることを前提としたもので、睡眠時にパジャマとして着て疲労回復する、という分野はあまり注目されていませんでした。
実は睡眠に関する課題はアスリートにとっても大きいものでした。例えば試合の遠征時、時差やプレッシャーなどで眠れないという悩みは多いんです。アスリートに限らず、ビジネスパーソンにも同じ悩みはある。『睡眠』にこそ、課題解決できる余白があるのでは――そう考えました」
そして健康意識の高いアスリートやビジネスパーソン=「ビジネスアスリート」という客層を想定し、商品開発を進めていくこととなる。
最初はアスリートや医師、ビジネス世界のトップランナーなどが主なユーザーだった。しかしユーザーの声を取り入れながら商品ラインナップを増やしていくとともに、ユーザーも広がっていったという。
そして現在のように、「リカバリーウェア」の市場を牽引するまでに成長してきたわけだ。
BAKUNEのヒットは必然だった
今ではBAKUNEのほかにも、数々のリカバリーウェアが店頭に並び鎬を削っている。新規参入してきた企業を含め、競合他社にどのような意識を抱いているのか、中西氏に率直に質問をぶつけてみた。
「市場が拡大すれば、参入企業や競争が増えていくのは当然のことです。その中で信頼して選ばれるブランドであり続けるために、他社への意識というよりは、自分たちがより良いものを提供することが重要です。
我々の強みは、まずはデジタルマーケティング。そしてエビデンスに基づき、透明性と再現性のあるものづくりを行なっています。ヒットしたのはたまたまではなく、必然ということです。将来的には、何が成長するのかをしっかりと見極めながら、BAKUNE以外にも広げていきます」
売上の8割を占めるリカバリーウェアについて、まずは主要事業として確立させることを目指す。
また「睡眠」に関する課題は社会貢献としても重要なため、枕や布団など、ウェア以外の睡眠関連の商品展開に広げていきたいという。
創業当初は従業人も数名、中西氏自身も加わって、手作業に近い状態で業務を行なっていた。しかし今は従業員200名超。2025年2月には東証グロース市場に上場し、代表取締役として果たす役割も変わってきた。しかし「責任などはこれまでと同じ」と中西氏。
「私のミッションはTENTIALが世界にとって必要な存在になること。実現はまだまだだ、と感じています」
人々の健康を支え、挑戦をサポートしたい……夢の実現に向け、TENTIALはもっと成長していきそうだ。