46億年にわたる地球史において、想像を絶するような超巨大噴火が何度も起こりました。そして、その巨大な火山活動が、時に何十万年もの期間で続く気候変動や海洋の酸素減少などを引き起こし、生物の大量絶滅をもたらしたと考えられています。
生命の歴史40億年間のなかで、とくに大規模な大量絶滅が5回あったとされ「ビッグ・ファイヴ」と呼ばれていますが、そのいずれにも、超巨大噴火が関わっていたと考えられています。
一方、大量絶滅は多くの生物種が姿を消す事象ですが、その後には新たな種があらわれ、結果として生物の進化につながってきたという側面もあります。つまり、地球の大規模な火山活動が、生命の進化を促してきた、という意外な側面があるのです。
生命の進化を、地球の地質活動から検証するという視点が注目を集める『超巨大噴火と生命進化』(講談社・ブルーバックス)から、注目に値するトピックをご紹介していきます。
今回は、超巨大噴火と生命進化というテーマの重要性について考えてみます。
*本記事は、『超巨大噴火と生命進化 地球規模の環境変動が大量絶滅と進化をもたらした』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
超巨大噴火がもたらした、生命の大繁栄
この時代、海底ではマグマ生産量が地球上最大のLIPであるオントンジャワ海台、2番目のケルゲレン海台、そしてカリブ海台などが大規模噴火を行い、海洋や大気中に多量の二酸化炭素を放出しました。これにより、大気中の二酸化炭素濃度は現在の4倍を超え、温室効果により大陸の氷床はすべて融けてしまっていました。
海水準は現在に比べて150m〜200mも高い状態が続いていたのです。そして赤道付近の表層水温度は現在より5℃も高く、極地域では14℃も高温でした。そのため、高緯度でも現在の亜熱帯の気候であり、北極にもクロコダイルが生息していたことが知られています。
超巨大噴火は、生命の歴史の中で、絶滅だけではなく、多様性をもたらすこともあったのです。
大陸の分散が生物に与えた影響
大陸配置に関しては、図「白亜紀末の大陸配置」に示した通り、ジュラ紀初期に開いた北大西洋が拡大し、およそ1億3200万年前にはアフリカ大陸と南アメリカ大陸の分裂がおこり、南大西洋も拡大を開始していました。
また、インド亜大陸も1億3000万年前〜1億2000万年前に南極やアフリカ大陸から分離して北上していました。このように白亜紀の中期は超大陸パンゲアの分裂後、最も大陸が分散している時期であり、広大な大陸棚が存在していました。大陸棚の広範囲には豊富なサンゴ礁が発達し、海洋生物の繁栄の場となっていました。
赤道を周回する海流とその分岐流は高緯度へ熱や水蒸気を運び、海域の大陸棚だけでなく、陸上にも温暖で湿潤な海洋性の気候をもたらしていました。大陸内部にも多量の雨が降り、湿地や沼地が発達したおかげで、昆虫や脊椎動物の多様化も促進され、恐竜をはじめとする陸上動物の繁栄が続いたのです。
温暖化から一転、白亜紀終盤に訪れた寒冷化
地球規模で温暖化が進んだ白亜紀ですが、白亜紀最後の時代であるマーストリヒチアン期(7210万年前〜6600万年前)は寒冷化が進みました。特に中期の約7000万年前は最も寒冷化が進んだ時期として知られています。
この寒冷化は大気中の二酸化炭素濃度の減少にともなって温室効果が弱まったことが原因です(図「6億年間の大気中酸素と二酸化炭素の濃度変化」)。
この時期、特に南半球では海水の塩分濃度が下がり、低緯度の広範囲で多くの二枚貝が絶滅しました。白亜紀中期に大繁栄した厚歯二枚貝やイノセラムスは、この時代に地球上から姿を消してしまいました。
寒冷化が進むと、低緯度での海水の蒸発が抑えられるために、塩分濃度は増加しません。
一方、陸からの淡水の流入が続くと、海洋の塩分濃度は低下していきます。二枚貝は塩分濃度が一定濃度よりも低くなると死滅することが知られているため、ある濃度を下まわった段階で絶滅が起きたと思われます。またこの時代は低緯度で底生有孔虫の多様性が失われたことも報告されています。
ある時は多様性を、ある時は絶滅をもたらした「超巨大火山の活動」
白亜紀末の大量絶滅は6600万年前ですが、このように、それよりも約400万年前である7000万年前頃に絶滅や種数の減少が起きており、これには寒冷化が関係しているといえそうです。
前述の通り、この寒冷化の原因は大気中二酸化炭素濃度の減少ですが、根本的な原因としては、オントンジャワ海台やカリブ海台などの海洋LIPの活動が約9000万年前以降に収まったことにありそうです。大量の二酸化炭素を噴火により大気中へ放出しなくなったからです。
さらに、円石藻、渦鞭毛藻、珪藻という海の三大一次生産者の増殖が進み、光合成により大気中の二酸化炭素を減少させ、温室効果を弱めていったと推測できます。
超巨大火山の活動は、ある時は多様性を増やし、またある時は絶滅をもたらしたのです。
さて、このマーストリヒチアン期中期の寒冷化により恐竜も多様性や個体数を減らしていったと考える研究者達がいます。
恐竜は徐々に絶滅していったのか…恐竜絶滅の漸進説
マーストリヒチアン期中期の寒冷化により恐竜も多様性や個体数を減らしていったという説は、恐竜絶滅の漸進説とよばれています。なお、分類学的に鳥類は恐竜の獣脚類に含まれていますが、ここでは鳥類を除く恐竜類を恐竜とよびます。獣脚類は肉食のティラノサウルスを含むグループです。
図「スーロン博士らが公表した白亜紀末の恐竜の絶滅率の推移」はアメリカ合衆国のミネソタ大学に所属していたスーロン博士らが1986年に公表した図です。彼はアメリカ合衆国の北部からカナダのアルバータ州に分布するヘル・クリーク層に産出する恐竜化石を調べあげた成果を公表しました。白亜紀末よりも700万年前は30属も生存していた恐竜が、時間と共に減少していったことを示したのです。
スーロン博士らの図を見ると、地球規模で寒冷化が進んだ約7000万年前から属の減少が進んでいるように見えます。なお、ヘル・クリーク層は白亜紀後期の地層であり、恐竜などの多くの化石が見つかることで有名です。
スーロン博士は7属の恐竜の歯化石が見つかった最上位の地層は白亜紀の次の時代である古第三紀に堆積したものであると報告しました。
なお、白亜紀末の大量絶滅が起きた時期は白亜紀 (ドイツ語でKreidezeit)と古第三紀(英語でPaleogene)の頭文字をとってK-Pg境界とよばれています。つまり、恐竜の7属はK-Pg境界での大量絶滅から生き残ったことになります。恐竜はK-Pg境界で絶滅したと考えられているので、これはかなり衝撃的な報告です。
その後の2000年にも、インドでK-Pg境界と考えられる地層の上から恐竜の卵の殻が見つかったという報告がありました。
地質学の謎を深める「リワーク」という、やっかいな問題
これらの報告に対しては、多くの研究者達が異論を唱えています。恐竜化石を含む白亜紀の地層が古第三紀になってから侵食を受けて河川によって流され、下流で再堆積したものであろうという批判です。これは地学用語で「リワーク」とよばれています。
地層がリワークを受けているかどうかの判断は難しいことが多く、私も火山の調査で迷うことがあります(私の専門は火山学・岩石学)。これまでに調査した火山の地層の中で、本来の地層なのかリワークなのかを判断できなかった場所は多く残っています。
このリワーク問題は地質学の分野でずっと続いていくと思われます。
いまだ根強い「恐竜絶滅の漸進説」
現在、恐竜絶滅の漸進説はあまり支持されていないようですが、これに追従する論文は2020年代にも発表されています。図「コンダミンらが公表した白亜紀末の恐竜の絶滅率の推移」はベントン博士のグループが公表したものです。
これは代表的な6種類の恐竜グループについて白亜紀後期の絶滅パターンを調べた結果です。この図を見ると7600万年前から種の数が減少しているグループが確認できます。
そして多くのグループは7000万年前から6600万年前にかけての400万年間で種の数を減らしています。ベントン博士らは、寒冷化によって植物食のハドロサウルス科が種の数を減らしたことが恐竜全体の多様性が失われた原因であると考えました。植物食恐竜の種類や個体数が減ってしまうと、捕食者である肉食恐竜も影響を受けたはずです。
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恐竜の絶滅に影響を与えたかもしれない白亜紀後期の寒冷化は、どのようにして起こったのでしょうか。次回の記事で、この謎を解いていきます。
超巨大噴火と生命進化
地球規模の環境変動が大量絶滅と進化をもたらした
生命の歴史40億年間で、生物種の60%~90%もが絶滅した、いわゆる大量絶滅というものが5回あったとされています。そして、そのいずれにも、超巨大噴火が関わっていたと考えられています。
また、大量絶滅は、多くの生物種が姿を消す絶滅事象だが、その後には新たな種があらわれ、結果として生物の進化につながってきた、ともいえます。
超巨大噴火という地球規模のイベントと、40億年にわたる生命進化史の関係を見ていきます。