住宅価格が高騰する中、従来は最長35年が一般的だった住宅ローンに、近年「最長50年ローン」を導入する金融機関が増えてきました。返済期間が長くなることで「毎月の負担を軽くできる」「借入可能額が増える」といったメリットがある一方、SNSやネットでは「危険」「地獄」といった批判的な声も目立ちます。
前編記事→50年住宅ローンはなぜ「地獄」と言われるのか?毎月の返済額は減っても「総額1000万以上増える」場合も【FPが指摘する4つのリスク】
しかし、50年ローンは「正しく使えばメリットが大きい」ローンでもあり、一定の条件に当てはまる場合、50年ローンを活用したほうがいい、と言うのは、1級ファイナンシャル・プランニング技能士で『一度始めたらどんどん貯まる 夫婦貯金 年150万円の法則』著者・磯山裕樹さん。この記事では、磯山さんが前編で整理した50年ローンの4つの危険に対して、1つずつ反論をしていきます。
50年ローンで噂される4つの危険
前編記事で整理したように、50年ローンの巷でよく言われている「危険」は次の4点でした。
(1)総返済額が大幅に増える
(2)老後も支払いが残る
(3)売却や住み替え時にローンが残りやすい
(4)長い期間、借金とつきあわないといけない
これらに対して、50年ローンを前向きに捉える視点で1つずつ反論していきます。
反論(1)総返済額は増えるが、毎月の返済の差額を有効活用できる
50年ローンを選んだ場合、総返済額が大きくなるというデメリットがありました。
借入5000万円、固定金利で比較すると、50年ローンの総返済額は約1064万円多くなります。一方、毎月の返済額は約3.1万円少なくなります。
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私たちの老後の年金積立金を管理しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の2001〜2024年の平均リターンは 年4.18%です。仮に、毎月の返済の差額31,181円を年4%で運用できたとすると、35年間で約2850万円になります。35年後の住宅ローンの残債は約2050万円なので、35年後に一括返済をすれば、約800万円が手元に残ります。
子どもが産まれたころに住宅ローンを組むと、教育費がその後、約20年間はかかり続けます。月々の住宅ローンの返済が少ないことで、教育費が多くかかる期間は返済をおさえ、子どもにお金がかからなくなってから返済を加速していくというプラン設計もできます。
また、住宅ローン控除の適用期間であれば、その恩恵が大きくなります。住宅ローン控除の金額は、「年末の住宅ローンの残高×0.7%」です。返済額が少ない→元本の減りも緩やか→控除額が大きくなることはメリットです。
住宅ローンの利息が大きいことだけに注目するのではなく、「家計全体」や「いつお金を使うか」から考えると「毎月の返済が少ない=資産運用や教育費に回す余力がでる」という利点も大きいです。
反論(2)老後も支払いが続くが、そもそも、老後まで返済が続く前提で借りてはいけない
年金だけで住宅ローンを返していくのは厳しいです。
そもそも、返済期間を長くすることで借入可能額の限度いっぱいに借りると失敗する可能性が高くなります。ご自身が退職するまでには、住宅ローンを返済できるような金額に抑えて借りることは必須です。退職までに返済できる金額の住宅ローンを「あえて長い期間にして返済する」ことがポイントです。
人生は何が起きるか予測できません。短期間のローンで借りた場合、もし将来収入が減って返済が苦しくなっても、「ローン期間を50年にして返済額を少なくしてください」と後から期間を延ばすことはできません。その場合、金利が住宅ローンより高いリボ払い、自動車ローン、教育ローンなどを活用しないといけないかもしれません。
一方、50年ローンは、いつでも「繰上げ返済」をして、返済期間を短くすることができ、総返済額を減らすことができます。「50年かけてゆっくり返す」「繰上げ返済で短く返す」、将来の状況に応じて選択肢があり、「柔軟」に対応できるのは50年ローンです。
会社が破綻して収入が下がる、子どもが私立校に通い莫大な教育費がかかるなど、想定外のことが起きることもあるかもしれません。そんなときは、住宅ローンをゆっくり返しながら、65歳以降も働けるようにご自身のキャリアを考えるなど、対応する時間を確保することもできます。
反論(3)売却時の残債リスクは「ローン期間」の問題ではない
50年ローンは長い期間をかけて少しずつ返済していくので、なかなか元本が減っていきません。そのため、転勤・離婚などで売却が必要になったとき、売却額がローン残高を下回る、いわゆる「残債割れ」が起こる可能性があります。しかし、これはローン期間の問題というより、「無謀な資金計画」や「家の選び方」により起こる問題です。
ローン期間が短くても、無謀な資金計画ではローンの支払いができなくなり、家の価値が下がれば残債割れは起こりえます。
人生は予測できません。家を売ることになるかもしれないことも想定し、資産価値の落ちにくい家を選ぶことが重要です。たとえば、駅近・再開発エリア・人気学区など、将来的に需要が見込める立地を重視するなどです。
また、家を売却しなくていいようにできる対策もやっておきましょう。たとえば、転勤がない会社に転職する、夫婦関係を良好に保つ努力をすることで離婚を防ぐ、などです。
反論(4)長い期間、借金とつきあうためにできる対策をする
変動金利で借りている場合、長期間にわたり金利が変動するリスクを受け入れ、対策しないといけません。ここで大切なことは、金利を予測せず、悪いほうを想定して準備することです。
金利が上がって困る人は、金利の変動を受け入れるしかない人です。
変動金利で借りる場合は、金利が上がったときに繰り上げ返済できる準備を計画的にしておくことは必須です。住宅ローンの利息は「元本×金利」なので、元本を減らせれば、金利が上がっても利息は少なくできます。
繰り上げ返済の準備ができない人は、目先の金利は高くなりますが、固定金利で借りることが選択肢の一つになります。
50年ローンは取り入れ方次第で選択肢になる
50年ローンはそれ自体が危険なのではなく、取り入れ方次第で選択肢になります。たとえば、退職時に無理なく返済できるローンを設定し、あえて50年ローンにすることで、資産運用や教育費に回せるお金が増え、住宅ローン控除の恩恵も大きくなります。また、将来繰り上げ返済をして返済期間を短くする選択肢をとることもできます。
ただし、「計画的にお金を貯めることができない人」「手元にお金があると使ってしまう人」「気持ち的に借金をし続けることに抵抗がある人」は長期のローンと付き合うことは難しいのでやめておいたほうがいいかもしれません。
大切なのは 「住宅ローン単体」で考えるのではなく、「家計全体」と「人生設計」で判断することです。
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