46億年にわたる地球史において、想像を絶するような超巨大噴火が何度も起こりました。そして、その巨大な火山活動が、時に何十万年もの期間で続く気候変動や海洋の酸素減少などを引き起こし、生物の大量絶滅をもたらしたと考えられています。
生命の歴史40億年間のなかで、とくに大規模な大量絶滅が5回あったとされ「ビッグ・ファイヴ」と呼ばれていますが、そのいずれにも、超巨大噴火が関わっていたと考えられています。
一方、大量絶滅は多くの生物種が姿を消す事象ですが、その後には新たな種があらわれ、結果として生物の進化につながってきたという側面もあります。つまり、地球の大規模な火山活動が、生命の進化を促してきた、という意外な側面があるのです。
生命の進化を、地球の地質活動から検証するという視点が注目を集める『超巨大噴火と生命進化』(講談社・ブルーバックス)から、注目に値するトピックをご紹介していきます。
今回は、超巨大噴火と生命進化の関係がいかに重要だったか、という点を考えてみます。
*本記事は、『超巨大噴火と生命進化 地球規模の環境変動が大量絶滅と進化をもたらした』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
著者が監修チームの一員として参加する、国立科学博物館の企画展『大絶滅展 生命史のビッグ』が開催中です(2026年2月26日まで)。
火山噴火による生態環境への影響
さまざまな生物のつながり、そして生息環境をあわせて生態系とよびます。生物の存在はこの生態系と切っても切れないわけですが、火山噴火はその生態系を、時として激変させることがわかっています。そして、火山噴火によってもたらされた環境、生態系の変化は、恐らく生物絶滅の原因となってきました。
さらに大量絶滅を精力的に研究している筑波大学の丸岡照幸博士は、 著書『96%の大絶滅』の中で「大量絶滅が(生物の)進化をうながしている」と主張しています。彼は前の時代に繁栄した生物が絶滅したことによって、次の時代の生物による繁栄が可能となったと考えたからです。
地球上に生命が誕生したのは、およそ40億年前と推定されていますが、それから30億年間は生物の姿として地層に化石として残るようなものは、ほとんど生存していませんでした。微細なバクテリアなどが海底の熱水孔などの限られた地域に生息していたようです。
大量絶滅とは、どのようなイベントか
サイズが数センチメートルをこえる大型の化石として残るような生物が見られるのは、エディアカラン紀とよばれる時代(6億3500万年前〜5億4100万年前)からになります。そして5億4100万年前に始まるカンブリア紀に大型生物の形が爆発的に多様化します。これは 「カンブリア爆発」とよばれ、海で起きました。
このカンブリア紀以降の生物の多様性を示したのが図「地質年代と海洋動物の多様度の変化」です。この図は海洋動物の多様度として、生物の科の数を示したものです。エディアカラン紀の後半以降に生物の種類が増加しています。
カンブリア紀以降、地球の歴史は3つの「代」に分かれています。そして「代」はいくつかの「紀」に細分されています。古生代は6つの「紀」に分かれており、最も古いのがカンブリア紀です。これらの時代名は地層に残っている化石の種類の違いによって付けられたものであり、地質年代とよばれています。
化石の種類の大きな変化とは、ある地層でよく見られていた化石が、それよりも新しい地層になると出てこなくなってしまうことを示しています。つまり、ある地層でよく見られていた化石が大幅に減少または絶滅したことになります。
図「地質年代と海洋動物の多様度の変化」を見ると、古生代と中生代の境界であるペルム紀末、そして中生代と新生代の境界である白亜紀末で生物の科の数が激減していることがわかります。これら生物の種類の激減は大量絶滅とよばれています。
さらに同図をよく見ると、これら2回以外にも3回の大量絶滅を確認することができます。古いほうからオルドビス紀末、デボン紀後期、そして三畳紀末です。これら2回と3回をあわせた5回の大量絶滅は「ビッグ・ファイブ」とよばれており、生命の進化を知る上での重要なイベントに位置づけられています。
5回の大量絶滅「ビッグ・ファイブ」
- オルドビス紀末(O-S境界):オルドビス紀とシルル紀の境(おおよそ4億4500万年前)
- デボン紀後期(F-F境界):後期デボン紀のフラニアン期とファメニアン期の境(おおよそ3億7240万年前)
- ペルム紀末(P-T境界):古生代ペルム紀と中生代三畳紀の境に起こる(およそ2億5951万年前からと、2億5190万年前からの2段階)
- 三畳紀末(T-J境界):三畳紀とジュラ紀の境(およそ2億年前)
- 白亜紀末(K-Pg境界):中生代白亜紀と新生代古第三紀の境(およそ6600万年前)
大量絶滅の後に起こった「生物の分類群の大きな入れ替え」
ビッグ・ファイブの中で有名なのは、6600万年前の5回目の大量絶滅です。このイベントでは、それまで陸上を支配していた恐竜が絶滅したことで有名です。しかし、恐竜だけでなく、クビナガリュウ類、モササウルス類、アンモナイト類、翼竜類もこの時期に絶滅しました。すべての生物種の70%以上が絶滅したという研究報告もあります。
この大量絶滅は巨大隕石の衝突によるものとされていますが、じつは同時期にインドのデカン高原で超巨大噴火が起きており、これも環境に大きな影響をあたえていたことがわかっています。たとえば、恐竜の属の数は、巨大隕石の衝突以前から、明らかに減少していたという研究も あり、超巨大噴火による環境変化が恐竜の属数の減少に関係していたのかもしれません。
それ以外の大量絶滅にも、超巨大火山の噴火が明らかにかかわっていたケースもあります。そして、生命の歴史を振り返ってみると、大量絶滅の後に、生物の分類群の大きな入れ替えが起こっているのです。
生物入れ替えをシミュレーションする
たとえば、5回の大量絶滅の中で、最も大規模な大量絶滅は3回目であり、これはペルム紀末に起きています。このときには、海洋生物の80〜86%、陸上生物の97%もの種が絶滅したとされています。このイベントの原因は、シベリア西部での超巨大火山の噴火であったと考えられています。
そして、この大量絶滅では、それまでに陸上において支配的だった単弓類の多くが絶滅し、その後の三畳紀に大型ワニの仲間をはじめとする爬虫類が台頭しました。爬虫類は空いたニッチ(生態的地位)を埋めるように、多様化していきました。爬虫類の 中から、空を飛ぶようになった翼竜類や泳ぐことに特化した魚竜類・クビナガリュウ類・モササウルス類、そして恐竜類もあらわれました。
ニッチとは生物が生息する環境の中での地位です。
ある生物が生息するためには、住んでいる場所、温度、餌、天敵の有無などの条件が整っている必要があります。このような、ある生物の生息のための諸条件を合わせたものがニッチです。
ある生物群がニッチを占めている生態系に別の生物群が進出するには困難がともないます。ところが、ニッチを占めていた生物群が絶滅すれば、別のタイプの生物群が新たにニッチに進出することが容易になります。
これまでの地球の歴史において超巨大噴火などに起因する環境ストレスにより、多くの生物群集が絶滅してきました。この環境ストレスが除去されて環境が新しい安定状態となると、空白となったニッチを埋めるように、新しい環境に適応した別タイプの生物群集が繁栄し、増殖してきました。
先にあげたペルム紀末から三畳紀の例でいえば、単弓類の多くが絶滅したおかげで、単弓類が占めていたニッチに爬虫類が進出することができ、繁栄して多様化が進んだのだと思われます。
21世紀になって明らかになってきた「超巨大噴火を起こした火山」
これらの大量絶滅を記録している地層を対象としたさまざまな化学分析を積み重ねることにより、どちらも超巨大噴火に原因があることがわかってきました。
原因があるとわかっても、大量絶滅を引き起こした火山がどこにあったのかは不明でした。共に3億年以上前のイベントのため、風化にともなう侵食や大陸移動にともなう変形などの影響を大きく受けて火山体がほとんど残っていないからです。
しかし、地道な地質調査や年代測定の結果、2回目の大量絶滅を引き起こしたのは、東シベリアに分布するヴィリュイとよばれる超巨大火山であることが2010年代に判明しました。さらに2020年になると、1回目の大量絶滅の原因と考えられる風化した火山灰が中国の揚子江(長江)流域に分布していることが報告されました。つまり、5回の大量絶滅には、すべて超巨大火山の噴火がかかわっていたことがわかったのです。
このように、生命の歴史の中で、大量絶滅は生物の多様化や新たな生態系の構築のきっかけになってきたということがいえます。そして、超巨大火山の噴火が大量絶滅をひきおこした可能性が 高いため、超巨大火山の噴火は、生命進化の起爆剤のようなものだといえるかもしれません。
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今後、『超巨大噴火と生命進化 』からの、興味深いトピックをご紹介していきます。まずは、こちらの記事で著者である佐野貴司さんに、本書の読みどころを直撃したインタビューを公開予します。本書ともども、ぜひご一読ください。
佐野貴司さんが、監修チームの一員として参加
国立科学博物館の特別展「大絶滅展 生命史のビッグファイブ」はこちら
2026年2月23日(月・祝)まで
(background illustration by gettyimages)
超巨大噴火と生命進化
地球規模の環境変動が大量絶滅と進化をもたらした
生命の歴史40億年間で、生物種の60%~90%もが絶滅した、いわゆる大量絶滅というものが5回あったとされています。そして、そのいずれにも、超巨大噴火が関わっていたと考えられています。
また、大量絶滅は、多くの生物種が姿を消す絶滅事象だが、その後には新たな種があらわれ、結果として生物の進化につながってきた、ともいえます。
超巨大噴火という地球規模のイベントと、40億年にわたる生命進化史の関係を見ていきます。