前編記事『習近平による補助金打ち切りで自動車業界に「約8.8兆円」の損失が…中国EVバブル、ついに崩壊か』で見てきたように、不動産不況や若者の就職難が叫ばれて久しい中国だが、さまざまな指標を見ると経済は底堅く推移している。
もちろん理由がある。安い人民元を背景に、輸出が好調なのだ。だが、安すぎる中国製品の受け皿となっている国々では不満が高まっている。
安すぎる中国元の影響
中国経済の深刻な対外不均衡ぶりには国際通貨基金(IMF)も警鐘を鳴らす。
IMFは「内需振興に舵を切れ」と求めているのだ。だが中国政府はこれを受け入れるそぶりを見せておらず、むしろ輸出のさらなる拡大を求めている節がある。
中国政府が輸出を継続的に拡大するために講じている手段は人民元安政策だ。
IMFは昨年の対GDP比2.3%の経常黒字に基づき、人民元は8.5%過小評価されていると分析している。
中国政府にとって国内の雇用を維持するためには輸出の拡大が不可欠だろうが、国際社会にとってたまったものではない。
中国製品の競争力は高まるが
中国政府は自国経済の不均衡を棚に上げて米国の批判を繰り返しているが、国際社会では「米国よりも中国のほうが問題ではないか」との認識が広まりつつあるのではないかと筆者は考えている。
このことを痛感しているのは欧州連合(EU)だろう。
米国の関税政策は中国の対米輸出を減少させる効果を生む一方で、EUが中国による過剰生産能力のはけ口になってしまったからだ。
EUの今年の対中国貿易赤字は3000億ドル(約46兆5000億円)と、過去最大となるのは確実な情勢だ。米国の関税を回避する動きを中国の輸出企業が取ったため、中国のEU向け輸出はEUからの輸入の約2倍となってしまった。
在中国のEU商工会議所は12月10日、「今年の元の対ユーロでの下落が欧州市場で中国製品の競争力強化につながっている」と中国の通貨安政策を批判している。人民元は今年、対ユーロで一時10年ぶりの安値に下落した。
今後はEUも対中国関税を設定か
欧州中央銀行(ECB)も「中国の輸出による影響はユーロ圏の雇用の約3分の1に相当する5000万人超に及ぶ可能性がある」と警戒している。
EU首脳はこれまで保護主義的な政策に慎重だったが、とどまることを知らない中国のデフレ輸出を前に強硬策に転じようとしている。
フランスのマクロン大統領は7日、「中国がこのまま行動を起こさなければ、欧州は米国のように中国製品への関税導入を含む強硬措置を講じる」と明言した。EUのフォンデアライエン委員長も「EUと中国の関係は転換点に達した」との認識を示している。
メキシコでは10日、中国からの輸入品に来年から最大50%の関税を課す法案が成立したが、EUでも同様の措置が導入される可能性がこれまでになく高まっている。
米通商代表部(USTR)のグリア代表は4日、「(米国の対中関税が45%の下で)中国からの輸入は25%減少し、両国の貿易は均衡する」との予測を示したが、来年以降、EUで高関税政策を導入されれば、中国全体の輸出が大幅に縮小する可能性は十分にある。
中国経済がさらなる苦境に追い込まれるのは時間の問題ではないだろうか。
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