いまや国策となった「レアアースの生産、確保」
最近耳にする機会が多くなった「レアアース」は、元素の周期律表の第Ⅲ族に属するアクチノイド系元素を除いた元素のことを指し、スカンジウムとイットリウム、さらにランタノイド15元素を合わせた計17元素の総称です。世界中で広く採取できる「軽希土類」と、存在量が少なくて中国に偏在する「重希土類」などに分類されます。
かつては分離が難しく「希少な土」だと考えられたことが「レアアース」という名称の由来です。実は銅や亜鉛といったポピュラーな元素より存在量が多いものもあり、存在量が極端に「レア」ではありません。しかし、単独で高濃度に存在しないため、分離精製が難しいことにより、供給が不安定になりがちです。
その用途は、強力な磁石、蛍光材料、触媒、ガラス添加剤など多岐にわたり、スマートフォンや電気自動車、風力発電、半導体製造など現代のハイテク産業に欠かせない機能性材料群で、日本では「現代産業のビタミン」とも呼ばれていますが、その多くを輸入に依存しています。なお、似たような言葉に「レアメタル」があります。これは産業上重要で供給が不安定になりやすい非鉄金属の総称です。「レアアース」は「レアメタル」の一部であり、同じ意味ではありません。
「レアアース」が株式投資のテーマになる理由が一つあります。日中関係の緊迫がレアアースの供給を左右することです。そのきっかけは「尖閣諸島問題」でした。
2010年9月7日に中国漁船が尖閣周辺で日本漁船と衝突しました。このとき中国側船長の逮捕をめぐり緊張が高まり、日本企業が90%以上輸入依存しているレアアースを中国が日本への輸出を事実上制限しました。このころから、中国はレアアースを経済外交のカードとして使い始めました。
2025年4月には米国による相互関税への報復措置の一環として7種類のレアアースの輸出を規制し、日米の自動車生産に影響が波及し、一部の自動車メーカーが工場稼働を一時停止しました。中国が規制した品目にはジスプロシウムやテルビウムが含まれます。これらは電気自動車(EV)用モーターなどに使われるネオジム磁石の磁力や耐熱性を高めるために添加される重希土類です。
日本も黙っているわけではなく、重希土類フリーや使用量を減らした磁石の開発、重希土類のリサイクル促進などの対応を進めています。また、「中国一強」の打破に向け各国が動き始めています。埋蔵量世界2位のブラジルは24年に同国初の大規模レアアース鉱山の操業を開始しました。日本では南鳥島沖の水深約6000メートルの海底にレアアースを豊富に含む泥(レアアース泥)が堆積していることがわかっています。日本政府は28年度以降を目標にレアアースの生産体制を整える見込みです。
つまり、無ければ困るけれど、供給が不安定になりがちな事態を改善するために、国策としてレアアース生産に取り組もうとしていることが株式投資におけるテーマになっていると解釈すればよいでしょうか。それでは、日本株のレアアース銘柄をご紹介します。
南鳥島海底の試験採掘が始まれば…
■非鉄メジャー 住友金属鉱山(5713)
銅、ニッケル、金、銀など主要金属の製錬を手がける非鉄総合会社です。特徴は資源開発、精錬、材料化の一連の流れを一社で担えることです。
レアアースについてはすでにスカンジウムの回収事業を手掛けている実績があります。
加えて日本最東端の島である南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)内に、世界需要の数百年分に相当するレアアースを豊富に含む「レアアース泥」が海底下5,500~6,000mに堆積が確認されており、2026年から試験採掘がはじまる見込みです。
この事業が商業化する暁には住友金属鉱山の精錬技術が必要とされるでしょう。商業化は2028年に開始見込みで、まだ先行き不透明ではあります。
概して株価のボラティリティが激しい銘柄です。長い目で付き合うことが必要でしょう。PBRは2025年12月10日現在0.8倍程度とやや割安な水準です。
■深海を掘る技術を既に持つ 三井海洋開発(6269)
FPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)やTLP(緊張係留式プラットフォーム)といった海洋油田などの開発・生産に用いられる浮体式海洋石油・ガス生産設備の設計、建造、リース、オペレーションサービスを行う、国内唯一の企業です。
エネルギー関連企業に見える三井海洋開発がレアアース銘柄と呼ばれるのは、住友金属鉱山でも紹介した南鳥島周辺のレアアース採掘に連想されるからです。深海資源の開発技術を保有しているため、将来的な海底のレアアース鉱床開発に対応できると考えられています。
産学のメンバーが連携してレアアース泥の開発技術を確立することで、レアアースの安定供給に貢献 するとともに、レアアースの新たな需要開拓を通じて日本の産業を活性化することを目指して2014年に発足した「レアアース泥開発推進コンソーシアム」(現:「東京大学レアアース泥・マンガンノジュール開発推進コンソーシアム」)のメンバー企業でもあります。
EVに欠かせないレアアースを輸入
■オーストラリアからレアアースを輸入 双日(2768)
総合商社です。前身は日商岩井とニチメンで2004年に合併して設立されました。
2025年10月に出融資する、オーストラリアのLynas rare Earth Ltd(以下「ライナス」)が製造するレアアースの本国内向けの輸入を開始しました。双日は2011年に独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と設立したJAREを通じ、ライナスに総額2億5,000万米ドル(当時の為替レートで約200億円)の融資・株式出資を実施して、ライナスのマウント・ウェルド鉱山開発(オーストラリア)とマレーシア精製プラントのPhase 2を支援してきています。
現在ライナスから日本へ供給される軽希土類は、モーター用磁石の主原料として使用されています。電気自動車(EV)に欠かせないものです。
■塩ビだけではなくレアアースも 信越化学工業(4063)
世界的な総合化学素材メーカーです。日本株投資家なら誰でも知っている企業でしょう。
主力製品は塩化ビニルと半導体の材料であるシリコンウエハーですが、レアアース事業も持っています。
1961年にレアアースの研究を開始しました。その結果の製品が当時普及が始まったカラーテレビに使用されたことが、信越化学のレアアース事業の基礎です。1987年から今日に至るまで大型の製造プラントを稼働させています。
製品は自動車、半導体、医療分野、触媒、光ファイバーなどに使われています。
信越化学工業の中ではまだ目立たない事業ですが、取り組んできた歴史の長さがモノを
いう日が来るでしょうか。過去1年はTOPIXをアンダーパフォームしており、長い目で見れば今がお買い得かもしれません。
小型株だが外せない企業
■非鉄金属の商社流通と製造 アルコニックス(3036)
時価総額700億円程度の小型株ですが、レアアースというテーマでは外せない企業です。
前身は双日の前身である日商岩井が100%出資した日商岩井非鉄販売です。2001年にMBOを実施したのち、レアアース事業に力を入れ始めました。2005年に現商号になり、2006年に株式を上場しています。
2004年に設立した100%子会社のアドバンストマテリアルジャパン(株)はレアメタル・レアアースの専門商社です。
アルコニックスはM&Aに積極的です。レアアースだけではなく、グループ会社入りした製造会社群を成長ドライバーとして育成・発展させてきたことにより、今後市場規模が拡大される分野において、原料・製品から加工・製造製品までを手掛けていく事業領域の広さはレアアースが外交状況によって市況を左右されるという事業のボラティリティを軽減しているとも考えられます。
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