“北海道名物”でもおなじみ、ジンギスカンに再ブームの波が押し寄せている。ただ、この動きに水を差すような事態が起こっているという。発端となったのは12月10日のこと。日本保守党の百田尚樹参議院議員の公設第一秘書で、日本保守党衆議院東京都第29区支部長の小坂英二氏のツイートだ。
〈北海道のジンギスカン人気店とされる「だるま」の経営者の話です。(中略)「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」の初日に注意喚起する次第です〉
現在、この投稿には約300万のインプレッション、400以上のコメントが付いている(12月13日時点)。当該ツイートが示す「だるま」とは、札幌・すすきのに本店を置くジンギスカン店「成吉思汗だるま」のことだ。昭和29(1954)年創業以来、道内屈指の人気店として連日行列をつくる同店にいったい何があったというのか――。
行列のできるジンギスカン店に何が
周知の通り「ジンギスカン」とは、マトンやラムといった羊肉を専用の鉄鍋で焼いて食べる北海道のソウルフードだ。
遡ると2004年頃、BSEで牛肉離れが進んだことを背景に第一次ブームが到来。冷凍技術の進化により、クセが無くて柔らかい生の羊肉が流通したことで、従来の「硬くて臭い」というイメージを一新。さらに脂肪燃焼効果のあるLカルニチンやビタミン、タンパク質が豊富で、野菜も一緒に摂れるとして健康食としてのイメージも定着したことで、男性はもちろん女性からも支持を受け、現在のブームにまで至っている。
すでに東京でも、もの凄い勢いでジンギスカン店が増えている。その中でも今なおブームを牽引する人気店として名前が挙がるのが、「成吉思汗(ジンギスカン)だるま」(以下「だるま」)だ。
札幌・すすきのを中心に6店舗を展開する「だるま」だが、とりわけ人気を集めるのは、やはり創業当初の佇まいを今なお色濃く残す「だるま本店」だろう。北の歓楽街とはいえ、小さな路地を入ったけっして目立った場所にあるわけではない。しかし、雪の日でも行列ができるほどの人気店で、Google評価は4.0、食べログ評価は3.67となっている。
「だるま」は直近でも話題を集めた。それが道外初、それも東京進出のニュースだ。「だるま上野御徒町店」がオープンしたのは2024年7月14日のこと。報道によれば、オープン初日は、開店の17時前から140人の行列ができたという。その話題性は今も健在で、同店の予約サイト(TableCheck)を確認すると、休日などは1週間先も予約でいっぱいというのもザラだ。
ではなぜ、これほどの人気店である「だるま」に、前出の小坂氏はいきなりヘイトを向けたのか。
2007年に発覚した北朝鮮による「対日有害活動事件」
あらためて小坂氏が12月10日、Xにポストした内容を引用する。以下が全文だ。
〈売り上げを過少申告し、所得税約1億7000万円を脱税した容疑で平成19年に経営者の金和秀、徐澄子、李正愛が逮捕。5億円の所得のうち4億6000万円を隠すという確信犯。当時及び現在も社長を務める金和秀は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)北海道本部の大幹部であって、地検は脱税分が北朝鮮に送金されと睨み捜査しての逮捕でした。
北海道のジンギスカン人気店とされる「だるま」の経営者の話です。東京の湯島・御徒町に昨年出店(写真)。先日もブルーサイクル号での帰途に見ると店舗前に行列が。
当時と現在も経営者が変わらない、そして今までの朝鮮総連支援(北朝鮮支援)を総括することもせず、恐らく続けていると類推される主体の経営であることを多くの方に知っていただくべく、「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」の初日に注意喚起する次第です。〉
ここで小坂氏が言及しているのは、2007年に発覚した、「だるま」経営者とその妻による脱税事件を指している。この事件が当時話題を集めた理由は、北朝鮮による「対日有害活動事件」だったことが明るみになった点だ。
実際、逮捕された「だるま」経営者夫妻は、多額の金を北朝鮮に献金。その活動が祖国に貢献したと認められ、特別永住者としては異例の、北朝鮮の勲章「国旗勲章一級」を二度にわたり授与されたとも報じられている。
東京2号店オープンを間近に控える中で…
ただ、これはすでに18年前に発生した出来事であり、現在経営を続けている「だるま」と北朝鮮とを関係づけるものは一切ないことは明記しておきたい。つまりは単なる“過去の事件の掘り起こし”にすぎないのだ。にもかかわらず、なぜ小坂氏の投稿はこのタイミングで注目を集めたのか。
それはひとえに、小坂氏も狙ったのであろう、言及にもある「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」だったことだ。政府は、拉致問題など北朝鮮による人権侵害問題についての関心と認識を深めるため、毎年12月10日~16日の1週間をそう定めている。テレビなど各メディアが北朝鮮に関する話題を報じるなか、忘れている人も多い18年前の事件が再注目された形だ。
また「だるま」自体も東京進出、さらにその店が連日大盛況とあって注目されていたのも要因かもしれない。今冬には1号店と同じ上野御徒町に2号店がオープンすることも決まっており、その注目度が伺える。
ちなみに、投稿から2日後の12月12日、フィガロジャポン(CEメディアハウス)が〈自分らしい働き方を通して社会にインパクトを与える女性を讃える〉ことを趣旨として毎年選出している「フィガロジャポンBWAアワード2025」では、「だるま」で総務部長を務め、4代目とも目される、金天憓(きん・ちょね)氏が選出されている。
ジンギスカンの世界でもビジネスの世界でも存在感を増す「だるま」。同店のキャラクターである達磨大師のように“七転び八起き”、ヘイトにも負けず、ブームを牽引し続けてほしいところだが――。
では、当のジンギスカンの故郷、北海道の道産子たちは「だるま」に対してどのような感情を抱いているのか。【後編記事】『「今でも脱税事件が頭をよぎる」東京でも大行列「ジンギスカンだるま」に北海道民が絶対に行かない《根深い理由》』へつづく。