11月21日、2027年前期のNHK朝の連続テレビ小説『巡るスワン』の制作が発表された。そこで主人公の警察官を演じるのが森田望智さんだ。脚本は初の朝ドラに挑むというバカリズムさん。『お帰りモネ』『虎に翼』と朝ドラに出演してきた森田さんが、満を持してヒロインを演じる。
警察官を演じる森田さんが「警察に追われる側」になりそうな役を演じているのが、11月28日から全国公開する映画『ナイトフラワー』である。
本作は『ミッドナイトスワン』『マッチング』などの内田英治監督によるオリジナル作品。森田さんは北川景子さんが演じる主人公・夏希と出会い、夏希のふたりの子どもたち含めて強い絆をつくっていく多摩恵を演じている。
夏希は子どもたちの将来のために、ドラッグの売人になることを決意。格闘家でありながら風俗店で働いていた多摩恵が、幼馴染みで家族のような存在の海からドラッグの元締めを紹介してもらい、二人でタッグを組んで闇の世界に入っていく。
シスターフッドを描きながら、愛や貧困、負の連鎖など多くのことを感じさせる本作に出演した森田さんにインタビュー。その前編では、これまでの役とは一変し、体重を7キロ増量させ、見事なファイティングを見せるまでに至ったトレーニングや役作りについて聞いた。後編では、過酷な練習のあとに救いとなった共演者への思いや、映画のテーマでもある「守りたいもの」について聞いていく。
「一人じゃない」と思えました
「心が折れそうな時が、本当に何度もあったので……。そういう意味では、撮影が始まって“みんながいる”っていうのが本当に救いでした。だから、キャストやスタッフのみなさんと一緒にいられる撮影では『一人じゃない』とすごく思えました」
森田望智さんは、格闘家の多摩恵を演じるためにハードな練習を重ねたあとのことをこう語った。
主人公で、森田さんが演じる多摩恵と強い絆を紡ぐ夏希を演じた北川景子さん、幼馴染みとして支え合ってきた海を演じた佐久間大介さんは森田さんにとってどのような存在だったのだろうか。
森田望智(以下、森田):「最初に北川さんにお会いしたとき、『本当にお綺麗な方…!』というのが率直な第一印象でした。それ以上に、すごく気を配ってくださる方で。『大丈夫?』『休めてる?』って、いつも体のことを気にかけてくださいました。現場でのそのひと言ひと言が本当に心にしみました。北川さんがいてくださったおかげで 、多摩恵として自然にいられましたし、『この人のために立ちたい』って気持ちが自然と出てきました。
佐久間さんも、優しさや心遣いにあふれた方でした。さらに、明るい雰囲気づくりという点でも、現場のムードメーカーとして支えてくださいました。多摩恵と海の関係って、普通の友達や恋愛とは全然違う、“深いところで繋がってる関係”だと思っていたので、佐久間さんの存在があったからこそ、その関係性が自然にできていきました。練習の苦しさも、多摩恵の過去も含めて全部“分かってくれている”という安心感がありました。本当に『救われた』という気持ちに近いです。
多摩恵という役はすごく孤独で、心が乾いていて、痛い経験をしてきた人だから、その分、現場での繋がりがとても大きかったです」
多摩恵として立つとき、自然と“乾いた心”に戻れた
多摩恵はストイックに格闘技に向き合いながら、生きるために風俗の仕事をしている。佐久間さん演じる海との会話から、この二人が幼いころから家庭環境に恵まれず 、親からの愛情を受けずに育っていたことが伝わってくる。「心が乾いている人」と感じたのはなぜだったのだろうか。
森田:「最初に内田監督から多摩恵は『心が乾いている人』と言われていたので、そこはずっと意識していました。また、『男性の仕草をちょっと真似していいと思う』とおっしゃったので、自分の中で役作りに取り入れていきました。例えば、食べ方だったり、足を少しガニ股にしてみたり。肩を中に入れて構える癖も、格闘技の練習を続けるうちに自然とついていきました。
練習の成果というよりは、“癖”になっていきました。走り方については本当に難しくて、監督と一緒に練習した日もありました。でも、そうした身体の癖を踏まえつつ多摩恵として立つことで、自然と“乾いた心”の状態に戻っていくような感覚が生まれていったのだと思います」
前編でも触れたが、これまでの森田さんが演じた役のふり幅を考えても「憑依型」といわれる所以がわかる。その役をプライベートに引きずることはないのだろうか。
森田:「私は“ずっと役でいる”ことはあまりできなくて、家に帰った瞬間には、ものすごいスピードで自分に戻ってしまいます。でも、役を一度掴めると、撮影の現場で衣装を着たり、多摩恵としての立ち方や歩き方をすることで、自然に切り替われるように思います。
今回はその“入り直す感じ”がとても大事で、多摩恵に戻るための“扉”のようなものが、体の動きや立ち方にあると感じました。
最初は格闘技のすべてが大変でしたが、続けていくうちに体が自然と身についていったのを実感しました」
「氷艶」でスケートを生かせたのはすごく嬉しかった
森田さんの話を聞いていると、まるでアスリートのようだ。そういえば高橋大輔さんが主演・プロデュースをつとめる氷上エンターテインメント『氷艶』では見事なスケートを見せていた。
森田:「スケートは4歳から9年ほど習っていました。最初は衣装がかわいいという理由で始めたのですが、実は後から母が習わせたかったんだと知ったんです(笑)。もちろん、習っていくうちに自分でも好きになって続けていましたが、同時にこの世界の厳しさも知りました。リンクに入った瞬間には、『うわ、この世界はすごい……』と感じることが多かったです。正直、選手になれるとは一度も思ったことはありません。でも、大会の振り付けやフェスティバルでのダンスはずっと好きで、とにかく踊る時間が一番楽しかったです。
だから今回、『氷艶』でスケートに関われたことはとても嬉しかったです。ダンスやスケートはずっと自分の中にありましたが、中々活かせる場がなかったので、『やっと恩返しできる場が来た!』という気持ちでした。その経験は、格闘技の練習をしている中でも役立ちました。『ここはスケートのあの感覚に近い』と、自分の中でつながる瞬間があり、それがとても心強く感じられました」
「守りたいもの」
多摩恵はそれまで「心が乾いて」いて、格闘技以外のなにかに夢中になるということがなかったが、夏希たちと出会い、この家族を守りたいと感じる。では森田さん自身は何か守りたいものはあるだろうか。
森田:「“自分自身を大切にすること”を守りたいです。でもそれ以上に、自分の周りの方々の幸せを願う気持ちのほうが強いです。家族も友達もペットも、大事な人たちがみんな、穏やかで温かな日々を過ごせますように」
智を望むと書いて「みさと」と読む。「智」は仏教でいえば、深い洞察や理解をもたらすものとされているし、儒教で言えば、ものの道理を知り、正しい判断を下す能力のことを言うという。「守りたいもの」について「家族も友達もペットも、大事な人たちがみんな、穏やかで温かな日々を過ごせますように」と答える森田さんは、この世の中について深い洞察をもって理解し、すべての人にとって正しい社会を望んでいるように思う。
そしてこの優しさが、演じる人そのものを役として生きるべくハードなトレーニングをし、「憑依」したようになるベースにあることは間違いない。
森田望智(もりた・みさと)
1996年9月13日、神奈川県生まれ。2011年にテレビCMでデビュー。Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』(2019)で第24回「釜山国際映画祭2019」アジアコンテンツアワード「New Comer賞(最優秀新人賞)」受賞。ドラマ『おかえりモネ』(2021)『作りたい女と食べたい女』(2022、2024)『雪国』(2022)、『最高の教師』(2023)、『虎に翼』(2024)、映画『シティーハンター』『ナイトフラワー』など出演作多数。2027年前期のNHK朝の連続テレビ小説『巡るスワン』でヒロインをつとめることも発表された。特技はフィギュアスケート・クラシックバレエ。
『ナイトフラワー』
借金取りに追われ、二人の子供を抱えて東京へ逃げてきた夏希は、昼夜を問わず必死に働きながらも、明日食べるものにさえ困る生活を送っていた。ある日、夜の街で偶然ドラッグの密売現場に遭遇し、子供たちのために自らもドラッグの売人になることを決意する。
そんな夏希の前に現れたのは、孤独を抱える格闘家・多摩恵。夜の街のルールを何も知らない夏希を見かね、「守ってやるよ」とボディーガード役を買って出る。タッグを組み、夜の街でドラッグを売り捌いていく二人。ところがある女子大生の死をきっかけに、二人の運命は思わぬ方向へ狂い出す――。
インタビュー・文/新町真弓(FRaUweb)