米国内で唯一、売春宿の経営を合法化しているネバダ州。認可された施設内でのみ性的サービスが認められ、厳格な衛生管理のもとで営業している。その中でも最大規模を誇る「Chicken Ranch」で働く女性たちは、自らの仕事に誇りを持っている。学費のため、自由な生活のため、あるいは家族を支えるため——。それぞれの事情を抱えながら、この職業を選んだ女性たちの生の声を聞いた。
【前編】『学費を稼ぐためにアダルトフィルムに出演…アメリカの売春婦が「自由で幸福」を感じているワケ』
夢は「音楽学校を開くこと」
インタビューに応じてくれた2人目は、シーナ・リードと名乗る31歳だった。中国名でポルノに出演した経験があると言った。とはいえ、中国にルーツがある訳ではない。
「ほんの少し、中国に住んだことはありますが。テキサス州ダラスの近郊にある、人口10万人以下の小さな街で生まれ、育ちました。周囲には牧場が広がっていましたね。父親は石油会社で肉体労働をしていました。母親は小学校の教師でした。
私、両親から、人生に関する助言をされた記憶が無いんです。思い返せば、彼らは日々の生活で精一杯だったので躾まで意識が回らなかったのではないかと。私は一人っ子ですが、本当に親の教育って覚えていません。幼少期は田舎でのんびりと、犯罪や隣人トラブルとは無縁の穏やかな生活を送っていました」
リードは訥々と自分の歩みを話した。
「いつの頃からか、音楽がとても好きになりました。中学生の頃には、オーケストラや合唱隊の指揮者になることを夢見ていました。クラシックが好きで、特にブラームスがお気に入りです。毎日のように聴いていましたね。そして、メロディをハミングしていました。次第に、歌うことに喜びを見出しました。
学校名は言いたくないのですが、音楽専攻で4年制の大学を卒業しました。指揮者になりたかったけれど……、なかなか難しく、音楽教師になったんです。大学を卒業し、中国深圳市で高校の教壇に立ちました。英語も教えていました。歌と音楽理論を担当しました」
異国の地で道を拓き、夢に近付こうとした。
「14歳の頃から、ずっと指揮者を目指してきました。それが無理でも音楽の世界で生きていたかった。中国では自分の技術を磨く仕事を探したんです。でも、一緒に働く多くの人が正直ではないことに気付きました。同時に自分に適した場所を見つけるのに苦労しましたね。その後、故郷に戻って小学校の音楽教師になったんです。
中国でもアメリカでも、学校で教えながら指揮者になるのはほぼ不可能です。なぜなら、勤務時間のほとんどを授業の準備、カリキュラム作成、保護者との話し合いに費やさねばならないからです。私は自分の音楽学校を創り、そこで思い切り若い世代に音楽の魅力を伝えたいと考えるようになりました。だから今、教師ではなくこの仕事をやっているんです。資金を貯めて自分の学校を開きたい。大人向けの、いわばプライベートな音楽学校です。テキサス州かもしれないし、もしかしたらネバダ州に築くかも。まだわかりませんが、いつか生徒たちと歌う日が来ることを願っています」
お客さんとのセックスにも満足している
カネを作る手段として選んだのが、合法売春宿だった。
「テキサスに戻ってから、トータルで5年ほど教師を務めました。私は、自分の学校設立を実現しようとしているので、仕事に追われて恋愛をする時間なんてありません。常々おカネになる方法を探しています。でも、道は険しく、苦しい状況に堕ってしまったんです。そんな時、友達がネバダ州に存する合法売春宿を教えてくれ、2022年から働き始めました。
2週間の勤務で3万ドルくらい稼げるかな。でも、まだまだ十分ではありません。スタートしたのは別の売春宿ですが、Chicken Ranchには週末にゲストが泊まるスイートルームがあって、収入を得るチャンスが大きいんです。居心地も良く、もう3年になろうとしています。仕事はとても楽しいですよ。不満はありません。
私を指名してくれるお客さんとのセックスにも満足ですね。私がここにいる理由の一つは性欲が強いからなんです。だからお客さんと過ごすのは魅力的。Ranchの仕事って、バーで出会った男性と一夜を共にするよりも安全でしょう。ここでは私にアポイントメントを入れたクライアントとの時間を共有するんですから」
Chicken Ranchを定点観測するようになってから、複数の娼婦をインタビューしてきたが、自ら「肉欲が強い」と述べた女性は数えるほどだ。リードはその一人だった。確かに、どんな職業でも耐えるだけの苦行では続かない。そこで、筆者は質問した。
――音楽を教えることとカスタマーとのセックスに、何か共通点を感じますか?
リードは間髪を入れずに答えた。
「はい。自分を捧げる点ですね。小さな子供と接する時って、その子の服についた鼻を拭き取ってやるのも仕事です。子供特有のあれこれを全部やらされるから、冗談で、ずっと”気持ち悪い仕事”だって言ってきました。Ranchでは、とにかくお客さんを満足させねばなりません。ただ、ここでお客さんとセックスすることについてネガティブな気持ちは全くありません。Ranchでは思ったことを自由に言えますしね。学校では、自分の感情を出す行為って許されないんです。全て監視されていますから。特定の話題について話すこともできない。
アメリカの本来あるべき姿とは正反対で、共産圏みたいになりつつあります。校長が教室に入ってきて『あれは言ってはいけない、これをしてはいけない』と忠告してくるんですよ。生徒たちに真実を伝えるのが教育者の務めな筈ですよね。反面、売春宿では誰もが本音を言い合えるんです」
男性のケアの側面もある
インタビュー開始時はおとなしそうな雰囲気を漂わせていたリードだったが、時間の経過と共に気の強さが伝わってくる。
「大人になって、改めてブラームスに惹かれました。彼の曲は幸せそうに聞こえるものも、喜びに満ちた音色でも、どこかに苦悩や現状から脱したい向上心が感じられるんです。私には、彼の深い痛みが聞こえてくるんですよ。私もRanchで働き始めた初日は……」
数秒間の沈黙の後、彼女は語った。
「最初のお客さんは年配の男性で、私もどうなるか分からない不安を抱えていました。今までおカネとセックスの交換なんてしたことが無かったですから。でも、行為の終わりには、彼が背負っていた重荷が軽くなったように見えたんです。変な表現かもしれませんが、お客さんが神に守られているかのように思えた…。その男性の体から苦しみが消え去り、自分は正しい場所にいるんだと感じました。これは私にぴったりの仕事だと実感できたんです。私が迎える男性たちは、どこか悲しそうで、控えめな様子でやって来るのですが、部屋を去る折には笑顔で人生に立ち向かう準備ができたかのようになります。
先日も奥さんを亡くした方がいらしたんです。悲しみに打ちひしがれながらも、性欲が湧いたと訪ねて来ました。私の部屋に入った時、彼は少し泣いていました。お付き合いしている女性はいないと言っていました。数年間の介護を終えてお別れの時を迎えたと。当時の話をされ、その嘆きが止まらなくなって雪崩のような感じでした。私は精一杯、淋しさを紛らわせたいと思いましたが、十分だったかどうか……でも、彼は帰り際にお礼を言ったんです。その一言が忘れられません」
リードは野心も話した。
「音楽学校を開設するのに、50万ドルは必要になるんじゃないかな。自分の土地を所有して、借入れなしで従業員に給料を払えるようになりたいです。200人くらい生徒を集めたいですね。歌うことが好きな人が集まり、私が指揮をして合唱する日々を送りたいです。とにかく音楽漬けの生活がしたい。
Ranchビジネスのトップが120万ドル稼いでいるのなら、当然、私も狙いますよ。素敵な学校を開校したいですからね。生徒の面倒を見ながら、良い音楽を作りたいです」
彼女にとって娼婦は、あくまでも夢を実現するための手立てであるようだ。ブルーのチャイナドレスに身を包んだリードは、別れ際、小さくお辞儀をした。
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